洒落にならない怖い話

憑き護(つきご)【ゆっくり朗読】4125-0103

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俺が子供の頃に体験した話だ。

あれは忘れもしない小学五年の夏休み前のこと。古い学校で、創立八十八年って位のボロボロの学校だった。

一応改築やらなんやらで生徒の手の届くような場所はコンクリートで塗り固められていたが天井付近や天井は木造だった。

今思うと変な感じだった。

それで、これまた年代物なプールがあるんだが、事件はそこで起こった。

今思えば始めに起きてたのが、プールで泳いだりなんだりとしていると足を掴まれる人が何人か出た。

まあ怪談の類じゃよくある話だし、俺がいたクラスでそういう被害にあったって言う奴もお調子者な奴やちょっと意識過剰な奴とかだった。

先生も「フザけてるせいでいたずらされるんだろう」と笑い飛ばしたりしていた。

はっきりとした形として現れたのが、俺のクラスが、プール授業の日だった。

その年に入ったばかりの新米の女の先生。二十歳そこそこで美人の姫川先生が授業見学のような感じで来ていた。

授業は普通に行われて自由時間になったので、担任やその見学に来てた姫川先生もプールに入ってみんなと遊んでいた。

突然姫川先生が溺れた。

正確には足がプール横にある溝に挟まって浮かんでこれなくなったらしい。

俺は近くにいなかったのでその場は見てはいないが、担任や、近くにいた男子でなんとか足を溝から外して、プールの上に引き上げたらしい。

姫川先生は無理矢理足を引っ張ったので捻挫したのか、とにかく怪我をしたということで保健室まで担任が連れて行った。

保護者がいないので俺らもプールから上がって着替えるように言われた。

俺の学校は、女子更衣室があったが男子更衣室がなかったので男子は教室で着替えていた。

着替えをしてる最中、姫川先生を引き上げたうちの一人が「うちのプール、溝なんてあったか?」と言った。

俺も溝なんて初めて聞いたし、そんなものあるなんて知らなかった。

クラスの連中も同意見だったようで誰も溝の存在は知らなかったらしい。

今考えると、人の足がハマるようなサイズの溝を学校が放置しておくだろうか?

そんな話をしながら着替えを終え、女子たちも戻ってきた。

姫川先生にいつもベッタリとくっついていた女子2人組は半泣き状態になっていた。

女子も溝の件について同じような話をしていたらしく、男子、女子でお互いの話を繋ぎ合わせてみようということになった。

姫川先生から離れて遊んでた俺や数人のクラスメートは、姫川先生の溺れる状態を遠巻きに見てるだけだったので、聞く立場になる。

溝から引っ張り上げた男子数人は声を揃えて、

「確かに溝はあった。足はプールの壁と壁の間に引っ掛かっていた」

と、実際先生のくるぶしと足の指先を掴んで引っ張りあげた奴も同じ証言をしていた。

しかし、女子の話によると先生を助けた後にどんな溝かと確認したら、そんな溝は一切なかったという。

ただの平面で、プールの底面から壁に当たったらそのまま真横の壁のみだったという。

プールの側面を全体調べたわけではないが姫川先生のいた場所には溝はなかったそうだ。

そもそもプールの水深は姫川先生が溺れるほど深くはない。

当時身長150cm満たない俺でも肩は出るくらいの水深だ。

女性とはいえ、そんな俺よりも背が高かったはずの姫川先生が足がプール如きの溝に挟まったくらいで溺れるだろうか?

ああでもない、こうでもないと、男女で揉めてる所に、姫川先生にベッタリだった女子2人組の亜希子さんが、半ベソかきながら

「……顔があった」と言った。

その言葉を聞いた久美さんが凄い怖い顔をしながら

「亜希子ちゃん!」と叫び、さえぎった。

あの顔はたぶん一生忘れられない。怖かった……

顔とか言われて何が何だかわからないし、ちょうど男女が揉めて騒いでる中だったせいもあって誰も聞いてなかったようだが、久美さんの亜希子さんを一喝する声のせいで全員が静まった。

「顔ってなに?」

誰かが聞いたけど、亜希子さんも久美さんも二人でボソボソと言い合いをするだけになって返答はこなかった。

二人とも元々微妙に人と接しないような性格をしてて、二人だけの世界を共有してるような雰囲気がいつもあったので、これ以上二人に聞いてもしょうがない、ということになりそのまま流すことにした。

とりあえず姫川先生を心配している女子と好奇心強めな俺と男子数人で、保健室まで見舞いにいくことになった。

姫川先生は保健室にはいなかった……

保健の先生曰く、足の怪我が酷くてここでは応急手当しかできないので病院まで搬送してもらったと言う。

子供ながらに俺たちは不審に思った。

姫川先生は2日後に学校に戻ってきた。

……ちょっと話を前に戻す。

姫川先生が戻ってくる前の話だ。

学校では放課後になればプールが自由解放されていたが、姫川先生が溺れた日は、学校側が調査のためだとかいう理由で解放されなかった。

しかし、俺や先生を助けたクラスメートで、本当に溝はあったのか?という好奇心を抑えきれず放課後にちょっと忍び込むことにした。

プールのフェンス自体はそんなに高いもんじゃないので簡単に乗り越えられた。

中に入ると、プールの水は全て抜かれていた。

溝は……なかった。

話を姫川先生が戻ってきた日に戻す。

姫川先生はおかしくなっていた。

はっきりとではないが顔も違う感じになっていて前の印象はなかった。

それは日に日に状態が悪くなっていった。

色々変な行動があったが一番印象に残ってるものは、給食運搬用の台をリアカーのように押しながら、俺の教室の前で止まり亜希子さんと久美さんに目を向けて手招きしていた。
……無表情でだ。

担任の先生が苦い顔をしながら教室を出て行き、姫川先生をどこかに連れて行っていた。

六年生の水泳授業の時に姫川先生が俺たちの授業の時のように見学にやってきたらしい。

前科もあるので姫川先生は、他の先生にプールに入るのは堅く止められたらしい。

その日の姫川先生はおとなしく座っていたらしかったが、溺れてからおかしくなった姫川先生にフザけてちょっかいをかけようと、六年の男子生徒が

「せんせー。溺れた場所ってあそこー?」

とか聞きながら姫川先生に近寄ったら、姫川先生の足にはとうもろこしを押し付けたような跡がいっぱいついていたそうだ。

ちなみに、姫川先生はその場でニコニコしてるだけで何も言わなかったらしい。

その話を1年違いの兄弟がいるクラスの誰かが聞きつけて、うちのクラスでは瞬く間に噂になっていった。

足を小さな子供の霊に掴まれた跡だとか、溝が異次元と繋がってて、そこに行った証だとか。

話が広まりまくって担任の耳にでも入ったのか担任が「人の陰口を叩くな」と怒っていた。

数日経ったある日のこと。

俺と友達数人で、さぁ帰ろうかと授業道具をランドセルに押し込んで教室を出た。

廊下の奥の方で誰かがうずくまっているように見えた。出口に行くにはその廊下を突っ切っていくしかないのでそのまま廊下を進んでいった。

姫川先生だった。

姫川先生はなぜか廊下に大量の教材を撒きながらペタリと座り込んでいた。

うずくまってるように見えたのはこのせいだと思う。

「あら、おはようございます」

姫川先生は放課後なのに朝の挨拶を俺たちにしてきた。

姫川先生は気分がいいのかどうかわからないが授業はどうだ、とか学校は楽しいか、とかいじめはないか、など色々聞いてきた。

わりと普通に話せる様子だったので、思い切って姫川先生に足のことを聞いてみることにした。

ただ、まさか足をいきなり見せてくれとは恥ずかしくて言えないので、「靴のサイズいくつですか?」とか、子供なりに遠まわしに聞いていった。

なんて言ったのかは覚えてないけど、友達が機転を利かせて足を見せあうように仕向けた。

姫川先生は溝にハマった足の方をズボンをちょっとまくりあげて見せてくれた。

たくさんのデコボコの跡があった。

確かにとうもろこしを押し付けた跡のように見えなくもない。

でもあれは、口を「イーッッ!!」って引っ張ってそのまま足に押し付けたような歯型だった。

前歯や八重歯みたいな跡がクッキリついていて、大量の歯型を押し付けたような跡だった。

姫川先生がソレを見せて俺たちが認識した瞬間を見計らったかのようにクスクスと静かに笑いだした。

怖くなった俺たちは一気に校門まで逃げ出した。

全員、事もあろうに上履きだった。それほど必死だったんだと思う。

「あれ歯型だよ!」

「ドクロの歯のとこ押し付けたみたいな跡!!」

「あの人ヤバイって!」

上履きで出たけど誰も戻ろうとは言わず、その日はそのまま上履きで帰った。

次の日、姫川先生は至って普通だった。

おかしいままだけど昨日の事は何も知らないといった素振りだった。

ただ、ここから学校全体への異常が始まり出した。

図書室の本が全て逆さまに並んでたり、校庭のど真ん中に理科室のビーカーやフラスコが大量に割れてたり、朝来るとカラスやハトが必ず学校に何匹か入ってきていることも何週間か続いた。

タチの悪いいたずらって事で学校側は用務員に夜の見回りとかをさせていたが、結局犯人は見つからず、変ないたずらが続いていた。

俺のクラスでは「きっと姫川先生が犯人だ!」と話が持ちきりになっていた。

歯型の一件以来、俺と友達が話の中心になっていた。

そういった噂めいた話は人の好奇を掻き立て、姫川先生観察隊など名乗り出す連中もいた。

学校から家まで跡をつけるとか言っていつも見失っていたが……

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忘れもしない七月二十二日。

姫川先生が死んだ。

死因は変死らしいが詳しい原因はわからない。家で死んでいたそうだ。

ただちょこっと新聞にも載っていた。

(母校バレるんで調べないでほしい。検索かけても出てこなかったから大丈夫とは思うが……)

クラスの女子が姫川先生のこと書いてる、と言って新聞の切り抜きを持ってきていた。

小さな枠に「小学校の教師変死」という見出しで6~7行書かれてた。

なぜ死んだ日を明確に覚えているかというと、その次の日(7/23)に水泳の授業があって、亜希子さん、久美さん、俺と、姫川先生の足を見た友人が、揃いも揃って、プールからあがると、あの姫川先生についてた歯型がついていた。

足を引っ張られたとか、溝が出てきたとかはなかった。

みんな気味悪がって俺らを避けてくれた。

俺ら自身も気味悪くて、皆で相談して担任に相談しにいった。

担任は俺らの話を聞くなり、すぐに車を出してどっかの寺に連れてかれた。

「どこ行くの?」とか聞いても「後で話す」の一点張りだった。

寺につくと、急いで本堂のような場所に連れてかれた。

一休さんに出てくるような住職みたいな人に

「こいつらかぁ!こいつらかぁ!」

と言われて、TVでよく見る喝を入れる棒みたいなので、俺と友達が肩を叩かれた。

俺はワケもわからずとりあえず怯えてた。

亜希子さんと久美さんの方は住職がいちべつして

「魅入られたか……」

とボソリと呟いた。

その後、俺と友人、亜希子さん久美さん、と分けられ別々にお経を唱えられた。

お経の種類が違ったのかもしれない。

お経が終わったあと住職の爺さんに

「人の噂は人の恨みになる。好奇心で近づくな。喋るな」

と教えられた。妙に心に染みた。

亜希子さんは残って俺と友人と久美さんだけが担任の車に乗って学校に戻された。

そのあと職員室の奥にある応接室の方に連れてかれて、担任から事情を聞いた。

「ここからは先生の独り言だから、ただの戯言だ。でも口外はするな」

という前置きだった。

子供の俺でもちょっとした緊迫感が伝わってちょっと怖かった。

担任曰く、姫川先生は《憑き護》(つきご)だったらしい。

憑き護っていうのは簡単に言うと生きた守護霊みたいなものらしい。

普通に生きてて、人を護ったりするけど、かと言って霊でもないらしい。

土地守とかに近い存在らしくて要するに不幸を被る避雷針みたいな人なんだそうだ。

どこかの家計にそういうのが強く現れるのがあるらしく鬼門、霊道……

とにかく霊的なモノで、普通の人には手がつけられないような場所にそれとなく住ませるそうだ。

京都の方や奈良とかに憑き護は多く住まされてるとも聞いた。

担任の話に戻る。

理由は不明だが、プールでの怪異は大昔からあって、足を掴まれたりとかは本当にあるらしい。それで溺れて大変な事件になったとかも結構頻繁にあったらしい。

困った学校側が姫川先生が憑き護だったのを調べて学校に採用したそうだ。

そして問題の日、姫川先生はたぶん憑き護として俺たち生徒の避雷針代わりに「プールの何か」に掴まれたみたいだ。

その後は、実際には病院に搬送されたのではなく、俺たちにお経を唱えてくれた住職のとこに行ったそうだ。

その「プールの何か」がよっぽど強かったのか、姫川先生が耐え切れなかったのかはわからないが、とにかく姫川先生はソレに負けたらしい。

学校としては憑き護によって怪異から解放されると思ったようだが、逆に憑き護がダメになってしまったとのことだ。

はっきり覚えてないが話を聞いた時、俺と友達、久美さんは泣いたと思う。

姫川先生の足についた歯型を見た後の学校で起きたいたずらはたぶん、憑き護の姫川先生が護りきれなくなり、今までおとなしくしてた何かが暴れたせいだと子供ながらに解釈していた。今でもそう思う。

最初のうちは姫川先生はヒーローみたいな存在で俺たちを護ってくれてたんだよ。とか誰かに話そうと思ったが、俺は今まで守ってくれてた人をおかしな人呼ばわりしたりいたずらの犯人に仕立てあげてたのだ。

そう思うと心が痛くなった。誰かに話す気はすぐに失せた。

罪悪感が強く残った。忘れもしない。

担任もそれを俺たちにわかって欲しくて、たぶんこの話をしたんだと思う。

学校では姫川先生を採る前などは、プール開きの日にお祓い。

何か変なことがあると夜にお祓い、など一時しのぎを繰り返してたそうだ。

翌日、亜希子さんは行方不明になった。

正確には家族ごといなくなったそうだ。夜逃げかな?

「魅入られたか……」といった住職爺さんの言葉は亜希子さんに向けての言葉だったのかもしれない。

その後俺たちの中でこの話をしなくなったし、クラスで姫川先生の話が出ても無視することを徹底した。

今でもこの学校はあるし、俺が卒業するまでに溺れた人が結構いたからたぶんプールの怪異もまだ続いてると思う。

「憑き護」についてですが、説明不足だったようです。

話自体が長くなってしまったので省いたせいです。すまん。

俺も物心ついてからそういったモノに興味を持って色々気になって調べようと思ったのですが、ググったり図書館で文献など探しても出てきませんでした。

二年ほど前に小学校の同窓会があり、当時の担任も出席していたので、話しにくかった事ですがもう月日が経ってたので憑き護について聞きました。

ただ、担任も人にちょこっと聞いただけなので詳しくわからないそうです。

《憑き護》

現代の通称で忌み言らしく、表に出て来ない言葉だそうです。

今の時代では憑き護本人が、憑き護だという事実は知らないそうです。

人によっては親から子に継がれて知ってる人もいるのかもですが。

大昔には憑き護は別の名称で呼ばれており、厄災や飢饉などが起きた時に生贄として扱われていたそうです。

憑き護といってもピンからキリまであるらしく、避雷針として効果の強い人はそのまま何もないように生活していくそうです。

ただ、詳しくは不明ですがお寺だか国の何かだかに憑き護の家計は記録されてるらしく、霊の発祥が強い場所に何らかの理由を与えてその近くに引っ越させたりしているらしいです。

あと、一定期間に強く念が発生する場所には会社の出張とかで合わせて、期間の間だけその場に居させて念を鎮めさせるとかも聞きました。

会社で意味のない出張をさせられた経験のある人は実は憑き護かも……?

効果の弱い人の場合、家計の古い人が、自分が憑き護の家計だと知っている時には、避雷針の立場になる前にお寺などに連れて、表向きには心の修行ということで、滝打ちや禅などを行わせて、実際にはお寺にいる間に避雷針として強くするそうです。

効果が弱くて、家計についても知らない人は、残念ながら姫川先生のようなパターンになったりすることが多いそうです。

勿論普通に生活できたりもするようです。

(了)

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