第19話:公園
私が、まだ小さい頃に体験した奇妙な話をいたしましょう。
当時、私は体が小さく、やせていて、とてもひ弱な感じのする子供でした。
そのためでしょうか、よく同じ年頃の子供たちにいじめられていたのです。
私の場合、いじめの舞台は公園でした。
母親の仕事の都合で、私はその公園で、1時間ほど、母親が迎えに来るのを待っていなければならなかったのです。
その日私は、ブランコで遊んでいました。
ブランコは私のお気に入りで、一人で遊んでいても結構楽しめたからです。
もっとも、ブランコはほかの子供たちにも人気があったので、競争率が高く、わずかしかないブランコはなかなか空きませんでした。
珍しく空いたブランコに私は飛び乗ったのです。
すると、砂場で遊んでいたいじめっ子たちが、私の乗っているブランコの脇に駆け寄ってきました。
私はきっとまたひどいことをされるんだろうと、ハラハラしていました。
彼らはニヤニヤしてお互いに顔を見合わせると、私の乗っているブランコに勢いをつけ始めました。
ブランコの両脇に立った男の子が、ブランコの鎖を掴んでは、前へ後ろへと勢いをつけていくのです。
すぐに飛び降りれば良かったのですが、怖くなった私は逆にますますしっかりとブランコの鎖を握りしめていました。
ブランコはグングン勢いが増します。
「やめてぇぇ!!」
私は叫びました。
しかし、いじめっ子たちは私の叫びを聞いて、余計に調子に乗ります。
「やめてぇ!落ちちゃうよー!!」
私はほとんど泣きそうになっています。
しかし、いじめっ子たちは一向にやめてくれません。
そして、ついに私の握力も気力を尽きてしまいました。
ブランコが前に揺れたとき、私の体は宙に放り出されました。
いじめっ子たちの「あっ!!」という声が聞こえた気がしました。
放り出された私の体は、空中で一瞬止まったかと思うと、頭を下にして落ちていきました。
しかもそこには、ブランコを囲うようにして設置された、太い鉄パイプのフェンスが私を待ち受けます。
不思議と全てがハッキリしていました。
鉄パイプが迫ってきます。
私は目を閉じました。
そして、心の中で叫びを上げました。
「助けてっ!!」
その時、不思議な力に支えられたような感じがしたかと思うと、私はフェンスを避けるようにして、しかも、お尻から地面に着地できたのです。
恐る恐る目を開けると、いじめっ子たちが私を取り囲んで、狼狽えるような目を向けていました。
私は一瞬、大声で泣きたくなったのですが、なぜかそうせず、かわりにすくっと立ち上がって、いじめっ子たちを睨みつけ
「今度いじめたら許さないから!!」と言ったのです。
これには、いじめっ子たち以上に、言った私のほうがビックリしてしまいました。
なんだか、自分が言っているとは思えなかったんです。
まるで、誰かが私の口を借りて、私をかばってくれたようでした。
そのとき母が私を迎えに来てくれました。
いじめっ子たちは、私がこの話を母に言いつけるのを恐れたのでしょう。
蜘蛛の子を散らしたように公園から走り去りました。
私は母親の声を聞くと、思い出したように泣き出してしまいました。
そして、さっきの出来事を話しました。
母はいじめっ子たちにとても腹を立てていました。
そして、私が誰かに支えられた感じがしたと話すと、少し驚いて、何か考え、こんな話をしてくれました。
母の話では、私がまだ赤ちゃんだった頃、この公園の前の道で車にひかれ亡くなった子がいたらしいのです。
その子はとてもブランコが好きでした。
ある日、その子がこの公園に来てみると、いつもは必ず誰かに使われていたブランコがたまたま空いているのが、道の向こう側から見えたのです。
それでその子は嬉しくなって、つい駆け出してしまったそうです。
そして、事故に遭ったのでした。
「きっとその子がお前を守ってくれたんだよ」
母は言いました。
まだ小さかった私は、こういう話を理解することはできませんでしたが、なんとなく味方というか、友達ができたようで、心強く思いました。
母親に連れて帰られる時に振り返ると、私が落ちてから誰も乗っていなかったはずのブランコが、いつまでも揺れ続けていました。
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]