短編 山にまつわる怖い話

猿の呟き【ゆっくり朗読】3000

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知り合いの話。

103 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :03/12/19 20:59

一人で山に登った帰り道でのこと。

いつの間にか、ブツブツと呟く声が、後ろの繁みから聞こえてきた。

身を硬くして振り返ると、繁みの切れ目から一匹、猿に似たものが姿を現した。

大きさや姿形は猿そのものだが、その顔は壮年の男のものだった。

まるで人間のように、背中を伸ばして歩いていたという。

驚愕している彼の耳に、それの呟きが聞こえてきた。

「…だいすけ まさる まさゆき けんじ あきら…」

猿は、男性の名前を次々に呟いていた。

うち一つが、彼の父親の名前だった。

ピクリと反応すると、猿は呟くのを止め、嫌な笑いを浮かべて近寄ろうとした。

「違う。それは父の名前だ」

思わず力いっぱいに否定した彼を、猿は凄い目つきで睨みつけた。

しばし睨みあった後、猿はぷいと繁みの中へ戻っていった。

彼は、麓まで後ろも振り返らずに駆け下りたのだそうだ。

もしもその時、彼の名前が当てられていたら、何が起こっていたのだろうか。

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