石じじいの話です。
677 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2016/08/30(火) 21:42:14.99 ID:yQrUAPBO0.net
じじいの住む村は、かなり山奥で空気が驚くほどよく静かでした。今でもそうです。
そこに戦後すぐに、母親とその娘の親子がやってきたそうです。
噂で聞くに、その娘は素行が悪くいわゆる不良で、それを更生させるために都会から田舎にやってきたのだ、ということでした。
父親は戦死しておりいないので、うまくしつけができないで困っているとも。
1ヶ月後くらいに、その母親は近くの集落の人に(他人だったそうですが)その娘を預けて、そこを去りました。
娘はそこで生活を始めました。
その母親の態度から、じじいは「あの母親は自分の娘を捨てたな!」と気がついたそうです。
じじいは田舎者でしたがバカではなかったので、それはおそらく確かだったのでしょう。
ある日、じじいが山に行く準備をしていると、その娘が(中学生だったのですが)見ていたそうです。じじいをじっと睨んでいたそうです。
痩せた背のちょっと高い女の子だったのですが、眼光がするどかったと言っていました。
じじいはいやな気分になって山にいきましたが、次の日もその娘はいたそうです。
それが数日つづいたのですが、ある日、じじいは思いきって娘に声をかけました。
「わしといっしょに山へいくかな?」
当時は大人が子供に声をかけても通報されるような社会ではなったので。
(それを見ている人もいないし、それを気にかけるような風潮でもない:ある意味、子供はほったらかしだったのです。それにその娘は、預かっている家庭にとっては金をもらって世話をしているにすぎませんから)
女の子は笑いもせずじじいについて来たそうです。
山を一緒に登って石探しと石拾いをしました。
じじいは弁当を彼女に分けてやったそうです。
次の日も彼女は来ました(夏休みだったのです)。
じじいは小さな子供に欲情する性癖を持っているわけではありませんでしたが、まるで自分の子供のようにその子に接しました。
じじいは結婚しておらず子供もなかったので、なおさらだったということです。
じじいは山の歩き方、石の探し方、どんな石が貴重か、などのノウハウをその子に伝授しました。
じじいは、まあ、子供だからこんなことを言ってもしょうがないか、と思っていました。
しかし、事態は思わぬ方向に進みます。
彼女はとても石探しの才能があったそうなのです。
軽々と山を登るし、道を覚えて帰り道も平気で歩ける。
そして教えられたとおりに、またはそれ以上に上手に石を探して、いくつも貴重な石を見つけたそうです。
「えらいことよ。そのこはのう、がまんづようてのう、よう、やまをあるけえたんよ。
あがいな元気な子は、わしらの村にもおらなんだい」
その子は面白い貴重な石をたくさん見つけて、じじいに提供しました。
そして、その見つけた石の中から、ちいさな綺麗なものを1つじじいから分けてもらって大事そうに持ち帰ったと。
ある日、じじいと女の子は山をかなり歩いたあと、おそい昼食をとりました。
女の子が持ってくるようになったお弁当は、粗末なものだったそうです。
食後、彼女は疲れたのか、ウトウトと眠りこけたそうです。
「ありゃりゃ、ねてしもうたい」とじじいは思ってタバコをふかしていましたが、急に「おとうさん!」と彼女が叫んだそうです。
じじいはびっくりして彼女を方をみましたが、彼女はまだ眠っていたそうです。
彼女の寝言だったのです。
じじいは自分がしていた手ぬぐいを折りたたんで彼女の頭の下に敷いて、目がさめるまで待っていたそうです。
その日はそれで石探しをやめて帰りました。
じじいは彼女の卓越した石探しの能力に驚いて、ちょと怪しんでいました。
そうして一ヶ月ほど、日曜日ごとに彼女はいっしょに石探しに出かけました。
じじいは彼女に「友達といっしょに遊ばないのか?」と尋ねましたが、
彼女は「ともだちはいない」と苦しそうにいったそうです。無口な少女でした。
そうしているうちに、彼女はその村を去りました。
聞くところによると、「どこか他の町の家に養子としてもらわれていった」ということでした。
じじいは彼女を自分の娘のように思い、情が移っていたので、かなり落胆しました。
ただ、じじいは娘がことづけたという手紙を渡されました。
封筒に入っていてきちんと糊付けで閉じられて封緘されていました。
じじいは開けてみましたが、そこには、
じじいと一緒に山歩きをしたことがとても楽しかったこと、
自分は母親とあまりうまくいかなかっとこと、
その村での生活はひとりぼっちで寂しかったこと、
そして無愛想な態度をじじいにとったことを謝罪することばなどが書き連ねてあったそうです。
その手紙はじじいのことを『おじいちゃん』と表記していました。
じじいはその手紙を大事に持っていて、私にも見せてくれました。
それは鉛筆で書かれていて、子供にしてはきれいな文字でした。
「のう、ぼく(わたしのこと)よ、かわいそうやったのう。
自分のこどもがにくい親がどこにおらい?
しかしのう、あのころはおなご一つの手でこどもをそだてるんは、えらいたいへんやったんで。
もうええおとなになっとるやろうけど、どこにおるんかのう?」
じじはいとおしむように、その手紙をもとどおり座机の引き出しにしまって、そう言いました。