ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

中編 r+ 洒落にならない怖い話

午前二時四十九分の郵便 r+4,689

更新日:

Sponsord Link

あれは、僕が高校二年の十月に体験した出来事だ。

思い返すたび、背筋が粟立つ。いや、いまこうして思い出しながら文章にしている間にも、部屋のどこかから誰かに見られているような、そういう圧迫感がある。

僕は元々、霊感なんて全く無かった。ただ、「髪被喪(かんひも)」の件を境に、妙なものが見えるようになった。それからというもの、周囲の友人たちから“そういう系統”の相談が舞い込むようになった。

といっても、見えるだけだ。除霊とか、そういう専門的なことはできない。ただ、話を聞くだけで解決することもある。不思議なもので、誰かに話すことで霊的なモヤが晴れてしまうこともあるらしい。

その日、十月二十五日の夕方。サッカー部の純一から連絡があった。近所の喫茶店に来てくれと言う。

僕が着いた時にはすでに、純一と洋子さんが座っていた。

彼女はサッカー部のマネージャーで、何度か応援の場で顔を合わせたことがある。大きな目が印象的で、表情がころころと変わる、明るくて、誰からも好かれるような子だった。

だがその日は違った。あの目は落ち窪み、頬はやせ細り、手はずっと膝の上で震えていた。

「すまん、島田……」と純一が小声で言った。「マジで、今回はちょっとヤバいかもしれん」

話を聞いていくうちに、僕のなかの「嫌な感覚」が、じわじわと背後からせり上がってきた。

洋子さんは震える声で話し始めた。すべては一ヶ月ほど前、九月二十三日の夜中に始まったらしい。

夜中の二時四十五分。突然目が覚めて、トイレに立とうとした時だった。

廊下の向こうから、かつん、こつんと、ヒールか革靴のような硬い足音が聞こえた。別に、誰かが帰ってきたのだと思い、気にしなかった。

だが、その足音が洋子さんの部屋の前で止まった。

そして……ポストの投入口から、何かがカコンと落とされた。

「郵便です……」

小さな男の声が聞こえた。

時計を見ると、二時四十九分。

ありえない時間だった。気味が悪くて、洋子さんはベッドに潜り込み、朝を待った。

朝になって、ポストの中身を確認すると、縁を黒く塗った官製はがきが落ちていた。宛名は「横山秀夫 様」。

裏を返すと、パソコンのフォントで一行。

「九月二十七日、十九時三十一分。死亡」

くだらない悪戯だと思って、洋子さんははがきを捨てた。だが、その四日後、ファミレスで流れていたニュースで「横山秀夫 三十八歳」が昨晩死亡したと報じられていた。

それだけじゃない。

洋子さんの部屋には、また別の「黒縁のはがき」が投函されたという。

全部で五枚。全員が、記された日時に死亡していた。

しかも、そのはがきは毎回、夜中の二時四十九分に届く。声も、足音も、まったく同じ。薄気味悪い、無機質な「郵便です……」という声だけが共通していた。

そして問題は、その晩、洋子さん宛のはがきが届いたというのだ。

日時は、十月二十六日、午前二時〇二分。

宛名にははっきりと「藤田洋子 様」。

聞いた瞬間、あの「ぞわり」とした感覚が背骨に走った。純一が言っていたように、他のはがきはどこかに消えてしまうのに、この一枚だけは、いくら捨てても戻ってくるという。

焦った僕は、祖父に電話した。祖父は若いころから見える体質で、「かんひも」の時にも力を貸してくれた人だ。

「おおぐろの坊さんにもらったお札があるじゃろ、それを窓とドアノブ、ポストに貼れ」と言われた。

「ポストも……?」

「そいつは郵便の姿を借りた“招かれ神”の類いじゃ。中から招かれん限り手は出せん」

祖父の助言に従い、僕は急いで自宅に戻り、封印の札を持って洋子さんのアパートへ向かった。

部屋の中には純一と洋子さんが、青ざめた顔で座っていた。夜の八時。

僕は黙って、祖父に言われた通り、部屋中の窓、玄関のノブ、ポストに札を貼ってまわった。

緊張のなか、時間は過ぎ、時計の針は一時五十五分。

そして……足音がやってきた。

カッ、コッ、カッ……

来た。背中に冷気が這い上がる。

ポストに目をやると、貼ったはずのお札が、何者かに剥がされていることに気付いた。

しまった、と叫ぶ前に、

「藤田さ〜ん、郵便で〜す」

声が、ドアの向こうから聞こえた。

カコンカコンとドアノブが上下に動く。

「なんだ、いるじゃないかよお」

それまでの声とは明らかに違う、濁った、獣のような低い声が響いた。

ドアの郵便受けがカタリと動いた。

そして……中から、二つの眼が覗いていた。

ギラギラと、血走った目が、こちらを見ている。

ガンガンガン!とドアが叩かれる音。

ガチャガチャガチャ!とドアノブが折れんばかりに揺さぶられる。

部屋中の窓が一斉に震えだし、洋子さんが絶叫をあげ、気を失った。

僕と純一は彼女を庇うように覆い被さるしかなかった。

気が付くと、朝になっていた。あれだけの騒音にもかかわらず、誰一人、異変には気付いていなかった。

洋子さんはその後、アパートを引き払い、町を離れた。以来、何も起きていないらしい。

あとで聞いた話だが、学校で流行していた「お呪い」に、洋子さんは手を染めていた。

深夜二時四十九分にある場所のポストに、恨みの相手の名前を書いた黒縁のはがきを投函する。

それだけで、相手に災いが降りかかるという。

洋子さんが書いた相手は、好きな先輩の恋人だった。

……だが、恨みを持って投げたものは、いつか巡り巡って自分に返ってくる。

僕はそう思う。

人を呪わば、穴二つ。

けれど、その「郵便屋」が、まだどこかの廊下を、コツ、コツと歩いている気がしてならない。

……次に投函されるのが、誰宛なのか、それは誰にもわからない。

[出典:369 :2005/10/20(木) 14:06:11 ID:tKVQKarJ0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-中編, r+, 洒落にならない怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.