夕暮れ時、俺は忘れ物を取りに戻った。
俺が通っていたのは、広い霊園と畑に囲まれた古い小学校だった。黒ずんだ壁面がさらに陰気な雰囲気を醸し出し、夜になると街灯も少ないため真っ暗で、怪談が絶えない場所だった。県内でも治安が悪く、不審者の目撃情報があるたびに集団下校を強いられた。
ある日の夕方、忘れ物を取りに戻ることになった。サッカーをしている数人の姿を横目に、俺は急いで上履きに履き替え、暗くなりかけた校舎に入った。省エネのため、放課後の校舎はほとんどの明かりが消されていた。俺は二段飛ばしで階段を駆け上がり、急いで忘れ物を手に取った。
教室を出たとき、廊下にキン肉マン消しゴムが落ちているのを見つけた。汚れてはいたが、人気のある消しゴムだったので、持ち主のことを考えて職員室に届けることにした。暗くて怖かったが、結局1階の職員室前の落し物BOXに寄ることに決めた。
階段を下りている途中、後ろからカシャン、カラカラという音が聞こえた。2階の図書室前の廊下で赤い水性ボールペンを見つけた。遠目からでも、自分のものだとわかった。ボールペンに向かって歩いていると、風もないのにペンが転がり始めた。
ペンを手に取ろうとした瞬間、不意に鳥肌が立った。サッカーをしていた子たちの声が聞こえなくなり、代わりに耳鳴りがした。俺は体操着と体育館履きを片手に、もう片方の手で赤ペンを持ちながら、その場から逃げ出した。
1階に着いた時、目の前の廊下に赤ペンが落ちていた。同じ赤ペンが今まさに目の前で落ちた。怖くなって反対の渡り廊下に向かって駆け出した。上履きのパカパカした足音とは違う音が階段から追ってくるのが聞こえた。俺はキン肉マン消しゴムを放り投げて、グラウンドに飛び出した。
サッカーをしていた子たちの声が再び聞こえ、ボールを蹴り返すと一気に緊張が解けて涙が出た。耳鳴りも止んだ。下駄箱に回り、靴に履き替えたが、赤ペンもキン肉マン消しゴムも見当たらなかった。それ以来、落し物を拾うのはやめた。
後日談
それから数日後、学校は新学期を迎えた。あの日の出来事は悪夢のように思えたが、現実に起こったことだった。落し物を拾わないようにしていた俺は、ある日、クラスメートの一人である山田が赤ペンを無くしたと騒いでいるのを聞いた。山田は試験の採点用に使っていた赤ペンで、どこかで落としてしまったらしい。
その日の放課後、俺はふと図書室前の廊下を通りかかった。あの日と同じ場所で赤ペンを見つけた。しかし、それは山田の赤ペンではなく、俺が見つけたものと全く同じだった。恐る恐る手に取ってみると、突然背後から誰かに肩を叩かれた。
振り向くと、そこには見知らぬ老人が立っていた。彼は優しげな笑みを浮かべていたが、その目にはどこか悲しげな光が宿っていた。「そのペンは私のものだ」と老人は言った。話を聞くと、彼はかつてこの学校で教えていた教師で、戦時中に亡くなった生徒たちの霊を慰めるためにここに来ているのだと言う。
老人の話を聞いているうちに、俺はあの日の出来事がただの恐怖体験ではなかったことに気づいた。赤ペンもキン肉マン消しゴムも、すべてはこの学校に残る霊たちの仕業だったのだ。老人は「ありがとう」と言って消えていったが、その後も俺は彼の言葉を忘れることはなかった。
学校は相変わらず古びたままだが、あの日以来、俺は少しずつ霊たちの存在を受け入れるようになった。彼らもまた、この場所で安らぎを求めているのだと理解したのだ。怖がるのではなく、彼らの思い出と共に過ごすことができるようになった。