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短編 怪談

私の子#1099

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ここを読んでいて、怖くないのですが、思い出したことがあります。

656 名前:苑蜩[sage] :04/08/16 21:45 ID:QBgZ5zEU

長文かつ駄文かと思われますが、興味のある方だけ読んでいただけたら幸いと思います。

小学五年の頃、箱根の御玉が池から箱根湯元まで旧鎌倉街道を、遠足で歩いたことがありました。

そのとき金時山の山頂近くでお弁当を食べたのを、そのとき見ていた光景ごと思い出せます。

前日、お弁当の材料を買いに出かけた母が事故に遭い、膝の皿を支える腱が少し切れてしまい、

しばらく歩けない状態になっていたせいもあるでしょう。

夜勤を終えた父が眠いながらも母の代わりに作ってくれたお弁当でもありました。

すごくお腹が空いていたけど、いろんな想いが胸に詰まって、母に頼んだおかずだけ食べられずに、

大事にアルミホイルに包んで、父母の温もりを慈しむようにしまい込みました。

・・・私のわがままのために母は怪我をしたのに

「○○のせいじゃないおかぁさんが注意していなかったからこうなったの」

と私をかばってくれた。

・・・父は指を切りそうになりながら料理をし、気丈に振舞う母の演技に付き合って

にこやかに送り出してくれた・・・。

山を降りる途中、先ほどの晴天とは打って変わって、突然雨が降りはじめました。

たいした雨ではなかった記憶があるのですが、都会で育った子供たちには、

雨で湿った道はとてつもなく難儀する道になりました。

滑って転ぶ子が続出し泥まみれの集団が誕生しました。

私は泥の道を歩くのにも慣れていたし、人の歩いていない滑りにくい場所を

少しづつコースをずれながら歩いていたのでなんともありませんでした。

しかしながら泥道のせいで予想以上に時間がかかってしまい、夕暮れがせまり、

またあたりは山の影に入っているらしく曇天と重なり、とても暗くなってきていました。

この遠足は私にとって、学校のみんなと行く初めての遠足でした。

数ヶ月前に転校してきたばかりだったのです。

友達らしい友達もいなかったので、一人コースを外れて歩いても

誰も気に留める人もいなかったし、そんな余裕のある先生はいなかったのでしょう。

ふと気づくと自分と同じように遠足の群れから外れて、先を急ぐ

自分のクラスではない生徒数人が後ろから近づいてくるのを見つけました。

雨合羽を着た彼らは、妙に思えるほど、楽しげに、走るように、私を追い越していきました。

私も負けず嫌いだったし、雨に濡れるのもいやだったのと、父母の元に早く帰りたい一身で

彼らに付いて旧鎌倉街道の小道を駆け下りていきました。

彼らが先に行くのを他のクラスの先生が許したのだろうと、自分の中で勝手に判断しながら・・・。

何人か私の後ろに付いてこようとするが、走り出して妙に気が昂ぶってる私は

一緒に笑いながら前の子供たちと同じように速度を上げて振り切りました。

枯葉の間にところどころ覗く小さな石を並べた滑りやすい石畳の上を

ひたすら走り続けていました。

しばらくすると暗がりの小道を走っているのは自分だけになっていたのです。

一人になったと思ったら湯元の駅の近くの鉄橋が眼下に唐突に現れました。

誰より先に着いた私は待ち合わせのバスのところまで一人で行き、待っていたのですが、

二十分ほどして担任のN先生が一人あわてるように駆け込んできました。

そこからどんな風に叱られたのかは覚えていません。

「あなたが突然見えなくなったと思ってさがしていたら、先の坂を一人で走って降りていくのが見えて、先生必死で追いかけてきたのよ」

そう言っていたような気がします。

一緒に走っていたほかの生徒たちはうまくやったのだろうかとか考えながら

上の空で聞いていたのを覚えています。

帰宅すると父と母が待っていました

父は母の看病のため休んだそうです。

父はリュックを片付けながら弁当箱を洗おうと蓋を開け、おかずが残っているのを見つけ、

さびしそうに「おいしくなかったのか」と聞きました。

私は今日起こったこと、考えていたこと、いろんな想い、たくさんの言葉で表せない感情を、

抑えきれずに泣きそうになりました。

そのとき寝ていた母が

「おとうさん、それはそれでいいのよ、この子は私の子供だから」

とやさしく慰めてくれました。

父はよくわからなかった様ですが、私がお弁当に不満があって

残したんではないと安心したらしく、丁寧に包まれたそれをゴミ箱に捨てました。

その夏は様々な出来事があったのでこの出来事が記憶に埋もれていました。

今日ここの話を読み、この日の母の言葉の意味に二重の意味があることに気づきました。

父は五代遡っても江戸っ子ですが、母は山育ちでおじいさんに連れられ山の話を

よく聞いていたのです。

ご飯を残さなければいけないことも多分知っていたでしょう。

鎌や蛇の話、振り返ってはいけない者の話も母から聞いたことがあります。

リュックのジッパーの留め金につけられていた、ナイフを象ったキーホルダーも

母がつけたものだったのでしょう。

そして、思い起こせば、あの街に十数年暮らすことになったのですが、あの日追い越していった

雨合羽の生徒たちに、私はあれ以来、会った事が無いのです。

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