明治以前は、鉄砲に使う鉛の弾を、猟師自身が溶かして作っていたという。
315 :あなたのうしろに名無しさんが…:03/12/24 21:06
夜なべ仕事に炭火で鉛を溶かし、底の丸い鉄鍋で弾を丸める作業を続けていると、不思議なことに家の年老いた猫が、コクリ、コクリと首を振る。
猟師はさして気にもとめず、夜が更けるまで次の猟に使う弾を作り続けた。
翌日。
山にうっすらと雪が積もり始めたその日は、師走とはいえまれに見る不猟の一日で、黄昏時が迫ろうというのに山鳥の一羽も姿を見せない。
さすがの猟師もとうとう諦め、山を下りることにした。
日は暮れ、雪明かりでようやく道が見える時分に、猟師は山の出口にさしかかった。
と、その時、林の中に二つの光りが見えた。
すぐに獣の目と知れたが、その輝きが尋常ではない。
猟師はすぐに鉄砲を構え、頭とおぼしき位置を撃ち抜くが、一瞬瞳が隠れると同時に、弾は金属音をたててはじき返された。
事態の飲み込めぬ猟師は、弾を込め続けざまに撃つが、皆同じように弾かれる。
とうとう前日に作った弾を全て撃ち尽くしてしまうと、それが分かるのか、瞳がゆっくりと近づいてきた。
猟師達は昔からの習いで、いざという時の為、たった一発だけ余分の隠し弾を常に持っている。
猟師は隠し弾を鉄砲に込めると、これが最後と覚悟を決めて引き金を引いた。
最後の弾は見事に当たり、すさまじい悲鳴と共に影が倒れ込んだ。
勇んで猟師が駆け寄ると、なんとそこには年老いた飼い猫が、額を撃ち抜かれて死んでいた。
横には玉を作る鉄鍋が落ちており、これをかぶって鉄砲を防いだものと知れた。
前の日、この猫がしきりと頷いていたのは、玉の数を数えていたのであろう。
畜生は長ずると化けて、人に害を及ぼす。
この猟師の村ではそれ以降、畜生の見ている前で玉を作ることはなくなった。