短編 怪談

異次元の町|大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談40

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第40話:異次元の町

始めにお断りしておきますが、このお話を読んで、貴方の身体に何らかの異常が起きても、私は一切責任を取りません。

実は、私は最近まで心不全で入院していたのです。

色々な霊体験を人にしゃべり過ぎたせいと思うのは、少し考えすぎと言われるでしょう。しかし、私にはそうとしか考えられないのです。

あれは私が19才の夏。私はあの頃、札付きの悪でした。

マフラーを改造した車を乗り回し、暴走族と呼ばれて……

その日も夜遅くまで、港で仲間たちとたむろしていました。

その港にはプレハブの小屋があって、そこがいつも私達の溜まり場でした。

べつにこそで”集会”をするほどの事でもない、たわいない話で盛り上がり、タバコを吸うだけでした。

いつものように集会が終了し、四日市から名古屋方面に走ることになったのでした。

私は仲間を二人乗せて走り始めたのですが、途中、四日市と桑名の中間にあるTという町で、不意にチームとはぐれてしまったのです。

その結果、あらかじめ決めておいた名古屋近くの集合地点に早く合流するため、近道をすることとなりました。

国道1号線から23号線に入ろうというのです。

「よし、こっから真っ直ぐ23号へ突き抜けようぜ」

そう言って近道をしようとした所は、いつも見慣れた町の路地でした。

街灯がポツポツとたっていて、通りぬけやすい道です。

そうして、しばらくその路地を走っていたのですが、不思議な事に道幅は狭まり入り組んだ道路になってきたのです。

「あれ……こんなとこ、あったかなぁ?」

私達は地元の人間だというのに、とうとう道に迷ってしまったのです……

「なんだ……ここは……おかしいなぁ。ここはTの辺りのはずだろう?そろそろ、大通りに出てもいいんじゃないのぉ?」

ぶつくさ言いながら、二十分ぐらい元の道に戻るため悪戦苦闘していました。

時計を見ると、深夜三時。もう、合流地点にはみんな、とっくについている時間です。

すると、私たちの車の走っている狭い路地の向こうに、銭湯がぽつりと見えました。

「こんな真夜中まで、銭湯やってんだなあ」

その時、少し不思議に思いましたけど、道に迷ってるのでそれどころではありません。

ぼんやりと明かりのついた銭湯が、だんだんとこっちに近づいてきます。

そして、私達の車がゆっくりとその銭湯を通過しようとしたときです。

その銭湯の前には、病院で着るようなネル地の着物を着た老人が2ー三人、風呂バケツを胸の辺りに抱えて、ボーッと立っているのが見えました。

「ふーん、やっぱりこんな時間でもお風呂、やってるトコあるんだ」

そう心の中でつぶやきました。

ところがその老人達、なにか顔の輪郭がはっきりしないんです。なんだか目つきがうつろなんです。死んだ魚の目みたいに……

私は、その中の一人の老人と、追い越し様に視線が合いました。ゾーッと背筋が寒くなったのを覚えています。

なんだか妙な雰囲気だったので、老人たちを追い越した後、バックミラー越しに目で追ったのですが……いえ、追おうとしたのですが、バックミラーにはそれらしきものが映らないのです。

おや?と不思議に思った私は、すぐに車を止めて、後ろを振り返ってみました。

ところが誰もいないんです……

今さっきまで、ボーとついていた銭湯の明かりも、いつのまにか消えてますし。

なんだかまたゾーッとしたので、すぐに車を発進させ、その場を去りました。

そうしたら仲間の一人が、「よお、どうした?急に車止めて……なんか後ろにあったの?」と聞いてきます。

そこで、さきほどの銭湯と老人の事を説明しました。

でも、「えぇ?そんなの見てねぇよ」と、助手席に座っていた方は言います。

何も見えなかったし、銭湯自体が無いといいます。

「またまたぁ、おめえ、驚かそうしてんなぁ?」

そういうと、「いやいや、マジでマジで。ホント見てねぇってば」と真剣な表情です。

ここで、この助手席の彼について付け加えましょう。

彼は、いま私達が迷っている、Tという町で生まれ育った人間なのです。そして、この場所には絶対に銭湯は存在しないというのです。

そんな彼も困っていました。なんせ、知っているはずの道で迷ってしまったわけですから。

また、後部座席に座っていた方は、ちゃんと見えていたようです。しかし、反応は違いました。

「風呂屋のまえに、白い大きな煙の固まりが漂っていたよな」というのです。

私は、確かに「ゆ」と書かれたのれんを見ました。古い感じの銭湯だったんですが……

断っておきますが、その当時、確かに私たちはワルでしたが、しかし、シンナーをはじめとする「薬」には決して手を出していません。それに、お酒も飲んでいませんでした。

私たちは、そんな事を言っているうちにとても怖くなり、狭い路地の中で急いで車を走らせました。

爆音を上げる私達の車……だけど、2時間走ってもその路地から抜けられないんです!

「おい……もう朝の五時になるぜぇ……どうかしてるぜ……」

そこで私自身、気が動転してると思いました。

そして、助手席の彼と運転を交代したのです。でも……さらに2時間走っても抜けられないのです。

「おい……もう朝の7時じゃねぇか」

そこで妙なことに気付きました。

星が出てますから天気は良いはずです。もうそろそろ、夜が明けてもいいくらいです。でも不思議なことに、全然、夜が明けてくれないんです。

それに車も一台も通っていません。おかしいと気付き始めたときには遅かったんです。

「よお、いったい、どうなってんだ?」

もう全員がパニックでした。とにかく、こっから早く出たい、と必死でした。

そうしている内に、どこをどう回ったのか、狭い交差点にたどり着きました。

正面は人家の路地、行き止まりです。左の道は狭すぎる。後ろに引き返そうとするには、Uターンができない。そんな、都合の悪い交差点でした。

ふと、その交差点の右側を見ると、病院らしき建物が建っていました。数階建てのその古い建物には、均等に四角い窓がならんでいました。真っ暗で誰もいないように見えました。

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私達は、その病院のわきの少し広い道を通り抜けようとしました。

が、その道の真ん中に一台の車がぽつりと止まっていて、うまく通り抜けられるかわからないといった状態でした。

「おいおい、通れるのかよ」

仲間が仕方なく、無理をしながら、その車の右側をゆっくりとすり抜けようとするその間、私は病院のほうを見つめていました。なぜか目が離せなかったのです。

すると、いままで誰もいなかった病院の窓に、ポツリポツリと老人らしき人たちの姿が見え始めました。

そして、おやっと思っているうちに、病院の窓という窓全てに顔の輪郭のはっきりしない老人が群がってきました。

そして全員で窓を、ダン!ダン!ダン!とたたいているではないですか!

これは絶対にまずい!と思いました。そして反射的に私は目をつむり、南無阿弥陀仏と心でとなえました。

そしてしばらくして目を開けました。見ると驚いたことに、右で運転している仲間は平然としているではないですか。

そして彼は何を思ったか、車が通れるか通れないかぐらいの角を、急角度で突然曲がりました。

そこは私達が初め路地に入ろうとした所に似ていました。それは見覚えのある交差点に見えたのです。そうです、私達は振り出しに戻れたのです。

みんなはその交差点を見て、ホッとしました……時計を見ると朝の8時。

いつのまにか夜が明けていました。

ヘッドライトを消し忘れていた事に気付いたぐらいです。

「あれはなんだったんだろう……」

正確なことは何一つわからずじまいでした。

それから1週間ぐらいたって母親にそのことを話したんです。

母は、こう答えました。

「私も、よく似た体験をしたことがあるわ。去年の夏よ。夕方ね、実家に帰ったの。それから夜の八時頃まで、ずっとそこにいたわ。帰りは、弟のバイクの後ろに乗って帰ることになったの。途中でね、近道をするために、ちょっと寂しい山道に入ったのよ。そしたら道端に老婆がいて、その人と視線があったの。それからが大変だったのよ。どこをどう走っても、山から出られなくなったんだから……」

結局家についた時は、それから6時間もたってからだったという。

母の実家は同市内で、近道したら単車で二十分もかからない。

その話を聞いて、私はまた背筋が寒くなる思いでした。

この町には不思議な老人達だけが支配する、”異次元の町”がどこかに存在しているのでしょうか……

実は、この話には後日談があります。

あれから1ヶ月、なんと私達三人共、ほぼ同時期に事故を起こしているのです。

軽い怪我ですみましたが、私はトラックとの追突事故です。

後部座席の人は、なぜか行方不明になりました。

そのことを心配した運転手の彼は、後部座席の人を捜しにいったのです。

その途中、電柱に激突。

そして、これは後からわかったことなのですが、行方不明だった後部座席の人というのも、実は事故を起こしていたのです。

そして2ヶ月間も意識不明になり、生死の境をさまよっていたのでした……

私達はあの時、不気味な老人たちが支配する”見てはいけない空間”をのぞいてしまったのかもしれません……

[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]

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