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中編 怪談

ホテルに巣食う者【ゆっくり朗読】2200

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「まだ終電までは時間があるから、もう少し平気だよ」

原著作者:2009/06/2804:41匿名さん「怖い話投稿:ホラーテラー」

そう言うと川村は私のグラスにさらに酒を注ぎ足す。

普段、あまり酒を飲まない私がここまで飲むのも珍しい……

会社帰りの街中で、小学校時代の旧友と突然の再会。

私達がつるんでいたのは、お互いが小学校から高校に行って別々の道を歩むまでの短い間ではあったが、私達は強い絆で結ばれた親友だった。

街中の居酒屋。

私達は昔話で大いに盛り上がり、懐かしく、そして楽しい時間を過ごしていた。

まるで子供のようにはしゃぐ私達。

そんな私達を周りの人々は白い目で見ているようだったが、そんな事などどうでもよかった……

「おい、大丈夫か?」

「ああ、平気だよ。もう駅まですぐだから、後は1人で大丈夫だ」

「何か心配だけど……気を付けて帰れよ。それと、もしどうしても家までたどり着けそうに無かったら、俺の携帯に電話しろ。俺はこの近くのホテルに居るから、電話してくれればホテルの場所と部屋番を教えるから」

「いろいろありがとな。お前は、昔からいい奴だ」

「よせよ、そんな事言い出すなんて、相当酔ってるな、お前」

「ハハハ、それじゃな。また近いうちに会って飲もう」

「ああ、近いうちに。また会いたいもんだ…」

酔っていてよく覚えてはいなかったが、別れ際の川村の顔はどこか寂しげだった。

私は文字通りの千鳥足で終電迫る駅の改札へと急いで歩いた。

そんな私の心の中は、久しぶりに親友と過ごした楽しい時間の事で埋め尽くされていた。
やがて、最寄り駅にたどり着いた私。

「間もなく、2番線に~行きの電車が到着します。この電車は~方面への最終電車となります。ご利用のお客様は……」

私が改札をくぐったのとほぼ同時に、終電を報せるアナウンスが鳴った。

ホームまではまだ少し距離があったので、私は走った。

これがいけなかった……急に走ったせいで酔いが激しくなり、吐き気が込み上げてきたのだ。

『こんなとこで吐いたら、まずい』

私は、一度降りかけていた駅の階段を再び改札の方に向かって上り、改札横のトイレに駆け込んだ。

間一髪、公衆の面前で失態をさらさずには済んだ。だが、終電は既に発車してしまっていた……

『まいったな、始発まではまだ5時間近く時間があるし、かといって駅の中に居座るわけにもいかないしな……』

そんな事を考えながら、途方に暮れていたとき、私はさっきの別れ際に川村が言っていた言葉を思い出した。

『ダメもとで掛けてみるか……』

私は、スーツのポケットから川村に手渡された一枚の紙切れを取り出し、そこに記された電話番号に電話を掛けた。

不思議なことに、1回コールするかしないかという早さで川村の声が電話越しに聞こえた。

「…はい、川村です」

「ああ、川村か?悪い、終電に乗り遅れちまったんだ。さっきの別れ際のことまだ覚えてるか?ほら、もし俺が終電に乗り遅れたら……」

「ああ、覚えてるよ。俺はお前ほど酔っぱらってないから。ちょっと待っててくれ、今ホテルの場所と部屋番教えるから……えっと、………」

こんな時間であるにも関わらず、川村は丁寧に彼が宿泊しているホテルの場所と彼の部屋の番号を教えてくれた。

駅を出た私は、電話で川村が言っていた通りに道を辿る。

そして繁華街を抜け、少し奥まった場所にそれはあった。5階建て位のビジネスホテル。所々にヒビが入った外観、今にも消えそうな弱々しい光を放っている看板。

お世辞にも立派とは言いがたい……

私は自動ドアをくぐりホテルのフロントへ。

私を出迎えたのは、まるで人生に絶望していますと言わんばかりの顔をした中年のフロント係だった。

生気の感じられない声で、フロント係が訪ねてきた。

「いらっしゃいませ、ご宿泊でしょうか?」

「ええ、その、私の友人がここに部屋を取っていて、私は終電を乗り過ごしてしまって、朝まで友人に世話になろうと思って…」

「ご友人様のお名前をフルネームでお願いします」

「はい、……川村忠次です」

「少々お待ちください……ええ、川村様は確かにご宿泊になられてます。失礼ですが、一応お客様の安全を確認するという意味でご本人様の部屋に私の方から電話で確認させて頂きますので、あなた様のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい、水沼といいます」

「水沼様ですね。それでは確認を取る間、そちらのソファにでも掛けてお待ちください」

そう言うと、フロント係は受話器を手にとり、川村の部屋に電話を掛けた。

1、2分の電話の後、フロント係は受話器を置いて、私に川村が宿泊している部屋の鍵を渡してくれた。

512号室。

薄暗いエレベーターに乗った私は、5階でエレベーターを降りて、これまた薄暗い廊下をひた歩く。

そして、廊下の角を右に曲がったすぐそこに512号室のタグを見つけた。

『さっきここへ来ることはあいつに知らせてるし、フロントと電話もしてたからまだ起きてるだろう』

私は、部屋のドアを2、3回軽くノックした。

……中からは何の返事もない。

『……ひょっとして、もう寝ちまったかな?』

仕方なく、私はさっきフロントで手渡された鍵を使ってドアを開け、少し遠慮気味に川村の部屋へと入った。

……真っ暗。

とりあえず、壁伝いに電気のスイッチを探し、部屋の灯りをつけた。

ベットが1つにユニットバスにクローゼット。ありきたりな配置の普通のビジネスホテルのその部屋の中に何故か居るはずの川村の姿が無かった。

それに、何か部屋の中に妙な匂いが漂っている。

私はとりあえず名前を呼んでみる。

「おい、川村!」

……コトンッ……

と、部屋の隅に置かれたクローゼットから物音が聞こえた。

きっと川村は私を驚かそうとでもしてわざわざ部屋の電気を全て消してクローゼットに隠れ、私が驚く様子を楽しむつもりなのだろう。

「まったく、お前は。もう出てこいよ。そこにいるのは分かってんだから」

私は、クローゼットを勢いよく開ける。

………?!誰もいない。

それどころか、一着の衣類もハンガーに掛かっていない。まるで、長い間使われて無かったかのようなクローゼット。

私は少し怖くなり、部屋中を探した。

しかし、狭い部屋の中、すぐに探し終わり、川村がこの部屋にいないと認めざるを得ない状況に置かれた。

『部屋を間違えたのかな?』

仕方なく、私は部屋のベットの上に座り込んだ。

と、ベットの横に、さっき居酒屋で飲んでいたときに川村が持っていた鞄が置いてあった。

『なんだ、やっぱりこの部屋で間違いないのか。

けど、あいつ何処行ったんだ?コンビニにでも出掛けて入れ違いになったかな?』

私は、そう考える事で、この居心地の悪い部屋のことを気にしないようにしていた。

……1時間が経った。

川村は一向に姿を見せない。私の中に、不安がよぎった。

もしかして、川村は買い物に出て何かの事件に巻き込まれたのではなかろうか?

あるいは、考えにくいが私にホテル代を払わせるために、これはチャンスとばかりに私を部屋に呼んで自分は姿を消したのでは?等々……

『考えても仕方ないか…』

そう思い、私はベッドに横になり部屋の天井に目をやった。

『…何だ、あれ?』

私の目線の先、部屋のベットの真上の天井には、何か赤茶けたようなシミがあった。

それは何かの形をしていたのだが、私はそれが何なのかすぐに分かってしまった。

『……人?!』

……今思えば、それに気付いた時にあの部屋を出ていればよかったのだが、余計な好奇心が私を動かした。

私は、部屋に備え付けられた非常灯を手に取るとベットの上に立ち上がり、部屋の天井のシミの部分を調べ始めた。

そして、天井が一部切り取られ、そこがスライド式に開く構造になっていることに気が付いた。

……ゴト、ゴト……

天井をスライドさせると、天井裏のよどんだ空気が私の鼻をつく。

真っ暗な天井裏。

カビ臭いような妙な匂い、これはさっき私がこの部屋に入って感じたあの匂いをもっと強めた感じだった。

とりあえず、私は手に持った非常灯を自分の顔の横まで引き上げ、天井裏を照らし出した。

「………えっ!?」

声にならない声をあげ、私はベットの上に転がり落ちた。

私は、見た。いっしゅんだったが、天井裏の奥の方に微かに照らし出されたあれは明らかに人間だった。

生きているのか?、いや、どう考えても死んでいる。

どっちにしろフロントに知らせなくてはならないし、場合によっては警察にも知らせなくてはならない。

だが、もし早とちりしていたとしたら、ただの迷惑な酔っ払いになってしまう。

私は底知れぬ恐怖を感じていたが、もう一度、確認のために天井裏に戻る。

むせ反る様な臭気。

今度は、しっかりと非常灯の明かりをあれの方に向ける。

何か、白いものが動いている。それも沢山……

よくよく見てみると…

それは無数のウジだ。

そのウジの下からは赤黒く変色した何かの死体が姿をのぞかせている。

死体からは酷い匂いの元であろう、赤茶けた液体が流れ出ていて、それが死体の周りに水溜まりのように溜まっていた。

その光景を確認するや否や、

「うわあぁぁっ!!!」と叫び声をあげて、私は部屋を飛び出した。

エレベーターも使わず、非常階段でフロントまで猛烈なダッシュでたどり着き、大声でさっきの中年フロント係を呼び立てていた。

…だが、フロント係は全く出てこない。

仕方なく、私は小刻みに震える手で自分の携帯を取り出すと、急いで110番に電話を掛ける。

「…はい、110番です。事件ですか?事故ですか?」

「……い、今、リバーサイドホテルに宿泊している者ですが、部屋の天井裏に人の死体が……!」

「あの、いたずら電話はやめてください。例え軽い遊びのつもりでも、立派な犯罪になりますので…」

「何言ってるんだ?!確かに私は酒を飲んでいるが、これはいたずらじゃないんだ!!本当に見たんだ、天井裏で、あれは確かに人間の死体だっ!!!」

「…わかりました。リバーサイドホテルですね、これから最寄りの場所を巡回中の警察官を向かわせます。あなたのお名前は?」

「水沼です、とにかく、早く来てください!」

「水沼さん、そこにあなたの他に誰かいますか?」

「そんな事知るわけ無いだろうっ!ここはホテルだぞ、誰かいるに決まってるじゃないか?!」

「水沼さん、確認ですが、リバーサイドホテルで間違いないんですね?」

「だから、何度も言ってるじゃないですか!一体何なんですか?!」

「水沼さん、そのホテルはもう6年も前に営業を辞めているんです。あなたは何故そんな所におられるんですか?」

「……………」

……ガチャッ!……

電話越しの警察官のその言葉に驚き、私は思わず携帯を床に落としてしまう。

『馬鹿な、だって、自動ドアも、エレベーターも部屋の電気だって使えてたんだぞ………、そんな馬鹿な事………!?』

そう思いながらもう一度ホテルの中を見回した私は恐怖した。

入ってくる時には動いていたはずの自動ドアには木材が打ち付けられ、今自分がいるフロントもそこらじゅうホコリをかぶっている。

…その光景に気付いた瞬間、背筋に冷たいものを感じた。

じっとりとした冷や汗が頬を伝う。

だが、すぐに気付く、いや、これは俺の汗じゃない……と。

それは、フロントの天井から滴り落ちてきている。私は、恐る恐る目線をフロントの天井に向ける。

そこには………

血まみれの、だけど血の気の無い体を、まるで昆虫の様に身構えた1人の女がへばり付いている。

夜行性の動物のように光るその目は、腐っているのか…?、白目と言うよりは、黄色く濁っているのがわかる。

唇はボロボロになっていて、そこから滴るよだれが私の上に降ってきていたのだ……

私が落とした携帯の通話口からは警察官が私に呼び掛けているのが聞こえる。

私は、恐怖のあまり身動きが取れずに、ただその場に立ち尽くしているのがやっと。

そして、そんな私の周りに他の気配が増え出した。

1人、また1人と。

昆虫の様に身構えた者達が私を取り囲む。その中にはあの中年のフロント係の顔もあった。

だが、それは腐った頬が垂れ下がった見るに耐えない姿だった。

そして、その中の一体が私に近づいてくる。

私は、死を覚悟した。

同時に、自分もこうなるかもしれない…とも思った。

「…みず…ぬ…、……みずぬま」

私に近付いてきた一体が驚くことに、私に話しかけた。

その腐ってウジにたかられた顔の一部に懐かしい感じを覚え、そして私は気付く。

それは今日街中で偶然再会し、一緒に酒を飲んだ川村だった。

「……お前、何で………」

私は出せない声を何とか振り絞り、そう言った。

「……助けて、ここから……解放してくれ……」

変わり果てた姿になった川村がかすれた声で私に助けを請うてきた。

私が状況が飲み込めずにいると、天井から私の上によだれを垂らしていた女が降りてきて、私の傍らにいた川村をその異様に発達した巨大な腕でなぎ払った。

川村は勢いよくフロントの壁に叩きつけられ、そのままピクリともしなくなった。

「……シュッー」

女はまるでこれから毒でも吐きかけるコブラのような音を発している。

私は、相変わらず身動きが取れないままだった。

そんな私の目の前で女はその昆虫のような体をグッと起こして見せる。

私はその時、その女がとてつもなくデカイということに気付く。

今まで4本の足?で地を這うようにしていた女だったが、立ち上がったその体はゆうに2mを超える超巨体。体には所々ウジが巣食い、内蔵がむき出しになっている。

女の巨大な腕が鎌を振り上げるかのように高くかざされる…

『…殺される、嫌だ、俺はあんな風になりたくない!』

私は心の中で強くそう思った。同時に自分の最期を覚悟した。

…と、

……ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……

誰かが、ホテルの入り口の自動ドアを叩いている。

「誰かいるのかっ!?おい、聞こえたら何か答えてくれ!!」

私は、生きる望みを託し、最後の気力を振り絞って警官の呼び掛けに答えた。

「助けてくれ、このままじゃ殺されるっ!!」

……ガシャーンッ!……

自動ドアが壊され、2人の警察官がホテルのフロントへ入ってきた。

「早く、銃でこいつらを撃ってくれ!あんたらにも見えるだろう?!早くしないとあんたらも殺されるぞっ!!」

「落ち着け、一体何を言っているんだ?!
ここには君しかいないだろう?!」

警察官は何故かそこにいる女たちの事など気にも留めない様子で私を落ち着かせようとしている。

もう1人の警察官など落ち着き払い無線を片手に、

「指令部、こちら警ら22。通報したと思われる男性を確保。錯乱状態にあり、我々2人では手に余りそうだ、応援を要請する。また、男性の様子が尋常でなかったので、入り口を破壊して建物内に入った」

などと、既に問題が解決したかのような口調で言っている。

「何でだっ?!あんたら本当にこの状況がわかってるのか!早くここから逃げないと、みんな殺されるぞっ!!見えるだろ、そこのでかい女が!!」

「いいから、落ち着きなさい。ここには我々と君以外誰もいないじゃないか」

私は、もう駄目だと、これ以上騒いだところでどうにもならないと諦めて、床に座り込んだ。

そこへ、さっき女に突き飛ばされた、私の友人でもあった者がやって来て私にそっと呟いた。

「無駄だ、俺達が見えてるのは水沼、お前だけだ。それに、俺達のこの姿が見えてしまったということは、お前は遅かれ早かれこうなる運命だ……

本当は、助けてもらおうと思ってお前をここへ呼んだんだが、……あの女に観入られたんだよ、お前は………」

そう言い残して、何処かへ姿を消していった。

それに続くように他の者達も。そして、最後にあの女も。意味深な笑みを残して……闇の中へと消えていった………

私は警察官に両腕を抱えられる形でパトカーに乗せられ、そのまま警察署に連れていかれた。

後日、警察官から聞いた話は、あのホテルの512号室の天井裏を後から来た応援の警察官達が調べたが、発見できたのはネズミや猫など、小動物の死体だけで、どこにも人間の死体など無かったというものだった。

私は、きつく灸を据えられて、そのまま家に帰された。酒に酔っていたということで多少多目にみてもらえたのだろうか?

本来なら何らかの法的罰則が発生するのでは?などと不安になった自分に笑いが込み上げてくる。

……夜が明け、街はもう人でごったがえしている。

『きっと、悪い夢だったに違いない』

そう思うと、安心したのか何かあっさりしたものが食べたくなった私は、近くのコンビニに立ち寄った。

品物を選び、レジに並んだ時…、背筋が凍りつき、昨日の悪夢がよみがえった。

レジで会計をしている女の店員。背丈は普通だし、体も腐ってはいないが、顔は明らかに昨日の女。

『きっと他人のそら似だ。気にするな…』

そう自分に言い聞かせ会計をしてもらう。

「583円になります」

私は無言で金を払う。

「583円、ちょうどお預かりしました」

会計は何事もなく終わった。

『…やっぱり他人のそら似だ』

私が少しホッとして店を出ようとした時…

「お客様」

「何か…?」

「…これ、お客様の携帯電話ですよね?昨日お忘れになりませんでした?」

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