短編 洒落にならない怖い話

真夜中の闖入者#1350

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まだ宮崎の田舎に住んでた小学校三年の時、姉と二人で「マザー2」ってゲームにハマってたんだ。

俺ん家は「ゲームは土日に三時間だけ」って面倒な決まりがあって、普段スーファミのカセットは居間に封印してあるんだが、このゲームだけはどうしても我慢できなかった。

幸い自分の部屋にはスーファミ本体とテレビがあったので、夜中にこっそり居間にカセットを取りに行っては、姉とマザー2をやり込んだ。

で、実際にプレーするのは俺。

姉は隣りでお菓子食べながら見てて、俺が詰まると色々と知恵出してくれるアドバイザー。

俺より二つ年上だったんで凄い頼りになった。

今でもハッキリ覚えてるが、その頃はゲップーって敵に大苦戦してて、ひたすらレベル上げしてたんだ。はえみつ使えば楽勝だって事も知らずにな。

時間は大体午前一時、春先の季節で寒かったので毛布にくるまってゲームしてた。

必死にザコと戦闘してる時、姉が不意に

「タケ、テレビ消して」て言ってきた。

俺は訳がわかんなかったから焦って

「何で?眠いの?じゃあコイツ倒したら戻ってセーブするからちょっと待ってよ」

と返した。

が。

「ゲームの電源は切らなくていいから……テレビ消しな」

姉は締切ったカーテンの方を見ながら静かに呟いた。

俺は少し怖くなってテレビを消して布団に潜り込んだ。

「どうしたの?」

恐る恐る聞くと、姉は息だけの声で囁いた。

「庭の方で足音が聞こえる」

俺ん家は周りをジャリに覆われていて、人が歩いたりすると「ジャッ、ジャッ」て音がするからすぐわかるんだ。

俺はゲームに夢中で全然気がつかなかったけど、姉は結構前から気付いてたらしい。

で、余りにも立ち去らないから俺にテレビを消させたんだと言っていた。

耳を澄ますと確かにジャッ、ジャッ、と庭先の方から聞こえる。

本当に怖くなって

「犬か猫でしょ?」と聞くが姉は答えない。

じっとカーテンの方を睨んでる。

次第に足音が近付いて来るのがわかった。

足音が窓外のすぐ近くで止まった。

怖くてたまらなくなって姉の腰にギュッとしがみついた。

しばらくして

「あのぉ……、すいません」

甲高い女の人の声が呼び掛けてきた。

姉は答えない。

俺は目をつむり必死で姉の体にしがみついた。

「起きてますよね?……困ったコトになったんで、ココ開けてもらえませんか?」

来訪者が来るにはズレすぎたこの時間帯と、深夜の暗さが恐怖をあおり、怖い夢でも見てる感覚になった。

暫くの沈黙の後、外にいる女が窓に手を掛ける気配があった。

ガタガタと窓が揺れだした時、不意に姉が立ち上がった。

俺を振りほどいて部屋の引き戸を開けた。

「おかーさーん!!窓の外に誰かいるーー!!来てーー!!おかーさーーんっ!!」

姉はありったけの声で叫んだ後、廊下の電気を片っ端から点けて俺の手を引いて親の寝室まで走った。

寝室に着き電気を点けると、母さんはまだ寝ていた。

ちなみにウチは母子家庭で父親はいなかった。

姉が揺すり起こし事情を説明すると、困惑した顔で

「こんな時間に……夢でも見たんじゃないの?」

「違うよ!」

と俺が口を挟もうとした時

『ピンポーン♪』

玄関でチャイムが鳴った……

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母さんは驚き、慌てて玄関に駆けて行った。

玄関の電気を点けると、擦りガラス越しに赤い服を着たシルエットが浮かび上がった。

「どなたですか!?」

「夜分遅くに申し訳ありません。……実は急ぎの用事があってこの辺りで公衆電話を探していたのですが、どうしても見つからなくて……」

「もし宜しければお宅の電話を貸して頂けないでしょうか?」

俺は何だ電話かぁ、とホッとしたのだが

「……申し訳ありませんが、こんな時間に見ず知らずの人を家に上げる訳にはいきません。どうかお引きとり下さい」

母さんはキッパリと断った。

その時は電話くらい貸してあげればいいのに、と驚いたが、今思えば当然だな。

いくら田舎とはいえ、大人が母親しかいない家に、深夜に訪ねて来た他人を上げるのは危険だ。

だがなおも

「お願いします。本当に困ってるんです。電話を貸して下さい」

と食い下がる。

が、母さんは断固として

「申し訳ありませんが、他を当たって下さい」

と断り続けた。

暫く言い争う感じでやり取りが続いた後、女は急に静かになった。

やがて玄関先にあった傘立てから傘を抜くのが見てとれた。

そしていきなり

「ガンッ!!」

傘の先の方を持って、柄の部分で玄関の擦りガラスを叩き始めた。

再び狂気を感じた俺はその場に固まってしまった。

女は玄関のガラスを突き破らんばかりに強く叩いてくる。

「いい加減にしなさい!!警察を呼びますよ!!」

母さんは少し怯んだようだが、強い口調で外の女を一喝した。

しかし女は叩くのを止めない。

「あんた達は居間に行ってなさい!お姉ちゃんは警察に電話!!」

俺は固まって動けなかったが姉に手を引かれ、居間へと走りだした。

バーンと音がしたので振返ったら、母さんが玄関脇にあった靴棚を倒してた。

バリケードを作ってたんだと思うが、今考えるとあんまり意味無い気が……母さんもパニクってたんだと思う。

居間に着き、電気を点けると俺はテーブルの下に潜り込んだ。

どこでもいいから隠れたかった。

警察への電話を終えたらしい姉も潜り込んできて、二人で抱き合い震えながら泣いていた。

暫くすると母さんも居間にやってきた。

玄関からはまだガンガンとガラスを叩く音が聞こえてくる。

台所から一番大きな包丁をとってきて、テーブルの下にいる俺達を見つけ

「大丈夫だから、ね?お母さんがいるから大丈夫だよ?」

とたしなめてくれた。

だがそう言う母さんも顔が真っ青で凄く汗をかき震えていた。

やがて玄関の方から音がしなくなり、家の中が静かになった。

そして母さんが玄関の方へ歩き始めた時

「ガンッ!!」

と居間の窓から激しい音がした。

俺と姉は「わぁーっ!!」と絶叫して気を失いそうだった。

どうやら玄関は諦め、電気の点いてた居間の方に周り込んで来たらしい。

母は果敢にも窓の方に歩みよりながら

「居たいならずっとそこに居なさい!!もうすぐ警察がくるから、どうなっても知らないよ!!」

普段見せた事の無い様な勢いで怒鳴り、シャッとカーテンを開けた。

「……ヒッ!!」

裏返った母さんの悲鳴が聞こえてきた。

母さんの悲鳴を聞いて俺も窓の外を見た。

そこにいたのは明らかに男だった。

濃い髭、ボサボサに伸びた髪、真っ赤なワンピース。

ニタニタ笑いながら部屋の様子を伺ってくる。

本当に狂気を感じ、声すら出なかった。

母さんも後退りし、固まっている。

そして男は窓越しに叫びだした。

聞こえた範囲で書くとこうだ。

「ぎゃははは…………めしやだ!俺………………流せるのに!!ぎゃははっ!!馬鹿が!!ぎゃははははっ!!」

そう言って奴は走り去って行った。

すんげぇ適当だが最初の"めしや"ってのは"メシア"(救世主)だと思ってる。

変な宗教にハマって気が触れた人なのかもしれん。

とりあえず奴が去った後も恐怖が拭えなくて、姉と二人で母さんにしがみついて泣きじゃくってた。

それからかなり時間が過ぎてようやく警察が来たので、「遅いよ!!なんでもっと早く来てくれないの!!」

と凄く罵った覚えがある。

頭にドが付く程の田舎だからしょうがないのだが。

それからしばらくは、家族三人で寝室で寝る様にしてた。

とりあえず覚えてるのはここまで。

高校の時くらいに、ふと思い出して

「あれ何だったの?」

と母さんに尋ねたが

「わかんないよ。警察の人からも結局見つからなかったって連絡だったし」

いまだに正体は不明のままみたい。

(了)

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