夜の帳が下りたある古い日本の旅館で、Sさんは奇妙な体験をした。深夜、何の前触れもなく目覚めた彼は、障子に映し出された大きな人の顔を見た。その顔はただの影ではなく、幽霊のように室内に浮かんでいるかのようだった。歪んだ表情、不自然に大きな目。その顔はSさんをじっと見つめていたが、突然消えてしまった。それは単なる幻だったのか、それとも何か他の意味があるのか？
この出来事が起きた後、Sさんには不幸な出来事が続いた。あの大きな顔が現れるのは、怒りや憎しみの感情が高まる時。それはまるで、人間の心の暗い部分を映し出す鏡のような存在かもしれない。まるで、私たちの内面の闇を、形にして現れたかのような……
おいおい、変な話があるんだけど聞いてくれよ。昔さ、声帯模写で有名なSさんと仕事してた時のことなんだけど。九州の大分に向かう飛行機の中で、Sさんが急に「おい、俺、変なもん見たんだよ」って言い出したんだ。
それがどんなもんかって？このSさんが地方に行った時の話らしいんだけどさ。宿で寝てたら、なんか変な感じがしてきて、誰かがそばにいるような気がしたんだって。でも、周りを見ても誰もいない。それで、障子の方を見たら、影が映ってるんだってよ。でも、その影がめちゃくちゃ大きな人の顔なんだって。バランスもおかしいし、人の顔にしか見えないって。
で、その顔が急に消えたんだって。Sさん、めっちゃ怖がってたよ。「なんであんなもの見たんだろう？」ってずっと言ってた。夢じゃないって確信してたしね。
その後のことなんだけど、Sさんが付き合ってた女性に包丁でめった刺しにされて亡くなったんだよ。まじでビビった。
でさ、それからしばらくして、ラジオの番組にゲストコメンテーターとして出てた時のこと。70代のおじいちゃんが、同じような話をするんだよ。夜に起きたら、自分のすぐ近くに大きな顔があって、それが廊下にもトイレにも現れるって言うの。その顔、真っ赤な大きな顔で、怖いっていうより気持ち悪い感じがしたって。
それでな、おじいちゃんに聞いたんだ。「身の回りで腹が立つこととか、気にしてることあるんじゃないの？」って。そしたら、「実はあるんだ」って言うのよ。土地の問題で兄と揉めてて、その顔を見てから兄を殺そうと思ってたって言うんだ。
俺、思わず「Sさんもそういう終わり方したんだよ」って話して、「包丁捨てる」って言わせたんだ。
この「大きな顔」ってのは、もしかして、自分の心の中の怒りや悩みが現れる現象なのかもしれないよね。変な話だけど、本当にあったんだからな。
後日談
その話の後日談なんだけど、ちょっと興味深いことがあったんだよ。
ラジオ番組のあと、そのおじいちゃんから連絡が来たんだ。彼はね、「包丁を捨てたら、何だか心が軽くなったよ」と言ってた。そしてね、あの大きな顔をもう見なくなったって。おじいちゃんの話を聞いて、俺もなんだかホッとしたよ。
でもさ、それだけじゃなくて。おじいちゃん、土地の問題で揉めてた兄さんとも話し合いができたって。どうやら二人でちゃんと向き合って、問題を解決に向けて動き始めたらしい。なんかね、あの大きな顔を見なくなったのと、心の問題が解決しつつあるのとが関係してるみたいだった。
それからSさんのことも思い出してね。彼の悲劇が、あの大きな顔の現象になんらかの意味があったのかもしれないって。怒りや悩み、心の重荷が、あのような形で現れてたのかもしれないんだ。
だから、俺はこの話を聞いた人たちにも言いたいんだ。「もし、心に何か重いものを抱えてるなら、それを放っておくんじゃなくて、ちゃんと向き合ってみてほしい」ってね。おじいちゃんのように、心の問題を解決することが、不思議な現象を解消する鍵かもしれないから。
変な話だったけど、結局は心の問題が大きく関わってたみたいだ。それにしても、あの大きな顔の正体は、結局何だったんだろうな。
追申
追伸として、もう一つ興味深い話があるんだ。
この話を友達に話したらさ、彼も似たような体験をしたって言うんだよ。彼は、ストレスがピークに達した時、夢の中で異様に大きな顔を見たって。その顔は彼の悩みや不安を象徴してるような、不気味な表情をしてたんだって。
で、彼がストレスの原因に立ち向かって解決したら、その顔を夢で見なくなったんだって。聞いてて思ったんだけど、これって心理的な現象なのかもしれないよね。
それともう一つ。この話をネットに投稿したら、色んな人から似たような体験談が寄せられたんだ。みんな、大きな顔を見たときには何らかの心の問題を抱えていたって。
これらの話を聞いて、俺は確信したよ。あの大きな顔って、心の奥深くに隠された感情や悩みの象徴なんだって。見た人それぞれに、何かを訴えかけてるみたいなんだよね。
俺たちの心って、本当に不思議で深いものがあるんだなって思ったよ。それに、こういう話を共有することで、何か心の中のモヤモヤが晴れることもあるみたいだ。だから、もし誰かが似たような体験をしてたら、話を聞いてみるのもいいかもしれないね。
（了）
稲川淳二怪談オマージュ作品
