これは、老人介護施設で働いている友人から聞いた話だ。
314 :本当にあった怖い名無し:2022/04/23(土) 23:38:45.20 ID:hxg0vVi+0.net
その友人が入職したばかりの頃、指導係の先輩が一人ひとりの入居者の情報を教えてくれたという。中でも、あるご夫婦のことが印象に残っている。
奥さんは認知症が進行し、旦那さんが介護できないため、他に身寄りもない二人は一緒に施設に入居することになった。指導係の先輩は、「二人を決して離さないで」と厳命したという。
緊張していた友人は、「トイレやお風呂もですか」と尋ねてしまった。すぐに後悔したが、先輩は「そうだ、トイレや風呂の時も離さないで」と答えた。
友人はどんなご夫婦なのか興味を持ったが、実際に会ってみると、二人はいつもニコニコして手をつなぎ、まさに仲睦まじい夫婦そのものだった。旦那さんは物腰柔らかで、奥さんはほとんど喋らないが穏やかな笑顔を浮かべていた。
月日が経ち、友人も指導する立場になった。ある日の午後、新人の職員が青ざめた顔で「大変です!」と駆け込んできた。友人がついていくと、例のご夫婦の部屋に到着した。
ご夫婦は相変わらず手をつないで仲良くテレビを見ていた。新人君は「勘違いでした、すみません」と謝ったが、気になった友人が詳細を尋ねると、新人君は泣き出した。
異臭がするということで、ご夫婦の部屋に行くと、奥さんが漏らしていた。別の職員が奥さんの世話をしている間、新人君は旦那さんと二人きりになった。すると、旦那さんの顔がみるみる苦悶に満ち、しがみついて懇願してきた。
「どうか助けてくれ。おれはあいつとは無関係で夫なんかじゃない。いつの間にかここに入れられ、ずっと手を握られて逃げられない」
新人君は友人を呼びに行ったが、友人は「初日にはよくあることさ」と言って新人君を早退させた。その後、友人は指導係の先輩に報告した。先輩はため息をつきながら言った。
「そうだよ。二人を離すと旦那さんの方が厄介になるんだよ」
それ以来、友人はあのご夫婦の手を決して離さないように心掛けているのだという。
何が真実なのか、誰も知る由もない。
ただ一つ、手を離すことだけは絶対に避けなければならないのだ……