短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

郵便配達【ゆっくり朗読】2100

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以前仕事で聞いたことを書いてみる

588: 2012/01/20 18:28:56 ID:tD4ac+Up0

あんまり詳しく書くと職責に触れるんで、結構改変するからフィクションとして見てほしい。

郵便配達の仕事をしていた頃、ある日誰もいない空き家に一通の茶封筒が来てた。

大体引越してくるときには、不動産屋や水道、電気関係のハガキが来るから、前の住人のものだと思って、配達に使う原簿を確認して、住んでいた人がいないかどうか調べてみた。

もともと住宅街の一角にある家だし、住人の出入りが激しいところではないので、それまで細かく見てなかったんだけど、いざ調べてみると、そのうちだけで4家族ぐらいが入転居を繰り返してる。

期間も二番目以降はどれも三ヶ月とか半年とかで引っ越している。

目当ての名前はすぐに見つかり、最初に住んでいた家族の世帯主だと分かった。

原簿を持って、班長に、『転居につき還付をしたいので押印をお願いします』と頼んだところ、脇から坂本さんという、ベテランのおじいさんがヒョイと顔を出してきて

「ありゃ、こりゃあダメだよケンちゃん。ここ今は誰も住んでないけど、この名前で来たらとりあえず配達してくれないけ?」

「えー?あそこポストにガムテープ貼ってありますよね?」

「ああ、裏から回って取り出し口から押し込んでくればいいよ。そういう決まりなんだ。」

「そうなんですか?」

と班長に話を振ってみると

「いや、俺は知らないなぁ。返さないとまずいんじゃないの?」

坂本さんがまた口を挟む。

「小林君は異動してきたばかりだからなぁ。前にこれ返したらさ、送り主が偉い剣幕で乗り込んできたんだよぉ。すごかったぞぉ。そこの机蹴っ飛ばして『なんてことをしてくれたんだぁ!』って叫んでさぁ」

「どんだけっすか……」

「いや、本当だって。その人がいうのには『その家にはその人が住んでる。それを決まった時期に送ってあげないと大変なことになるんだ!』って、もうすごいことすごいこと。まぁあんな家だし、そういうもんなのかもしれねぇけどな」

で、その家のことを詳しく聞かせてくれといったところ、話が長くなるので仕事が終わってから酒でも飲みながら話そうということになった。

後処理を終えて、職場の先輩のご両親がやっている小料理屋に移動すると、ビールを一杯ひっかけてから、顔を真っ赤にしながらゆっくりと話してくれた。

もともとその家はバブル期に佐藤さんという人が購入した家だった。

佐藤さんはどこかの中小企業の社長さんをしていたようだったが、不景気のあおりを受けて会社が傾き、ある日家族揃って失踪してしまった。

坂本さんは、遠い目をしながら語る。

「督促状だの、特送が来てよぉ。裁判所からのやつなんぞ持っていくと、奥さんが疲れたような、申し訳なさそうな顔をして『またですか』って言うんだよ。俺も長いことやってるけど、あの顔は忘れられねぇや。こっちが悪いことをしてるような気分になる」

その後家は売りに出され、一年後には買い手がついた。

その家で奇妙なことが起こりだしたのは、ちょうどその頃だった。

坂本さんが書留を持ってその家に行ったとき、呼び鈴を押すと階段を下りてくるくような音が聞こえた。

すぐに扉が開くと思いしばらく待ってみるが、一向に開く気配が無い。

また呼び鈴を押すと確かに物音はするのだが、返事がない。

シビレを切らした坂本さんは不在通知をポストに投げ入れて帰ったところ、翌日再配達の依頼が来た。

「昨日はお忙しかったようですね。何度も呼んだんですが聞こえなかったみたいで」

と嫌味たらしく言うと、

「昨日は日中は出かけていた。何度もご足労をかけて申し訳ない」と返ってきた。

「あれ、昨日の昼間誰かいたような物音がしたんですが」

家の人は怪訝な顔をすると

「え?昨日は日中はずっと留守にしていましたよ?」

「そうですか?誰か二階から降りてくるような音と、あと中でばたばたと歩き回っているようでしたが」

「うち……主人と二人暮らしですし、ペットも飼っていませんの」

気味が悪そうにそう告げると、パタンとドアを閉めてしまい、それからしばらくして表札が外された。

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それからも同じように引越して来る人はいたが、いずれもそう長くはおらず、あっという間にいなくなってしまった。

ご近所さんの間でも噂になり、坂本さんが聞いたところによると、家の者が留守にしているはずの時間帯に、誰かいるような気配がする。

回覧板を回しに行くと音はすれども出てこない。子供達が登下校時にその家をふと見ると、二階の窓から子供の人影が自分達を見ていたのだと言っている。

風もないのに干してあった洗濯物が全て地面に落ちていたり、表札がいつの間にかになくなってしまうことも度々あったようだ。

「一番最後にあの家に入った人が出て行ったとき、たまたま近所の人が居合わせて話しを聞いてみたんだと。するとなんて言ったと思う?」

最初は家具の位置が違っていたり、閉めたと思ったドアが開いていたり、気のせいかな?と思えるようなことだった。

それが段々ひどくなり、何もないのに食器が落ちて割れる。

急にガスコンロに火がつく。夜中に誰かが言い争っているような声がする。

そしてついには「出て行け。出て行け」とどこからともなく声が聞こえてきたり、いるはずのない人の気配がしたりと不気味なことが続きノイローゼになってしまったとのこと。

「あの家の今の売値よ、六百万だとよ。安いだろ?周りの三分の一以下だ。そこまで下げても誰もよってこない。不動産屋も持て余してるんだよ。でもしょうがねぇよなぁ。あの家は佐藤さんの家なんだ。周りに追い詰められてよ、家まで追い出されたんだ。どこにも行くあてのない可哀想なホトケさんが、成仏できずにあそこには住んでるんだよ」

封筒にはどんなことが書かれているのかまでは分からないそうだが、半年に一度送ってくるらしい。

配達した翌日、再度ポストを覗いてみると、DMの類は何年も前から残っているのに、その封筒だけが無くなっていた。

ちなみに今もまだその物件は空いてる。

(了)

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