俺のじいちゃんは、生前 いわゆる“見える人”だったみたい。
みたいというのも、俺にはそんなのが全くなかったから、本当がどうか分からないから。
でも、大のじいちゃんっ子だった俺はよく二人で出かけてて、何度か不思議な経験をした。
そのうちの、一つの話。
俺がまだ小学生の時のこと。
その日俺とじいちゃんは、近くの山に山菜を採りに行ってた。
この野草は食べられるとか、このふきは美味しいとか、色々教えながら山菜を採ってた。
持ってきていた買い物袋いっぱいに山菜が採れて、帰り始めたのは夕方頃。
山を降りていたら、急にじいちゃんが俺の頭を抑えつけて下を向かせた。
俺が驚いて顔を上げようとしたら、じいちゃんが「動くな!目ば閉じとけ!」って怒鳴ってきた。
じいちゃんはすげえ優しくて怒られたこともなかったから、子供ながらにただごとじゃないってのがわかった。
頭を抑えつけるじいちゃんの手も震えてて、すげえ怖くなって俺もガクブル。
そしたら、山道の下の方から足音が聞こえてきた。
その足音が少し変わってて、靴で歩く音じゃなかった。
ぬちゃっ、ぬちゃっていう、不気味な音だった。
俺は怖くて必死に目を閉じてた。
よく聞いたら、じいちゃんも必死に呟いてた。
「この子はご勘弁下さい。この子はご勘弁下さい……」
まるでお経のようにずっとそう言ってた。
足音は徐々に近付いてきた。
でも、決して止まることなく上の方に消えていった。
足音が完全になくなったあとに目を開けたら、じいちゃんは疲れ切った顔してた。
でも俺の方を見たときには、いつものように優しく微笑んで、「帰るぞ」って一言だけ声をかけた。
結局その足音がなんだったのか、じいちゃんは教えてくれなかった。
ただ、一度じいちゃんが酔っ払ってたとき、口を滑らせたことがある。
「あそこの山に行ったときは肝が冷えた。ただ、そんときは満腹だったんだろう」
それを聞いて、凄まじくゾッとした。
少なくとも、獣か何かじゃないのは分かる。
あんな足音の動物なんていないだろうし。
それ以上は、怖くて聞かなかった。
でももし、その足音の主が空腹だったのなら、俺とじいちゃんはどうなってたんだろう……
886 :本当にあった怖い名無し:2016/04/23(土) 13:05:58.48 ID:eG9coNsf0.net
(了)
[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1456148213/]