僕が育った村は、N県のそれは山の奥だった。
その村には、ちょっとした湖がある。
そこには、龍神が住んでいると、昔から語り継がれていた。
しかし、その湖は、子供の僕らにとっては、絶好の遊び場所であった。
ある日、僕と友達が、学校の帰りにその湖で水切りをして遊んでいると、湖の真ん中辺りが波打っているのが見えた。
「なんだあれ……? なんかおかしくない?」
僕は異常に気付き、すぐ友達に教えてあげた。
友達は、座っていたのだが、様子がおかしい……
近づいて友達を見た時、驚きで声が出なかった。
友達は、時間が止まったように、いや…石のように、身動き一つせず固まっていた……
湖の波は、どんどん激しくなり、やがて大きな影が現れたのだ。
二十メートルほど離れた場所から見ても、その巨大さは、ハッキリとわかった。
「龍だ……」
それは、龍と言うより、大蛇に近い感じだった。
頭だけ、恐竜のテイラノサウルスのように、ゴツゴツしていた。
それは、赤い目でずっと僕の方を見ていた。
僕が、気を失ったのは言うまでもない。
友達が呼んでる声で目が覚めた。
友達は、心配そうに僕に話かける、
「おい!大丈夫か? いきなり倒れてるからビックリしたよ」
「龍を見た……」
「マジかよ……」
その晩、僕の家に村の人がたくさん押し寄せた。
僕は、緑色のチャンチャンコを着せられ、一番上座の席に座らされた。
母さんと父さんは、青い顔して、おろおろするばかり。
村の人は、みんな御祝儀袋を持ってきては、僕に渡すのだ。
僕は、得意気になって龍を見た話を語った。
その日の真夜中、母さんの声で目が覚めた。
「起きなさい、父さんと一緒にいまから出掛けなさい!」
母さんの口調は、いつになく厳しいものだった。
僕は、パジャマのまま父さんの車に乗り込んだ。
父さんに行き先を聞くと、
「お前は今日から、九州のじいさん所で暮らすんだ!ここにはもう二度と帰ってこん……」
両親は、僕が九州にきてから、三ヶ月後に、田んぼも家も全て売り払いやってきた。
あのまま村に残っていたら、村人達に、人柱として湖に沈められていたらしい……
(了)