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幻影の花園

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私には霊感があり、身内に関する『虫の知らせ』を感じ取れる体質でした。

私は若い頃から、非常に鋭い霊感を持っていました。それは単なる直感や予感ではなく、より深遠な意味を持つ力でした。見えざるものを感知し、未来に起こるべき出来事をうっすらと感じ取ることができたのです。しかし、この力は時に重荷にもなりました。私は身内に関する出来事を最も敏感に察知してしまう宿命にあったのです。

その年の11月のある夕暮れ時、私は不気味な夢を見ました。夢の中で私は、小さな白と黒の百合の花が一面に咲き乱れる畑に立っていました。その畑は坂道となっており、坂の上には幼い頃の祖母の姿がありました。私は手にした百合の花を見つめながら、「綺麗だね」と言いました。その花は水彩画のように幻想的な美しさを放っていました。

しかし、次の瞬間、私は突然焦燥感に駆られ、「帰ろう」と祖母に言いました。祖母は無言で首を横に振り、私の言葉に従おうとしませんでした。私の焦りは増すばかりで、「ねえ、帰らないと。帰ろう、早く!もう時間がないから!」と叫びました。しかし祖母は動こうとしませんでした。私は祖母を置き去りにして、一人で坂を駆け下りました。

坂の下には古びた屋敷があり、私はその中に飛び込んでいきました。

祖母を置き去りにして坂を駆け下りると、そこには平安時代よりも遥か昔の木造の屋敷がありました。人気は無く、ただ長い廊下が続くばかりでした。私はその廊下を走り抜け、小さな中庭に出ました。そこには祭壇のように長方形の石が無造作に積まれていました。私は躊躇うことなく、その石の祭壇に向かって走り込みました。

そして私は夢から覚めたのです。この夢は一体何を意味していたのでしょうか。『帰ってきた私』が『帰ろうとしなかった祖母』を置き去りにしていく、という恐ろしい予感がしました。私の霊感はいつも外れることがありません。祖母に何か悲しいことが起こるのではないかと恐れ、母に祖母の家に行くよう促しました。

祖母の家に着くと、祖母は元気に私たちを出迎えてくれました。祖母の手は私よりも温かく、その温かみが私の心を安らげました。それでも、夢の不安な予感は拭えませんでした。祖母は私の心の拠り所であり、唯一の愛情の源泉でした。虐待された子供時代を乗り越えさせてくれたのは、祖母の愛情だけでした。その日、私は祖母に離れることなくついていました。

しかし翌朝、期せずして叔母から電話があり、衝撃の事実を告げられました。祖母が亡くなったのです。私は夢で祖母を置き去りにしてしまったことを悔やみました。私があの時、無理にでも祖母を連れ戻しておけば、運命は変わっていたかもしれません。もしかしたら、私自身も祖母と共に別の運命を辿ることになっていたのかもしれません。

後日談

祖母の三回忌が過ぎた頃、私はふとしたきっかけから、あの夢の意味を理解するに至りました。あの夢は、単なる予言ではなく、過去と未来が交差する奇妙な時空の織り交ぜによって引き起こされた出来事だったのです。

夢の中の祖母は、かつての若い頃の祖母の姿をしていました。そして、私が駆け降りた先の屋敷も、祖母の生まれた明治時代よりももっと昔の建物だったことに気づきました。つまり、私がいた場所は、祖母の過去と未来の狭間にあったのです。

私が無理矢理に祖母を引きずって「帰らせよう」とした理由は、この時空を乱さないためだったのかもしれません。祖母の運命は、かの屋敷に留まることなのかもしれません。しかし、人智を超えた力に翻弄されたことで、私は祖母を過去に残してしまい、将来の祖母を失ってしまったのです。

このことから導き出される真理は、時を越えた力に従うか、それとも人智を働かせるかの二者択一であり、その選択は常に禍根を残すということです。私たちが安易に手を伸ばす神秘は、実は深淵の入口だったのかもしれません。

私はこの体験を通して、人智に頼ることの危うさと、奇妙な力に身を任せることの賢明さを学びました。視えぬ力を尊重しつつ、人としての賢明さと勇気を忘れないことが大切なのだと悟ったのです。そして、何よりも大切なのは、愛する人との絆を大切にすることです。あの夢がその教訓を私に与えてくれたのかもしれません。

(了)

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