第26話:焼きついた影
私の大学時代の体験なんですが、大学の友達数人とキャンプに行った時のことです。
地名はいえませんが、とにかく崖に囲まれた砂浜でした。
そこでテントを設営することになって、いくつかのテントを並べたんです。
設営が終わって夕食の準備をしているときに、私は気付いたんです。
私が担当したテントの位置が移動してるんです。
倒れたわけじゃなくて、綺麗に張った状態のまま、位置がずれてるんです。
誰かが勝手に移動したんだと思った私は、ブツブツ言いながらも自分でテントを元の場所に張り直しました。
それから全員で焚き火を囲んで夕食をとりました。
でも、夕食が終わってテントを見た私は、今度こそ声を上げました。
「誰だ勝手にテントを動かした奴は!!」
またテントの位置が移動してたんです。でも名乗り出る者は誰もいませんでした。
私はまたテントを元の位置に移動しなければなりませんでした。
その後、キャンプファイヤーを楽しんでから、そろそろ寝よう、ということになりました。
テントのそばにはまだ火が燃えています。
私達は、この火を絶やさないように、一晩中交代で熱の番をすることに決めました。
いよいよ私の交代時間になって、私がテントを出て見張りの人と代わりました。
今まで火を見張っていた男の人が、私が出てきたテントで入れ替わりに眠るんです。
でも、さっきまで見張りをやっていた人がテントに入ってしばらくすると、中のランプの明かりに照らされて、彼が起き上がってくる影がテントに映ったんです。
何かを探すように、周囲をキョロキョロと見回している……
それから彼は何かを怒鳴り始め、更には両手を振り回して大暴れを始めました。
テントを内側から外側へ殴ってるんです。
「何やってるんだ……?」
そのうちにテントは内側へと倒れてしまって、私は慌ててテントを起こして中から彼を助け出しました。
彼はカンカンに怒っていました。
「やめろよ、イタズラするのは!!」
彼は、誰かがテントの周りを歩き回って、うるさくて眠れなかったって言うんです。
それどころか、テントを外からバンバン叩いたって言うんです。
でも、焚き火を見張っていた私にはそんな者は見えなかったし、彼が中で暴れている様にしか見えなかったんです。
結局その日は焚き火を消して、もう寝ることにしました。もちろんテントを張り直して……
次の朝、私達はテントの中で寝袋を畳み始めました。
急に昨日の彼が「あっ……」って声を上げたんです。
よく見ると、彼の寝袋の背中の部分に焼け焦げた跡があったんです。
スキー板の様な、先の尖った細長い形でした。
でも、テントの床シートには何の痕跡もありません。
「何だこれ……?」
彼はしばらく焦げ跡を見つめていましたが、それがスキー板の形とは違うことに気付いたんです。
先端の尖った方の横に、ノコギリのようなギザギザがあるんです……
……この形!
私達は慌てて外に出ると、テントを畳んで、丁度彼が寝ていた辺りの砂を掘り返してみたんです。
確信があったわけじゃありません。
でも私達はまるで、そこに何が埋まっているか知っているかのように、砂を掘り返し続けました。
……やがて、私達が思ったとおりの物が出てきました。
スキー板によく似た、でも、先端近くの側面にギザギザのついた……
それは、卒塔婆でした。
私達は卒塔婆の上にテントを張って寝ていたんです。
崖の上を振り仰ぐと、お墓らしい物が立っているのが見えました。
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]