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短編 山にまつわる怖い話

わヰら【ゆっくり朗読】3100

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学生時代、盆に実家へ帰省した時のことだ。

そこは鄙びた山里で夏でも涼しく、避暑にはうってつけの場所らしい。

祖父母の世話になりながら、例年の如くノンビリと過ごしていたある日。

里の外れに人集りが出来ていた。

「どうしたんだろう?」と好奇心を引かれ、近くへ寄ってみたという。

事情を聞くと、里で一番の大木に、何物かが引っ掻いた痕が付いているとのこと。

指差す所を見ると、確かに大きく抉れた傷が、木の幹に刻まれている。

どの傷痕も、人の腰高くらいの位置に付いていた。

「熊でも出たんですか?」

恐る恐るそう尋ねてみると、

「いや、これが爪の痕だとすると、熊よりずっと大きな何かだ」という返事。

驚いて他の里人たちの顔を見回したが、皆同じ意見のようだ。

彼の表情を見た近所の小父さんが、安心させるように肩を叩いて教えてくれた。

「心配するな、ここの里じゃ偶に現れる傷でな。爪の主はこれまで人に目撃されたことも、危害を加えたこともない。人を避ける性質みたいでな、正体は誰にもわからんのよ」

集まっていた人も恐れている様子はなく「随分と久し振りに出たな」という感じで、傷痕を前に四方山話に耽っていたのだそうだ。

その内に一人がこんなことを宣いだした。

「前に学校に来ていた、偉い先生がこう言っとったぞ。これは『わいら』っていう動物が付けた傷だろうって」

一同感心した風になり、

「流石に街で勉強した人は違うな、よく知っとるわ」

「わいらか、さぞかし大きな爪を持っとるんだろうなぁ」

そんなことを口々に述べていた。

……その先生って、水木しげるの妖怪本に詳しい人だったんじゃないかなぁ……

友人はそんなことを考えたが、口に出して言うこともなく、

「凄いですねぇ」と一緒になって騒いでいた。

その後も里帰りはしているが、あの傷痕はあれから出ていないという。

わいらを目にした者もいないのだそうだ。

199: 雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 2014/07/02(水) 18:14:43.77 ID:Xrn5vfRy0.net

(了)

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