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短編 人形にまつわる怖い話

キャストドール【ゆっくり朗読】3700

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私がキャストドールに興味を持ったのは、母の友達、響子さんが人形者だったからです。

はじめてキャストドールを見たのは十年前、私が十歳になったころで、母に連れられ響子さんの家に泊まりに行ったことがきっかけでした。

響子さんは有名な製薬会社に勤めている方で、しかも当時独身でしたからそうとうお金があまっていたのか、

SDサイズの人形が家に二〇体程、MSDサイズの人形が一〇体程、1/1サイズの人形が三体と、

ちょっとした人形館でもできるのではないかというくらいのありさまでした。

初めて響子さんの家を訪れてから、私はたびたび母抜きでも響子さんの家に泊まりに行くくらい人形に夢中になっていました。

そのうち響子さんは、

「仕事が忙しくて、なかなかみんなにかまってやれないのよ」と、私に人形たちの洋服やウイッグの仕舞い場所と、着せ替える方法を教えてくれました。

わたしは響子さんの代わりに週に一回のペースで人形たちに新しいお洋服を着せ、髪をとかしたり結ったりして遊んでいました。

それから二月がたった頃母に、兄弟ができると告げられました。

私はあまり学校になじめていないタイプの子供だったので、兄弟ができるのがうれしくてうれしくて。

わたしはその日のうちに母親とともに響子さんと、ドールたちに報告をしに行きました。

母と響子さんがリビングで話している間、わたしは人形部屋でひとり、中でもお気に入りの金髪のドールの髪をとかしながら、

「兄弟ができるの。女の子か男の子かは、生まれてからのおたのしみなんだってさ」

と報告をしました。

「ケーキがあるよ」

と響子さんに呼ばれ、足元に散乱したお手入れの道具を箱にしまい、私はドールたちに背を向けました。

その瞬間、私の着ていたワンピースのすそが何かにぐっと引かれ、よろめいた私はそのまま真後ろに座っていた金髪のドールの足に尻もちをつきました。

すそを何に引かれたのか、ということより先に自分の下敷きになったドールが気になり、すぐに立ち上がりドールを確認しました。

ドールの足が少し曲がっていましたが、幸いドールのもともとの可動域の中で動いただけのようで、足首をつかんで元の向きに戻しました。

その日はその後、響子さんにケーキをごちそうになり、他愛のない話をして家に帰ったのです。

異変はその日の深夜から起こりました。

私は寝ていたのと、経験した父本人が覚えていないというので詳細な時間はわからないのですが、深夜にインターホンがなり、「こんな時間になるなんて絶対あやしい!」

とドアホンのカメラを覗くと、誰もうつっていないのに

「あけて」とマイクに女の子の声が入ったそうです。

うちに小さな女の子は私しかいないので、

「加奈子が夜遊びでもして鍵を忘れて締め出されて、怒られるのが怖くて玄関先でかがんで声だけだしたのか」

と思い、ドアを開けたものの誰もおらず、私の部屋をのぞくと私はベッドで熟睡。

他に起こった異変を箇条書きします。

・洗面所の排水溝から30cmほどのまとまった髪がつまっているのを母が発見する(当時うちは全員ショート)

・夜、廊下から手をたたくような音が聞こえる

・家族全員リビングにいるとき誰もいない二階(私の部屋がある)からバタバタと走る足音が聞こえる(動物は飼っていません・一戸建て)

・リビングの食卓の椅子が家族三人に対して四脚あるのですが(祖母がたまに食事しに来るため)そのうちの使ってない椅子(祖母用)が毎朝引かれている

うちはもともと幽霊屋敷というわけでも、古い建物というわけでもなく、いきなりそんなことが起こり始めたものだから母も父も気味悪がり、だんだん家族全体の雰囲気が暗くなっていきました。

ただでさえ妊娠中の母親を支えるため、私は家事手伝いをするようになり、響子さんの家にはいけなくなっていました。

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そしてある日

ついに、二階のベランダにほしていた洗濯物をおろそうとしていた母が階段から落ち、足をねん挫しました。

それを見つけたのは父だったのですが、そのときの母のおびえようはすさまじかったといいます。

母は病院に運ばれた後もしばらく何があったのか話してくれず、お医者さんは

「赤ちゃんを心配するあまり、精神的にきてしまったのではないか」

といっていたのですが、私が母に繰り返し

「赤ちゃんは大丈夫だよ」

と言い聞かせているとようやく口を開きました。

「しんじゃえ」

その言葉とともに小さな女の子に背中を突き飛ばされたのだと母は口を震わせながら言いました。

その時私は小学校高学年で、家で起こる不思議な事象に関しても、

「ああ、やっぱりおばけはいるんだ」くらいにしか思っておらず、なぜそんなにも両親がおびえるのかがあまり理解できていませんでした。

しかしさすがに大好きな母を突き飛ばされたことには腹が立ち、その日の夜、手拍子が聞こえる時間に私は廊下に出ました。

「お母さんをケガさせないで」

そのようなことを叫んだと思います。

すると少しの沈黙の後、視界の端、本当に見えるか見えないかくらいのところで、金髪がなびくのが見えました。

驚いてそっちのほうを向きましたが何もなく、その瞬間私は妙に納得をしました。

ああ、あの子だ、と。

次の日私は響子さんの仕事終わりを見計らって家をたずねました。

響子さんがお手入れしていたようなので、完全にほったらかしというわけではありませんでしたが、わたしが毎回のように三つ編みに結っていたお気に入りのドールの金髪は、ほどかれストレートヘアーになっていました。

「三つ編み気に入ってたんだ?」

わたしは"彼女"に話しかけました。

心なしか機嫌を損ねたように見える釣り目が、私をじっと見ていました。

私は以前そうしたように彼女に語り掛けながら髪をとかし、結いました。

あの時ね、生まれるまで男の子か女の子か内緒ってママ言ってたのに、わかっちゃったよ。

だってパパもママも男の子の服ばっかり買ってくるんだもん。丸わかりだよ。

あーあ、女の子だったらこんなふうに、髪をかわいくしてあげたかったのにね。

だから当分は、私はあなたの髪の専属の美容師さんになってあげるからね。

子供心に、学校でひとりぼっちな自分と、仕事で忙しいご主人様に放っておかれる彼女を重ね、そのつらさが身にしみたのだと思います。

それ以降我が家での異変は驚くほどなくなり、母も元気を取り戻し、かわいい弟が産まれ、家族四人、元気で暮らしています。

彼女と出会って十年がたち、自分のドールをお迎えした今でも、彼女の金髪を三つ編みにするのはかかせない私の仕事です。

(了)

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