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謎のお迎え

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ある認知症の方の思い出

施設までの通勤路に何軒か利用者さんのお宅があって、たまにデイサービスのお迎えの時間を間違えて外で待っておられることがある。

そんな時は熱中症などの危険もあるので、一度室内に戻ってもらうように促す。それが駄目な場合、一人暮らしの利用者さんには同伴出勤することもある。田舎なので、農作業が一段落したらデイサービスに行くという感覚なのだろう。

ある日のこと、利用者の一人である村上恭子さんが家の玄関前で、かばんやらデイサービス用のセットを持って立っていた。「まだですよ。待っててくださいね」と声をかけると、「そっか。じゃあ、また後でね」と言って玄関に入っていった。

職場に着いて確認事項を見ていると、リーダーから「村上さんが昨晩亡くなったって連絡が家族から入った」と報告があった。いやいや、私はさっき彼女と話したんですけど…。お葬式の準備などで来た親戚が間違って出てきたのではないか、ということで一件落着とされたが、どうも納得がいかない。

その後、他の利用者のお迎えに行くため、大きい車で運転手さんと二人で出かけた。村上さんの家の前を通ると、玄関で村上さんが待っているのが見えた。運転手さんも「亡くなったって、朝の申し送りで言ってたよな」と言い、一応停車してみると、本人の姿が見当たらない。ちょうど家族が出てきて「今まで、ありがとう」と言ってくれたので、外から手を合わせておいた。

その後もしばらくの間、玄関前で待っている村上さんが目撃された。しかし、時間が経つにつれてその姿は薄れていき、やがて完全に見えなくなった。きっと彼女はちゃんと彼岸へ行けたのだろう。デイサービスのお風呂が大好きだった村上さん、今年もお盆に帰ってきているのかな。

この出来事があったのは夏の終わりだった。その日は特に暑く、日差しが強かった。農作業をしている人たちも、少しずつ田んぼや畑から引き上げてくる時間帯だった。村上さんの家の前を通ると、玄関で彼女が待っている姿が見えた。私は再び彼女に声をかけたが、返事はなかった。ただ、笑顔でこちらを見つめていた。

その後、デイサービスのスタッフたちの間で、村上さんの姿が見えるという話が広まった。誰もが「彼女はもう亡くなっているのに」と不思議がっていた。あるスタッフは「これはきっと、彼女がデイサービスに行きたくて仕方がなかったんだ」と言った。確かに、村上さんはデイサービスのお風呂が大好きで、毎週楽しみにしていた。

村上さんの姿が見えなくなったのは、お盆が過ぎた頃だった。それ以降、彼女の姿を見たという話は一切聞かれなくなった。皆が「きっと成仏したんだろう」と思っていた。

しかし、その年の秋、村上さんの家族から興味深い話が聞かれた。実は村上さんには双子の姉妹がいたというのだ。その姉妹は若い頃に行方不明になり、ずっと音沙汰がなかったという。村上さんが亡くなった直後、その姉妹の遺体が近くの山で発見された。どうやら長年にわたり山中で孤独に過ごしていたらしい。

この話を聞いた時、スタッフたちは一様に背筋が寒くなった。村上さんが亡くなった後に目撃された「村上さんの姿」は、実は彼女の双子の姉妹だったのではないかという噂が広まった。彼女は妹の死を感じ取り、最後の別れを告げに来たのかもしれないと。

秋も深まり、冬が近づいてきたある日

村上さんの家族がデイサービスを訪れた。彼らは村上さんの遺品整理をしていた最中、ある古い日記を見つけたという。その日記には、村上さんの双子の姉妹に関する記録が詳細に書かれていた。二人は幼い頃から非常に仲が良く、いつも一緒に遊んでいたという。しかし、ある日、姉妹の一人が突然姿を消し、村上さんは長い間その姉妹を探し続けた。

日記の最後のページには、姉妹が再び会える日を夢見て書かれた詩が記されていた。その詩を読んだ家族は、村上さんが亡くなった後に見えた「村上さんの姿」が、実は彼女の双子の姉妹だったことを確信した。姉妹は最後の時を一緒に過ごすために、村上さんの前に現れたのだと。

この話を聞いたスタッフたちは、心から村上さんとその姉妹の魂が安らかに眠れることを願った。デイサービスのお風呂が大好きだった村上さん、きっと来年もお盆に戻ってくるだろう。そして、再びその笑顔を見せてくれることを願っている。

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