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★鉄の塊と化した遺体

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俺は、とある鉄鋼工場の電気炉で働いている。

82 :怖いお話ネット:2024/06/12(水) 15:26 ID:57h1s93k
仕事は100トンの鉄屑やニッケル石を溶かしていくんだ。アーク電極から出る1600度の高温で、全てが真っ赤な溶鋼になる。

ゴミの分別なんて面倒なことはしない。傘も、テレビも、原付バイクも、何もかも炉体に投入して溶かす。全てが一瞬で溶けていくんだ。溶けた鉄は、炉体を傾動させてクレーンで吊る大きな鍋に流し込む。

ある日、出鋼口という湯を出す部分が詰まってしまった。炉体が傾動したまま出鋼口を力任せに直そうとした同僚が、バランスを崩して転落。溶鋼がたっぷり入った鍋の中に吸い込まれていったんだ。

次の瞬間、水分と高温の溶鋼が反応し、猛烈な水蒸気爆発が起きた。同僚の体は瞬時に溶け、破片が四方八方に飛び散った。俺たちは恐怖で逃げ惑い、クレーンの操縦士は鍋を吊ったまま泣き崩れていた。

爆発が収まり、警察が現場に到着すると、遺体の確認を求められた。でも、鍋の中の溶鋼は固まり、同僚の肉片も溶鋼と混ざり合っていた。溶鋼の重量は80トンにも達し、細かく確認するのは不可能だった。

遺族が現場にやってきて、固まった鍋の中を指差し、「この中にいるんですね」と言った。そして、「この固まった湯の一部をください」と求めてきたんだ。

俺たちはランスジェットという機械で溶鋼を切断し、黒く焦げた鉄の塊を遺族に手渡した。遺族はそれを「主人の遺体だと思って処理します」と言い、火葬場に持ち込んだ。もちろん、火葬場の火力では溶けるはずがないが、遺族はそのステンレスの塊を遺骨として家に持ち帰った。

今日、その遺族の家を訪れた。そのステンレスの塊は、錆びることなく、今でもピカピカに輝いていたんだ。

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