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米里の炎 r+4,750-5,234

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学生時代の無軌道な夜遊びが、二十年近い時を超えてもなお、影のように人の人生を蝕み続けることがあるのだろうか。

楡井さんが語った「鍋倉さん」の話は、まさにその象徴のように思える。

かつての仲間と廃屋を焼き払ったあの夜――それは酔狂な悪戯のつもりだった。だが炎があたりを照らし出した瞬間、彼らは知らぬ間に何かを壊し、誰かを呼び覚ましてしまったのかもしれない。火遊びの代償は、事故や病気や心の崩壊という形をとって、ひとりひとりの背中に降りかかっていった。

鍋倉さんは、表向きは乱暴で無骨な人物に見えた。だが楡井さんの言葉から伝わるのは、むしろ真っ直ぐで義理堅い、不器用な優しさを抱えた男の姿だった。その彼が、自ら命を絶つという選択へと追い込まれてしまったことは、あまりに皮肉で、やりきれない。

練炭の煙が漂う車内に残された最後の孤独――その光景を想像するだけで、胸の奥が締めつけられるようだ。携帯電話をかけ続けたという事実は、彼が最後の瞬間まで「繋がり」を求めていたことを示している。それに応えられなかった現実が、なおさら生々しい傷として残る。

だが恐ろしいのは、死によってすべてが終わるわけではないという点だった。葬儀の後、楡井さんの夢に現れた鍋倉さんの姿。無言で佇み、冷たい眼差しを向けるその幻影。夢の中で彼が車へと吸い込まれていく光景は、単なる幻視なのか、それとも何かの「続き」なのか。

かつての火の粉が、廃屋を焼くだけでなく、彼ら自身の人生を長く燃やし続けていたのではないか。燃え移ったのは木造の家ではなく、人間の縁と記憶そのものだったのではないか。

祟りという言葉は、時に大げさに聞こえる。だがこの話を耳にすると、単なる迷信とも言い切れない。人間が知らずに触れてはならないものに触れ、その代償を背負わされる――そんな理不尽さが現実の中で蠢いているように思えてならない。

楡井さんが「鍋倉さんの祟りから解放されたわけではない」と語ったとき、その声には恐怖だけでなく、どこか諦めにも似た響きが混じっていた。生きている限り、誰かの影はつきまとう。ましてや火の中に葬り去った記憶ならば、なおさら。

米里の家の跡地には、今も雑草が生い茂るだけで、誰も足を踏み入れようとしないという。夜になると風がざわめき、黒焦げの匂いが蘇ると囁く者もいる。そこに何がいるのかは誰にもわからない。ただ一つ確かなのは、あの夜から始まった連鎖が、今もどこかで誰かを見つめ続けている、ということだけだ。

(了)

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