短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

深夜の研究所

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俺は古い研究所巡りが趣味なんだ。最新設備が整った場所もいいけど、古びた研究所には独特の雰囲気があって面白い。でも、今回は友人の中村から聞いた話をしよう。ちょっと不気味な体験談だ。

中村が大学生の頃の話だ。冬真っ只中の寒い日々、寮の暖房が効かなくて近くの古い研究所に暖を取りに行ってた。そこは昔ながらの設備が残ってて、時間が止まったような雰囲気があったんだ。試験管やフラスコ、古い書籍が無造作に置かれてて、中村はそのノスタルジックな感じが気に入ってた。

彼が研究所に行くのは主に深夜。他に人はいなくて、自分だけの時間を過ごせるんだ。その日も中村は書籍を読んでいた。寒さを感じながら集中していると、誰かが入ってくる気配がした。「こんな時間に誰だ?」と思って見ると、入口に恰幅の良い中年男性が立ってた。手には古い書類が入った箱を持ってて、白髪混じりの髪が影になって顔は見えなかった。

若い研究者ならともかく、中年男性がこの時間に訪れるのは珍しい。中村は再び書籍に目を落としたが、男性の動きが気になり始めた。彼は古い書類を棚にしまっていて、「ガサガサ」という音が響いていた。もう一度男性を見たとき、彼は棚の中を覗き込むと、体を棚の中にねじ込んで、内側からドアを閉めたんだ。

中村の思考は追いつかず、呆然としたが、危険を感じて棚に向かった。ガラス窓には、白髪混じりの髪を振り乱し、満面の笑みで中村を見てケタケタと笑う男性の姿があった。驚きと恐怖で悲鳴を上げ、研究所を飛び出した。

「助けを呼ぶべきか?いや、あれは人間じゃないのかも?」と考えながら、とにかく研究所から遠ざかった。だが冷静になり、自分の持ち物を取りに戻ることにした。もし本当に人間なら危険だ。勇気を出して戻った。

入口に立つと、棚の前に若い研究員がいた。中村は急いで研究所に入り、「すみません」と声をかけた。棚のドアを開ける音がし、研究員は振り向くことなく棚を確認していた。だが、中年男性の姿はなかった。若い研究員は黙々と棚を整理し始めた。

「俺の頭がおかしくなったのか…」と自分に呆れながら、立ちすくんでいた。整理を終えた若い研究員がこちらを向いた。その顔を見た中村は息を呑んだ。若い研究員の顔はあの中年男性と瓜二つだった。恐怖で額に汗が滲む中、中村はその場を離れようとした。

背後からケタケタと笑い声が聞こえ、棚のドアが「ガタン」と音を立てて勝手に閉まるのを耳にした中村は、持ち物も取り出さずに自宅へと急いで帰った。翌日、恐る恐る研究所に戻ると、くたびれたおじさんが何事もなく棚を使っていた。内心ホッとした中村は、整理された書類を持って研究所を後にした。

それ以来、中村はその研究所に行かなくなったが、今でも営業しているらしい。あの中年男性と若い研究員の関係は謎のままだ。

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