長編 怪談

病院の怖い話と怖くない話2【ゆっくり朗読】1300

更新日:

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227 :病院の名無しさん:2019/08/12(月) 19:59:41.17 ID:bMTfGBah0.net

エスカレーター
病院に行く人は足の悪い人もいるし何より老人が多いのに、エスカレーターって危ないんじゃない?
て話をした。
「うちでエスカレーターがあるのってB棟だけ。で、B棟って旧本館の次に古くて」彼女は話す
「急ぎの時はエレベーターは遅いから階段使うんだけど、B棟の階段って色々話があるのよね」
「踊り場の壁に血の跡みたいなのが浮きだしたり、夜使うと足を掴まれたり」
「で、職員が団結して抗議して、エスカレーター作ってもらったの」
話の内容は分かるんだけど、なんか他にやり様はないか?と私は思った。

 

ボールペン
彼女がナースセンターで夜勤してると、別の机のボールペンが立ち上がって書類に何か書き出したんだって。
びっくりして飛び出して同僚を見つけて一緒に戻ると、ボールペンは既に倒れていて、
書類に書いてあったのは文字でも絵でもない何かぐちゃぐちゃしたものだったらしい。

 

酒飲み
病院の近くに喫茶店というか洋食屋さんがあって、そこは午前からアルコールも出してくれるので、
呑み助の看護師は夜勤明けにそこで生ビールを飲むのを楽しみにしてる。(彼女もその一人)
たまに入院中の患者さんと鉢合わせする事もあるんだけど、「ダメでしょ」とお説教するのも何か気まずいので見て見ぬふりをするんだと。
でもある時、こいつはさすがにダメだろって患者さんを見つけて、(肝臓の数値的な意味で)声を掛けたら
「どうせ老い先長くないんだから好きにさせろ!」
まあ分からないでもないけど、担当の先生に報告したのね。
そしたら先生は次の処方箋に中にある薬を加えたの。
こんな薬があるなんて私は知らなかったんだけど、アルコールを摂取すると気分が悪くなる薬ってのがあるの。
で、気になって何とはなしにその患者さんを気にかけてたら、時々トイレに閉じこもって、どうやら吐いていたらしい。
でも酒は辞めなかったみたいで、入院中にお亡くなりになった。

それから、そのトイレの個室で時々「ねーちゃんおかわり」って声が聞こえるんだって。
ちなみに、今は薬の効能を説明しないといけないという義務が法律で決まっているのでこういう事はできないそうだ。

 

病院食
病院食って美味しくないっていうのは定番ですよね。私もそう思います。
で、あるおじいさんの入院患者が「こんな味の無いものが食えるか!!」「わしは家畜じゃないぞ!!」
まあ言いたいことは分かる。
病院食は(病院によるけど)グレードが選べて、まあ要するに松竹梅ってやつなんだけど、松でも文句を言う。
しかしこのじーさんなんでも名家の当主らしくて、やたら態度がでかくてみんなに嫌われてた。
夜中に10回くらいトイレの介護に付き合わされて、あげく「出んかった、どうなっとんじゃ」知るか!

同僚と相談して、少し離れた場所に"王将"があるんでそこに買い出しに行って持ち帰りをして、
さらに塩コショウを増量して"特別食"として提供したら、うまいうまいって喜んで食べてた。
血圧はどんどん上がり先生も不思議がってたんだけど、「何かコンビニでしょっちゅう買い食いしてるみたいです」みたいな話でごまかしておいた。
で半年待たずに亡くなった。
ちなみに入院中親族のお見舞いは一人も無かった。

 

入院費
ある高齢の患者さんで、生活保護を受けてる患者さん。
診察なら生活保護の場合は無料なんだけど(これは別の意味でオカルトだ)
入院となるとそうはいかない。
肝臓と腎臓を患っていてなかなか退院できない。
事務長も頭を悩ませていて、なんでかと言うと生活保護の金額ではとても入院費用は賄えないから。
生活保護受けてるって事は身内にも頼れない。
「いっその事死んで頂いたら」と、口には出さずに思ったそうだ。

でもそういうのってなんとなく伝わるようで、患者さんは一カ月も過ぎないくらいで自ら命を絶ったそう。
彼女曰く「今までお世話になりました」の一筆ぐらい残せよ。

 

彼氏
若い娘さんで、心臓が悪くって入院してたのね。
彼女には彼氏さんがいてまめにお見舞いに来てたの。微笑ましい話だよね。
でも状態が悪くなって緊急手術になったの。ちょうど彼氏さんも来ていたんだけどさすがに入ってもらうわけにはいかない。
じりじりした表情で椅子に座って待ってる彼氏さんを見るのは正直切なかった。
でも結果的に彼女は短い生を終えた。切ないよね。

で、後日その彼氏さんを見かけた。もうここに用は無いはずなのに。
新しい女性の患者さんで心臓が悪くて入院している患者さんがいて、そのお見舞いだと受付の人から聞いた。
ぞっとした。あいつ死神か?

 

エレベーター2
前にB棟のエレベーターの動きが遅いって話が出てたけど、理由があるらしい。
昔病棟で行方不明になった患者さんがいて、さんざん探し回ったんだけど見つからなくて、
数か月後にエレベーターの地下階のスプリングのある場所で発見されたんだって。ほとんどミイラ化した状態で。
今ならマスコミが騒ぎ立てるんだろうけど、当時の職員だって懸命に捜索やって家族にも連絡して、やるべき事はやった。
なのでそんなに世間には取り上げられなかった。

それにエレベーターのドアはどれも壊れてなくて、プロレスラーくらいでなきゃ素手で開く事なんてできっこない。

でも院長の指示でエレベーターの業者を呼んで、速度を落とすように調整させたらしい。(それ改善策になるんか?)

 

救急車その2
患者さんを運ぶコロコロのついた担架あるよね。
ちゃんと点検していたらしいのに、ある時患者さんを下ろしたら担架の足ががくんと折れて患者さんの頭が車の後部に凄い勢いでぶつかったんだって。
「幸い車に乗せた時に既に息は無かったからよかった」おいおい。

 

しゃっくり
しゃっくりが一日続くと死ぬ、という迷信があるよね。
ある病室で、「隣のベッドのしゃっくりがうるさい」という苦情があったの。
ほとんどの時間同じ部屋で過ごしているわけだから、相手が気を悪くするんじゃないかと思ってなかなかそういう事を言う人は少ない。(性格にもよるけど)
何か循環器系の問題かと思って件の患者さんを見に行ったんだけど、別にしゃっくりなんかしてない。
「とりあえず様子を見ますので、またひどいようならナースコールして下さい」って言ってとりあえず保留にした。
夜の巡回の時にその部屋の前を通ったら確かに「ヒック、ヒック」って聞こえたので様子を見に入った。
そしたらその声が聞こえてくるのは、苦情を出してきた患者さんのベッドだった。
そっとカーテンを開いて見てみると、その患者さんはうなされてる感じで寝汗をかいてるんだけど、別にしゃっくりはしていない。
それからしばらく様子を見ていたんだけどしゃっくりの音はどこからも聞こえなかった。

 

打撲
ある重傷の患者さんが自力で外来に来た。
本人は「階段で転げ落ちた」って言うんだけど、そこそこベテランの彼女には、明らかにリンチを受けた形跡に見えた。
エコー検査すると内蔵のあっちこっちで出血してるっぽい。
検査をした先生はちょっとアニメが好きで、「ベジータと最初の戦闘をした後の悟空みたい」って。
が、おかしいのは肋骨が一本も折れていないどころかひびも入ってなかったんだって。
患者さんの希望で警察沙汰にはしなかった。

 

昭和の幽霊
「看護師なんぞいらん!看護婦を呼べ!」って怒鳴り声がたまに聞こえるそうだ。
ただそこは病棟ではなく霊安室だけど。

 

手術1
新米ではないんだけど初めて心臓にメスを入れる先生の手術があったのね。
助手は何度もしてるんだけど、メインでやるのは初めてだったのでさすがに緊張した感じで見ていて危なっかしかったそうだ。
で、メスを入れようとすると、患者さんの口がかすかに開いて「やめてくれ」
全身麻酔で完全に意識無いはずなのに。
先生の方が腰を抜かしてしまって、急遽ベテランの先生に交代になった。
その後その先生は別の病院で心療内科やってるって聞いた。

 

おしっこ
夜の巡回で、トイレの前の廊下にぽつぽつと水たまりが続いている。
年寄りの患者さんもいるから珍しい事でもないのだが、こういう雑務をこなすのもほとんどの場合看護師の仕事だ。
(あ~あ)モップを持って来て作業を始めると、なんか途中から色がオレンジ色に変わっていて、トイレに入る頃には朱色を通り越して茶色っぽくなっている。
いやな想像が浮かぶ。この血尿が個室につながっていて、そこが"使用中"状態だったら。
しかしその跡は男子用の小便器の前で終わっていたと。
恐る恐る中を確認したが便器の中は特に汚れていなかったそうだ。

 

手術2
彼女はベテランで、手術のサポートをする事も多い。
ある時、手術担当の先生が、開腹した途端に
「あとは俺がやるからみんな出て行ってくれ」って追い出されたそうだ。
患者さんはその後快方に向かったそうだけど何があったんだろう。

 

便所6
B棟の4階にある便所の個室。
入って閉めようとすると扉が勝手に凄い勢いで閉まる時がある。
びっくりして倒れて頭を打ったり腰を打ったりする患者さんが何人か出た。
で、"故障中"の張り紙してある。
でも封鎖はしてない。
なんでかというと、事情を知っててあえて使うベテランの患者さんとか看護師が使う事があるから。
別に扉が勝手に閉まる事以外に実害は無いので、「ちょっと乱暴な自動ドアだと思えばいい」
あと、扉を支えながら入ったら閉まる力がかかって来て「なんかおしくらまんじゅうか綱引きしてるみたいだった」だと。

 

出前
入院患者さんの食事は病院が管理しているので、勝手にされてはいけない。(まあ、コンビニでおやつ程度のものを買うのは目こぼしするけど)
ただ、お見舞いの人が「自分が食べるため」と言って出前を病室に持ってこさせると注意のしようがない。
それが2人前だったとしても、「自分大食いなんで」と言われたらそれ以上言えない。見張ってる暇も無いし。
そうやって、食事時間帯だけお見舞いが来るお爺さんがいた。たぶんあれ便利屋か何かのバイトだったんだと思う。
爺さんがどこでそんな知恵つけたのか分からないけど、たぶん子供が金払って面倒を押しつけてたなんだろうね。
爺さん亡くなってしばらく経つんだけど、ときどきその個室に寿司の宅配とかが来て「あれ?」って顔してる。

 

B棟
現時点でB棟が一番古い建物っていうのはどこかで書いたと思う。
変な話とかも多いし建て替えよう、って話が出て、結構古い神社の神主さんに地鎮祭の下見(?)みたいなので来てもらったの。
そしたら「ここから右側は公園か何かにした方が…」って指で示すの。
そこはB棟の真ん中くらいで、B棟は診療も入院もしている棟なので広げたいくらいで減らす事なんてとてもできない。
結局建て替えの話は保留中。

 

俳句
結構長期の入院しているおばあさんで、俳句を嗜まれる患者さんだったのね。
発作を起こして亡くなられるまでは頭もしっかりしていて、毎日俳句をしたためていて、彼女も読ませてもらった事があるって。
で、亡くなる1週間前くらいから俳句の内容がだんだん不気味になってて気にしてたそーだ。
亡くなる2日前のが"血の色は、赤いか黒いか、神次第"
前日のが"一寸の、虫にも5分の魂、私には"
当日、発作を起こす直前に書きかけていたのが"行きたくない、地獄の"
そこで絶筆だったそーだ。

 

かかりつけ医
いわゆる町の開業医(まあ町医者)をかかりつけ医にする事を勧めてる。
彼女の居るような大きな病院だとお金も高いし何より待ち時間がとんでもなく長いからね。
町医者が、精密検査とかが必要と判断した時に、紹介状を持って患者が訪れる。
で、ある患者さんが来て紹介状を読むと「この患者はもう手に負えない」みたいな事が書いてある。
見たところ、足腰は悪いけれど普通のお爺さん。
先生から「ちょっと電話してどういう事なのか聞いて」
電話してみると、奥さんが出た。
その病院は、先生と看護師の奥さん、あと2~3人の看護師で回している小さな病院。
直接会った事はないんだけどすごく穏やかな感じの人で「ああ、この奥さんにつながって良かった」って思った。
で、話を聞くと、なかなか話したがらない。
ちょっときつく問い詰めると、「あの患者さんが来ると、他の患者さんが逃げるように帰って行くんです」
「何か暴力をふるったりするんですか?」
「いえ、そんな事はないんですが…」「私らには見えない何かが他の患者さんには見えているんじゃないかと…」
おいおいうちは姥捨て山じゃないぞ。

 

裁判官
なんか唐突なタイトルだな。
医者は白衣を着る。裁判官は黒衣を着る。
裁判官の方は有名な話だよね。"何色にも染まらない"って。
じゃあなんで医者は白衣を着るの?
汚れが目立つからまめに洗わないといけない、つまり清潔のイメージ。まあそれで概ね当たってる。
ただ"白"というのはスペクトル的に最も強い色、つまり邪な存在は白を避けるんだよね。
じゃあ裁判官は邪を引き寄せてるの?あ、なんか当たってる気がする。

 


ある6人部屋で洗面所の鏡が時々割れるそうだ。
患者さんに聞いても、「音は聞こえたけど私は知らない」みたいな回答ばかり。
ある内科医に相談したら
「う~ん。そもそも入院室に鏡なんて必要なのかなあ」「日に日に老いていく自分の姿を見せられるわけでしょ」
「何か絵でも飾っておけばいいんじゃないかな」
確かにこれからデートって状態でもないし、鏡を使いたいならトイレに行けばいい。
それで、彼女の好きなハリウッド女優"ジェーン・シーモア"(かなり古い)の写真を、洗面の鏡の場所に張り付けたそうだ。
それからはトラブルは起こっていないし、苦情も来ていない。

 

幽霊
ようやくこのタイトルが出た。
彼女曰く、病院では意外にちゃんとした形での幽霊は見た事ないらしい。
「先輩からの受け売りなんだけど」言うには「幽霊でも、来たくない場所には来たくない」らしい。
「よっぽど腹に据えかねる事情があったり、個人的な恨みがある場合には姿を見せる」
幸い彼女はちゃんとした形の幽霊は見た事がないそうだ。

 

祖母
彼女のおばあさんがかなりきつい性格だってらしくて、彼女のお母さんはずいぶん苦労したらしい。
おばあさんが亡くなったのは彼女が四歳くらいの時でほとんど覚えていないんだけど、ある病室の空きベッドで老婆を見たんだって。
「とめ子、水回りの掃除はちゃんとやってるんだろうね」
とめ子っていうのは彼女の母の名前。彼女はよね子。
「私は…よね子です」
「あらそう悪かったわね」
す~っと姿が消えたそうだ。
ようやく幽霊らしい話なのに全然怖くない。

 

黄昏時
夕方の日の落ちそうな時間を黄昏時って言うよね。
これは"誰そ彼"が語源で、近くに人が居るのは見えるんだけれど顔がよく見えないので誰だか分からないっていう事だそう。
あと、明け方は"かわたれ時"つ言って「彼は誰?」っていうんでこれも同じ意味。
(地方によって呼び方は違うけど。"君の名は"でも出てたよね)
看護師の仕事っていうのは勤務時間が不定期で時間間隔が狂う事があるらしい。
ちょっとうとうとして目が覚めたら時計が6時を指していて、それが午前なのか午後なのか分からなくなる事があるそうだ。そういう感覚が怖いと言っていた。
「いっそ真夜中の方がはっきり分かるから良い」って。

 

季節
「昔はエアコンなんて無かったから夏は暑かったし冬は寒かった」
と、最古参の師長の話。
「今は行き帰りの時に感じるだけで、病院に着いたら夏も冬も関係ない」
「患者さんの中には、『冷房がきつい』『暖房が熱い』とよく言われる」
ここまでが前置き。
その病院は深夜は通常の出入り口は閉鎖されてて出られないんだけど、ある時残業を終えて帰ろうとするとロビーでパジャマ姿の患者さんが外に向かおうとしている。
「え?」と思ってどうしたもんか見ていたら、ドアをすり抜けて出て行った。
「うわ!幽霊」びっくりしたんだけど、すぐに肩を抱えて戻って来た。
で、彼女と目が合ってばつが悪そうに姿を消したそうだ。
「たぶん、中がこんなにあったかいのに外があんなに寒いとは思わなかったんだね」

 

後ろ髪
看護師さん(女性ね)は髪を後ろで束ねている場合が多い。
これは髪が邪魔になったり抜け毛が落ちたりしてはいけないという当然の配慮。
ベテランになるとお団子にしたりばっさりショートにしたりするんだけど、もうひとつ理由があるらしい。
時々後ろ髪を掴まれることがあるんだって。誰もいない場所で。
「私霊能者でもなんでもないんだけど」が彼女の口癖なんだけど、
びっくりして振り返ったら一瞬髪の毛にしがみついている赤ちゃんがちらっと見えたんだって。彼女は堕胎した事なんてないのに。

 

朝の幽霊
「幽霊って夜だけ出るわけじゃない」「昼間は人が多いから目立たないだけ」
と、"自称、霊能者ではない"彼女が言う。

日勤の時はバス停と病院の間にある古い喫茶店で、モーニングを取るのがちょっとした楽しみなんだそうだ。
「おしぼりがちょっと匂うのを除けば、安いしお気に入り」
で、たびたびカウンター席の端におじさんが座ってる。何も食べずに。
店員さんも注文を取りにいかない。
なんとなく気にはなってたんだけど、店の人の家族かな?くらいに思っていた。

ある日、そのおじさんの隣に普通のサラリーマン風の人が座ってモーニングを注文した。
何か起きそうなわくわく感があってそれとなく見ていたら、出てきたコーヒーの湯気をおじさんがふう~って吸うのよね。満面の笑みで。
そしてす~っと姿を消した。
「よっぽどコーヒー好きだったんだね」

 

老人ホーム
細かくは"特養"とか"介護"とか色々区分けはあるらしいけど。
「病院は老人ホームじゃないんだけど」彼女が言う。「たまにはそういう仕事もしなくちゃならない」
「特に老人が足を骨折して入って来た場合、あっという間にボケが進行する」
人間だけじゃなくどんな生物もそうだけど、動けなくなると基本的な生命力が衰退するらしい。

あるじーさん、自身も元医者で息子は外交官。
悠々自適の隠居生活だが趣味の登山で滑落して足を骨折、うちに搬送されてきた。
対応は息子嫁がしてたんだけど何となく"関わりたくない"的な雰囲気を横溢させてた。
お見舞いに来たのも彼女の知る限り2回だけ。
洗濯とかも全部業者任せ。
確かにそのじーさん、やたら態度のでかいやな患者で、診療の仕方にダメ出ししたり「こんな薬は知らんぞ!」とか、そりゃあんたの時代には無かったんでしょ。

退院の目途が立って家に電話入れたら留守電。
次の日に高校生の孫が来て、じーさんに何か渡して直ぐに帰ろうとした所を捕まえて話を聞いた。
連絡が取れない事を言うと、父は赴任先のイタリア、母も父の世話のために同じくイタリア。
日本に居るのは自分だけ「部活があるので」逃げるように帰って行った。
渡していったものをさりげなく確認すると、保険証とかおくすり手帳とか、あと大量の現金。
いくら金があっても連絡の取れる親族いないと困るんですけど。
退院の日が過ぎてだいぶん経っても連絡は取れない。じーさんは日に日にぼけていく。
こんなぼけ老人から金を取ったら後で、「払った払わない」のトラブルになるのは目に見えているのでお金の事は棚に上げていたんだけど事務長も頭を抱えていた。

ある日突然息子嫁が人を連れて現れ、迷惑かけた事への形式的な謝罪とその人物を紹介された。
名刺を見ると"ケアマネージメント"なんちゃら、民間企業らしい。
「後はこの方にお任せしてありますので」あっという間に帰って行った。
どうやらその会社を通して老人ホームを探していて、目途が立ったらしい。
後は比較的スムーズに事務処理が進み、じーさんはその人物と共に老人ホームに移っていった。
「需要のある所にはビジネスチャンスあるのね。良いスーツ着てたわ」

 

5億年ボタン
一部のネットで一時はやった質問系ネタ。
目のまえにボタンがあってこれを押すと100万円貰える。ただし、5億年間何もない空間で過ごさないといけない。(餓死とかは無い)
5億年経過すると現時点に戻り、その間の記憶は全て消えている。ってやつ。
「絶対無理」彼女は言う「5年でも無理、5日なら考えるけど」

交通事故にあった入院患者さん、いわゆる植物状態になってしまって、脳波はあるんだけど意識が戻らない。
数日後ナースコールが鳴って駆け付けると、件の患者さんが目を開いてぼろぼろ泣いている。
「ここは……ここですよね」何を言っとるんじゃ。意識が混濁しているのか?何にせよ意識が戻って良かった。
話を聞くと、衝撃を受けたような気がした後真っ白な空間に放り込まれたそうだ。
彷徨い歩いても何もない。疲れもしないし腹も空かないし眠くもならない。
「アルフォンス(ハガレンね)って、ああいう気分だったんかなあ」「でもあっちにはストーリーがあった分救われるよ」
時間の感覚もおかしくなり気が狂いそうになった頃、突然肩を叩かれてびっくりして振り返ると知らないおっさんがいる。
「悪かったなあ」「わしのせいやからわしが代わるわ」
そうして目が覚めたんだって。

 

回転寿司の幽霊
魚が化けて出てくる話ではないです。
旦那と休みが合わなかった完全オフの日、回転寿司でビールをちびちびやりながら寿司をつまむというのが息抜きのひとつ。
一人客なのでカウンター席優先なんだけど、その店、回転レーンとその上の注文配送レーンの間に隙間があって向こうが見えるのね。
で、向こうはテーブル席なので食べてるなら横顔しか見えないはずなのに、一人の客(たぶん女性)がずっとこっちを向いてるの。
回転レーンを見張ってるのかもしれないけど、それなら注文すればいいのに、不思議に思ってたんだけどだんだん気味悪くなってきた。
幸いその隙間は顔の下半分くらいしか見えないので目が合うことはないんだけど、なんとその女性がゆっくりと首を傾げ始めた。
うわ!と視線を反らした瞬間「ピコーン、ピコーン」
「心臓が止まるかと思った」
鳴ったのは「注文した商品が届きました」のアラーム音。
見ると彼女の嫌いな納豆巻き。
そんなもの注文していないし注文履歴を確認してもそんな注文はない。
店員さんに下げて貰ったんだけど、気が付くと向こうの女性はいなくなっていた。
「幽霊にしてはずいぶん陰湿な嫌がらせだよね」陰湿じゃない幽霊っているんか?
あとこれ病院全く関係ない。

 

マイ調味料
ある入院患者さん、引き出しに醤油とアジシオを隠していたのを偶然見つけた。
病院食の味が薄い話は前にも触れたと思うけど、栄養士が管理して出してるメニューなので勝手な事をされては困る。
しかも骨折とかの怪我系ならともかく内蔵系の患者さんだったし。
取り上げるわけにもゆかないし、師長とも相談して"退院まで預かる"という事で話をした。
「ならさあ、うま味とかでちゃんと味を補ってよ」ごもっとも。
「それに取り上げたところで下のコンビニでまた買ってくるだけだよ、これって資源の無駄じゃない?」
ぐうの音もありません。
栄養士さんにも相談したんだけど、特別扱いはできない、で門前払い。

悩んだ末、栄養士さんを連れて"高血圧がどれほど健康に悪いか"の講義を病室でしてもらったりしたんだけど、
「じゃあ塩抜きをしたら何歳まで生きれるって保証できるの?」
「そもそも人間の身体なんて個体差あるんだから、一律の基準で管理するって考えに無理ないですか?」
「別に特別扱いを要求してるんじゃなくて、自分で味の調整をしてるだけなんですけど」
「ここの食事だけ食べていて様態が悪化したら、その時は医療過誤で告訴しても良いって事ですね」
これだけ書くとすごくいやな患者さんに見えるかもしれないけれど、これ以外の事ではおとなしくて協力的なの。
ただ納得できない事にはすごく反発する。
醤油とアジシオの件は保留にしたんだけど、その患者さん、ハンストを始めてしまった。
「自分自身も納得できていない状況でここの食事を取る事はできない」
まあまだ若い患者さんなので1日2日食べなくても死にはしないだろうけど、患者さんと栄養士さんの板挟みで非常に悩ましい立場になった。

ところが、ある夕食のメニューを見て目を輝かせた。
「これ、食べていいんですか?」
お、やっと音を上げたか
「本当に食べていいんですね?」
彼はおかずのエビチリだけを食べ、そして、ほどなくして猛烈に苦しみだした。
駆け付けてみるとチアノーゼの症状が出始めている。緊急手術。

麻酔から覚めて「エビアレルギーがあるならなんで先に言わないんですか!」問い詰めると、
「問診票には書きましたよ」
後で確認したら確かに記述があった。これは明らかな栄養士のミスだ。
「病院で管理している食事だから、アレルギーの対策がなされていて大丈夫だと判断しました」
「さて、退院したら告訴の準備をします。それともここで殺しますか?」
ぐうの音も出ない。

結局事務長さんと栄養士さんを連れてきて平謝りに謝り、入院費全額免除で示談にしてもらった。
病室も個室に移しVIP待遇。
「自分の命を賭けの対象にするってある意味怖いわ。入院費程度で済んでよかった」

 

バーコード
別に禿頭の患者さんの話ではありません。
ある入院患者さん、スケッチブックに何か描いてる。
別に全然問題ないしむしろ健全な趣味だなと思ってたんだけど、ただ向かいのベッドを見ながら描いてるのね。
空のベッド描いて面白いか?ちらっと見るとびっくりした。
全然絵じゃない。縦の線をひたすら並べているだけ。
太い線、細い線、まるでバーコードみたい。
「少し待ってください」言うので待っていると、ページをちぎって「あげます」
なんですかこれ?と聞きたかったんだけど、もう既に別のベッドのスケッチを始めている。

凄く気になったので、(まさかね)とは思いつつ下のコンビニに行って「これ、ちょっとスキャンしてくれませんか」
「何ですかこれ?」
ピッ、反応した。
「何これ?」すごく気味悪そうにしている。
プリントしてもらって見たら
"平成29年2月14日 山本直子(仮名) ¥0"
鳥肌が立った。知っていた患者さんだったから。
「今スケッチしているベッドは患者さんいるんだけど」泣きそうな顔で彼女は言う。

 

外国人の患者さん
家族連れの白人系の家族。息子さんの具合が悪いらしい。
英語ができるスタッフがいるんでコミュは出来る。
ただ家族で話している言葉を聞くと、母国語は英語ではないっぽい。どうもフランスかイタリアみたい。
「イタリアだと思った」「ママがガタイ良くって場を仕切ってたし、たまに『マンマミーア』言うてるの聞こえた」
子供さんの熱は37度。微妙。
聞くと、サイゼリアで「うまいうまい」とたらふく食べて、しばらくして「お腹が痛い」と言い出したそうだ。そりゃただの食べすぎだろ。

2時間ほどベッドで横になってトイレ行ったらすぐに元気になった。
で、病院を出る時に何か言ってる。
通訳してもらうと
「イタリア語交じりの子供の発音だからよくは分かんないんだけど」
「兵隊が居たと言ってる」で、「お前らのせいで負けた」と言われたって。
まあB棟は戦前からある建物だし、戦時中は疾病兵の面倒も見てたからね。

 

コンクリ打ちっぱなしの部屋
C棟は戦後に作られた建物で、B棟よりはだいぶん新しい。
で、3階入院棟の端っこの部屋が病室として使われずに物置になってる。
部屋の内装もされず、壁の一画がベニヤ板で塞いである。普通はクロスなのに。

最古参の師長ですら又聞きでしか知らないのだけれど、建てたときにその壁に人の影が浮かんでたんだって。
気持ち悪いから漆喰で塗り込めたんだけど、次の日また現れている。
そんな事を繰り返していたら、だんだんその部分だけレリーフみたいに人の形に浮き上がってきた。
もう手に負えないのでベニヤ板で隠して、物置として使ってるんだって。

 

鼻から牛乳
嘉門達夫の曲ではありません。
骨折で入院の患者さん、時々鼻から白い鼻水を流す。
「脳みそが鼻から流れ出てるんです」お前ヤクやってるだろ。
「あるいは牛乳かもしれません」絶対ヤクやってるだろ。
でもティッシュで拭いて匂いを嗅いでみると、確かに牛乳っぽい匂いがする。
念のためにその日のメニューを見ると、朝食には牛乳が付いている。でも8時間前だ。
血液検査のデータを見ても、薬系の異常は見られない。
なんとなく憎めない感じの患者さんだったので、空いた時間に話を聞いてあげた。

自宅の近くにすごくおいしいステーキ屋さんがあって、特に子牛のステーキが絶品なんだそうだ。
給料日の度に食べに行ってると。
「母牛が子供たちに飲ませたかったお乳なんかな」

 

テレビ
あるおばあさん、よくテレビを見ている(6人部屋はテレビはカード購入必要なのが心苦しいんですが)
そして、他の患者さんを気遣ってイヤホンをつけて音を消している。気配りの良いおばあさんだ。
が、ある時見てびっくりした。イヤホンジャックがテレビにささっていない。つまり、無音で画面だけ見ていたのね。
それによく見ると番組がなんか古臭い時代劇。
この時間に地上波でそんな番組やってたかなあ、と新聞のテレビ欄見ても報道系ばっかで地方局にもそんなのない。

すごく気になったんである時「なんの時代劇なんですか?」聞いたら、
「わたしゃ見てないよ、この人が見てるんだけど、うるさいから耳栓代わりにこれ付けてんの」
この人ってどの人だよ。

 

病室の絵画
病室には絵が必ず1枚か2枚飾ってある。
ほとんどは版画(ラッセンとかヤマガタとか)なんだけど、ある病室には鉛筆のデッサン画が何枚かと、あと真っ黒な油絵が1枚飾ってある。
それはその病室に入院していた患者さんが描いたもので、無名だけれど二科展にも入選した事があるそう。
鉛筆デッサンは窓から見た風景とか静物画なんだけれど、ある時どうしてもと頼まれてイーゼルと画材一式を持ち込んで油絵を描き始めたそう。
末期のがん患者さんで、もう終末治療みたいなものだったのでその程度は許してあげた。

油絵って下地を塗ってそこに絵の具を積み上げていくような描き方なんで最初は何の絵か分からなかったんだけど、どうも肖像画を描いてるらしい。
しかしおかしいのは窓を見ながら描いてる。しかも消灯後にスタンドライトの明かりで。
別に肖像画を描くのはいいとして、なんで窓を見ながら描く。

徐々に絵が出来上がってきて、まあ美人と言っていい女性。
顔がだいたい出来上がって、手を描き加え始めた。なんというか、こちらに向けて何かを握ってるみたいな構図。
次にその上に描き加え始めた。
窓枠。
最後に全体を整えると、夜景をバックに窓にしがみついている女性。ちょっと、いくら末期がんでも趣味悪くない?

次の日巡回に行くと、全面を黒い絵の具で塗りつぶしていた。
いくら不気味な絵とはいえもったいないので理由を聞くと「一緒に行こうかなと思ってたんだけどやっぱりやめた」何それ?

次の検査で驚くことが分かった。がんが縮小している。
そして最終的に消滅し、患者さんは無事退院して行った。
スケッチも油絵も「あげます」
油絵は、気持ち悪くもあるものの何だか縁起物のようなような気もして、目立たない場所に飾った。
そうして、その後その病室にがん患者さんを入れるとほとんど治療がうまくゆくので、「B4-4」とは言わず「がんの部屋」と呼んでいる。

 

焼き人形
変なタイトルだな。
"わら人形"なら板にふさわしいし、"人形焼"だと「別板行け」って言われてるところだ。
ある地方から越してきた家族がいて、その土地では流産した時には棺桶の中に人形を入れるそうだ。
理由は「ひとりで旅立つのは寂しいだろうから」
人形は簡素なもので構わなくて、紙でもいい。

もう想像ついてると思うけど、その妊婦さんが流産した。しかも双子。
お母さん(おばあさん)がずっと付き添って「まだ若いんだから」とかひとしきり慰めた後で、何か悩んでる。
「こういう場合はどうしたらいいんかねえ」「やっぱり人形も2体用意せんとあかんのかねえ」
そんな事聞かれても...私その土地の人間じゃないし。
「土地の神主さんとか住職さんに聞いたら...」

結局菩提寺の住職さんに連絡が取れて
「人形はいりません。ひとつの棺桶で弔って下さい」
でもそれじゃお骨がごちゃ混ぜになってしまうじゃん。
「戒名もひとつで良いです」「ただ、位号(最後に付くやつ)は『水子壱、弐』として下さい」
なんだよそれ、仮面ライダーじゃあるまいし。
理由を聞くと、
「あまり凝った弔いをすると執着心が残るから」
だそうだ。

 

そこまで言って委員会
関西では有名な番組。彼女も録画して見ている。
ある入院患者さんがその番組を見ていたんだけど、「なんでこの人首絞められてるの?」
見ると元議員の有名な女性コメンテーター。でも首なんか絞められてない。
番組当初の看板だった方なら冗談でそういう事したかもしれないけど、もう亡くなってる。

別に認知入ってる患者さんじゃない。
「上の段に4人、下も同じでしょ」「でもあの人だけ後ろに人がいる」

 

保険外交員
ある病室の患者さんに廊下で声をかけられた。「隣のベッドがうるさい」
覗くとそのベッドは4歳の女の子の入院患者さんで、お母さんがすすり泣きながら「ごめんね、ごめんね」「私が悪かったんだよね」とか言ってる。

なだめて話を聞くと、最初は言い渋っていたんだけど吐き出したかった気持ちもあったみたいで少しづつ話し始めた。
彼女は元、かなりやり手の保険外交員で、今はコンサルティング会社に転職してるそう。
しかも某マルチ商法も副業していて、そっちのルートも使ってかなりの顧客を持っていたそうだ。
ただ、転職が決まった時に自分の顧客をうまく言いくるめて条件の悪い保険に乗り換えさせ、歩合給をたっぷり稼いでから辞めたと。
時はまさにバブル崩壊後でその生命保険会社がなんと倒産、外資系の会社に吸収され、ただでさえ悪い条件の契約をさらに買い叩かれて顧客は踏んだり蹴ったり。
顧客は文句を言おうにも彼女に連絡が取れない。
「悪い事をしたとは思っています」思ってねーだろ。

さて、その女性に子供が生まれた。
当初は順調に育っていたんだけど、先天的な疾患が発見された。
臓器移植が必要な重いもの。
その当時日本では無理だったのでアメリカとかで手術しないといけないのだけれど、膨大なお金がかかる。
その頃既に"○○ちゃん基金"みたいな前例はあったんだけど、それをやろうとすれば名前も出るし顔出しもしないといけない。
彼女の事をかなり恨んでいる元顧客もいるだろうから、それはしたくない。(身勝手な話だよね)
彼女がどうしたか。ある女性看護師に頼み込んで「母親として私の代わりに顔出しをして、お金は払うから」ふざけんな!
日に日に女の子の状態は悪化して、とうとう天に召された。
彼女は突然思い出したように「しまった!」「保険かけるの忘れてた」

 

風が語りかけます
このタイトルの意味が分かれば埼玉県民。知りたい方は検索して下さい。
※埼玉銘菓・十万石まんじゅう

最近のビルはどこもそうだけど、密閉性が高い。
特にA棟(旧本館)は一番新しい建物で、一階の玄関か裏口、後はB棟とC棟の連絡口くらいしか外とつながっていない。
なので2階より上はエアコン以外に空気が動く事はないはずなのに、時々風が通る。
そういう時はどこかでご臨終になっている。

 

高校野球
学校の夏休み期間に高校生が入院してきた。
症状は頭痛、吐き気、腹痛。
でも検査をしても数値的には特に目立ったところはない。が、どうしても入院したいと言う。
まあしばらく様子を見る事にしたんだけど、見ていると特に辛そうな感じはない。
日中は休憩室で宿題をしていて、時々テレビを見上げる。
テレビはずっと高校野球中継なんだけど、特に見入っているという風でもない。

ちょっと思い当たる事があり、聞いた。
「もしかして、仮病?」
押し黙っていたのだけれど、「秘密にしておいてくれますか?」

少年は地元の高校で、その地域には甲子園の常連校があるのだけれど、なんと彼の高校が20何年ぶりに甲子園進出を勝ち取ったらしい。
「すごい盛り上がりで、野球部員がいる組の生徒は応援に行くのが当然、というプレッシャーがあって」
「野球が弱い高校だと思ったから行ったのに」
彼女には痛いほど気持ちが分かったそう。
実は彼女の母校がその甲子園の常連校で、
「吹奏楽部だったから、メンバーでもないのに参加を強制させられた」「楽器をやりたかったから入ったのに、1年でやめた」

彼の高校の試合の日、また休憩室で宿題をしている。
テレビを見るとちょうど8回裏が終わったところ、2対1で彼の高校が負けている。
9回表を抑えられれば敗戦。
だが期待に反して2塁打の後バントが成功して1アウト3塁。「ちっ」小さく聞こえた。
次のバッターは3番、ホームランでも出れば逆転。
が、一球目を大きくスイングした瞬間、なんとバットが折れた。
バランスを崩したバッターは折れたバットの上に倒れこむように転んでしまった。そのまま動かない。
「ふふ...」聞こえたような気がして見ると、宿題に目を落としている。

「皆が皆、野球が好きってわけじゃないよね」彼女は言う「ああいう熱狂した雰囲気ってちょっと怖い」
少年は次の日退院した。

 

遺品
入院患者が亡くなられた時、遺品はもちろん家族に引き取ってもらう。
ていうてもコップだの歯ブラシだのそういう日用品なので、「そっちで処分して下さい」と言われる事もままある。
入院時の契約書にも「私物を何カ月以上放置された場合~」みたいな一文があるので大抵は捨てるのね。(余計な作業増やしやがって)
ただ勿体ないのが"パジャマ"。何着も持ち込んでるので(なんとかならんかなあ)と捨てるたびに思うそう。

あるご遺族、お葬式の事を済ませると「後は全部捨てておいて下さい」
ダンボールに詰め込んでとりあえずそこに置いておいたんだけど、次の朝病室に入ると布団がまるで人が寝ているように膨らんでいる。
で、ぺちゃーっと平らになった。
朝だし他の患者さんもいるので「怖くなんかない」と布団をめくると、パジャマがちょうど寝返りをうったような形で横たわっていたそうだ。

 

きのこたけのこ戦争
知ってる人には有名な言葉。
隣接したベッドの2人のおばあさん、コンビニで駄菓子を買っておやつに食べる。
ちゃんと夕食も食べてるのでその程度の事はうるさく言わない。
で、窓側のおばあさんはいっつも"きのこの山"、隣のおばあさんは"たけのこの里"。
検査とかに行くといつも愚痴を聞かされる。
「キノコなんて菌よ、菌」「気が知れないわ」
「たけのこなんて根っ子よ」「ごぼうでも食べてりゃいいのよ」
関わり合いになりたくないので適当に聞き流していたら、とうとう直接対決が始まった。
「あんた総入れ歯なのによくあんな硬いの食べる気になるわね」
「分かってないわね、チョコを口の中で溶かして残りの味を楽しみつつ適度に柔らかくなったらさくさく頂くのよ」「たけのこなんてすぐにどろどろになって、ああ気持ち悪い」
「昨日のテレビでやってたでしょ!世間的には圧倒的にたけのこ好きが多いのよ」

ある日、きのこばあさんが恐るべき行動に出た。
下のコンビニのたけのこを全部買い占めてしまったのだ。これはひどい、オカルトより怖い。
当然たけのこばあさんも反撃に出て、コンビニの棚の一画が空白になるという異常事態となった。
でも双方自分では食べないので持て余す。
たけのこばあさんの方はたまにお見舞いが来るのでお土産にあげていた。「なんでおばあちゃんこんなに"きのこの山"買うの?」
きのこばあさんはあんましお見舞いがなかったので看護師さんに配っていた。「こんなまずいもの買っちゃって、始末してくれない?」
「じゃあなんで買ったんですか?」

双方引き出しの中に大量のお菓子が入っているのに自分は食べないので悔しそうにしてた。
そのうち、全然お見舞いが来ないきのこばあさんの事をたけのこばあさんがちらちら気にしだして、
ある朝きのこばあさんのサイドテーブルに"きのこの山"がちょこんと乗っていた。
きのこばあさんはそれをじっと見つめていて、次の朝たけのこばあさんのテーブルに"たけのこの里"が2個乗っていた。

その後、休憩所のテーブルでお菓子を前にして毒舌合戦をする、ふたりのおばあさんの姿がたびたび見られるそうだ。

 

虫めでる姫
名前を出すのも嫌なあの黒い虫、仮にGとしておく。(仮になってない)
病院は衛生管理きっちりしてるんで見るはずないのに、ごくたまに見かける。もちろんすぐ始末するけど。

かなり個性的な(変わった)同僚がいて、「病院でアシダカグモを飼わない?」
「はあ?」
彼女の実家は古い一軒家で隙間だらけなのでGはいくらでもいたはずなのに「だいたい、見たのはひと夏でせいぜい3匹くらい」
なんでかと言うと「アシダカがいてくれたから」

「にしてもあんな手のひらくらいあるでかい蜘蛛、そもそも無理っしょ」
「そんな事ないよ」「夜中にトイレに起きて電気付けたら枕元にいたりする」
「ギャーーー!」
「可愛いよ」「Gと違ってすぐに逃げるから、さわりたくても触らせてもらえない」
お前はナウシカか?もののけ姫か?

何故か彼女、だんだん怒り出して「じゃああなたカニ食べないの?あれ蜘蛛の仲間なんだよ」
じゃあお前は蜘蛛食べてるんか。

「仕事は真面目で性格も良いんだけど」「生理的な嫌悪感覚っていうのがちょっと変わってると言うか」

同僚曰く「あとハエトリグモも可愛いよ」知るか!

 

NHKの怪異
前にも書いたと思うけど、6人部屋のテレビはカードがないと見られない。
ある日、患者さんがリモコンを手に取ったんだけど、ふと見るとカードがささっていない。
「それじゃ見れませんよ」言おうとしたんだけど、普通にニュースを見始めた。
え?
「ちょっといいですか」リモコンを借りて操作した。
あまりせこい事はしたくないけれど、機械が壊れているなら対処しないといけない。
でもチャンネルを変えても他の局はホワイトノイズの画面。NHKだけ映る。
首をひねっていると
「あたしちゃんと受信料払ってますよ」
いやいや、それは家の方の受信料でしょ。

彼女曰く「本来ならNHKの方がスクランブルかかるべきなのに」
突っ込みどころはそこじゃないだろ。

 

布団とベッド
ある入院患者さん
「和室の病室ってないですか」
聞くと、家では和室に布団で寝ているので、ベッドだと天井との距離感が違って不安になるらしい。
もちろん和室なんてないので可哀そうだけど我慢してもらうしかなかった。
「考えてみればなんで和室ないんだろうね」

ある日の朝、その患者さんが頭をこんこん叩いている。
「痛むんですか?」
「いえ、変な夢を見て」
寝ようとしていたらだんだん天井が近づいてきて、気が付くと屋上にいたと。
で、横に布団があったのでそこに入って寝直した。

彼女曰く「ただの夢だとは思うんだけど」
「布団の上に鳥のフンみたいなのが落ちてた」

 

火傷
ひどい全身火傷で担ぎ込まれた少年。
すぐに対処を始めたんだけど、救急隊員曰く「なんかおかしい」
「布団の内側は焦げていたんだけど、外側があんまり焦げてない」
「まるで身体の内側から火が出たみたい」
ちょっと不謹慎な事に島本和彦の絵柄でイメージが再生されてしまったと。

 

飛蚊症
まだ若い男性患者さん。視界の縁に黒い虫が飛び回ってるそうなものが見えると言う。
明らかに飛蚊症。飛蚊症っていうのは大雑把に加齢か眼球の異常が原因。
視力検査では1.2と1.0で全然問題ない。
ただおかしいのは、「目を閉じると、よりはっきり見える」飛蚊症は光を見る事によって出る症状なので、瞬き程度ならともかく目を閉じた状態で長く続くのはおかしい。
本人の希望で検査入院してもらった。

イケメンでスタイルも良い男性で
「なんとかお近づきになれないかな」お前結婚してるだろ。

次の朝、目が真っ赤。
「眠れなかったんですか?」
まあ環境が変わればそういう事はある。
「いえ、飛んでる奴がだんだん集まりだして」「人の顔に見えてきたんです」
「ちょっといいですか」言って彼の瞳を開いて覗き込んでみたの。
眼球性の飛蚊症だと、瞳の中に濁りが見える場合があるから。
真っ赤に充血した目の中に、女の顔が白く浮き上がってこちらを見ていた。

 

百物語
途中で気付いていた人居ましたが、これ百物語です。
百物語っていうのは、99話目で終わりにするっていうルールがありますからね。
実話にしろ創作にしろ百まで語ると本物が出てくるから。
で、色々批判もあるようでしたが個別の反論はしません。たぶんきりがないから。
100話を本日16日にしたのは今日が送り火の日だからです。
皆さんも失った大事な人の事を思って手を合わせましょう。
合掌。

で、ここで書いた話、ほとんど私の創作です。ただ看護師の知り合いがいるのは本当です。
彼女に読ませたら、ほとんどは鼻で笑うかたまに腹を抱えて笑ってました。
ただ、ある一作だけすごく真剣な表情で何度も読み返して、
「この話は差し替えた方が良い」って。

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