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案山子の囁き r+704

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数年前。妻と、間もなく1歳になる息子を連れて、妻の故郷を訪れた時のこと。

義父母や義弟に温かく迎えられ、数日間楽しい時間を過ごしていた。その滞在中のある日、「せっかくだから皆で温泉に行こう」という提案が持ち上がった。目的地は、車で1時間ほどの距離にある日帰り温泉施設。チャイルドシートを設置した私たちの車では全員が乗れないことや、義弟が帰りに寄り道したいと言い出したこともあって、結局車3台での移動となった。

出発前にナビを設定し、目的地を確認。私たちは義父母の車と義弟の車について行く形で出発した。最初は順調に進んでいたのだが、出発してから30分ほど経ったところで信号のタイミングがずれ、先導する2台の車を見失ってしまう。だが、ナビの設定に問題はなかったはずなので、そのまま進むことにした。

程なくして、ナビが左折を指示。指示通りに左折したものの、そこは住宅街の細い道だった。不安を覚えた私は妻に「この道で合ってる?」と確認するが、日が暮れていたこともあり、妻も分からないとのこと。ただ、目的地を正しく設定したのは間違いないので、ナビの案内を信じて進むことにした。

さらに10分ほど走ると、道はますます怪しくなる。山道と呼べるほどではないが、舗装されているものの細く、ナビの案内する道としては不自然に思える。ナビを見ると、次の交差点を右に曲がれば大きな道路に出られるようだ。それが信号を避けたショートカットの可能性もあると考えたが、交差点に到着するとナビは左斜め方向を指示してきた。疑問を感じつつも、最終的には目的地に着くだろうと信じて指示通り進む。

指示された道に進んで数分もしないうちに、ナビが「ポンッ」と音を鳴らした。だが、連続するカーブに集中していた私はナビの画面を確認できず、何かあれば音声案内が来るだろうとそのまま進んだ。しかし、音は数秒おきに「ポンッ」「ポンッ」と繰り返され、不穏な雰囲気を感じたため車を停めてナビを確認することにした。

ナビ画面を見ると、地図が右へ左へとスライドを繰り返し、「ポンッ」という音と共に「ルート再検索」の表示が出ている。それが収まらず、明後日の方向にルートを描いたり途切れたりしていた。地図を縮小してみても、目的地への道筋は完全に見失われている。方角だけは分かるが、その先どう進めばいいのか全く分からない状態。土地勘もないためお手上げだった。

とりあえずUターンできる場所を探そうと進んでみるが、道は狭く、車同士のすれ違いもできないほど。外灯もなく、辺りは完全に暗闇だ。そんな中、やっとのことで大きく右にカーブした先に未舗装の空き地らしきスペースを見つけた。妻はすっかり怯えて無言のまま。私は「ここでUターンして戻るよ」と声をかけ、少しでも妻を安心させようと努めた。

カーブが急なため、徐行に近い速度で進み、空き地に車の頭を入れる。暗すぎて目視は役に立たず、バックモニターを頼りに右へハンドルを回しながらゆっくりとバックした。そして、これでいけるだろうと目線を上げた瞬間、妻が悲鳴を上げた。

目の前には、ヘッドライトに照らされた無数の案山子が並んでいた。私は一瞬ぎょっとしたものの、それが案山子だとすぐに分かったので「案山子だよ」と笑って見せた。しかし妻は震えながら、眠っている息子に覆いかぶさるようにして下を向いている。恐怖を感じるほどの状況ではなかったが、その時の妻の様子は異常だった。

再び車を戻し、先ほどの交差点に到着した頃、またもナビが「ポンッ」と音を出した。画面を見ると、今度は左方向、つまり最初に大きな道路へ繋がると言っていた方向を案内していた。疑問を抱きつつそのまま進むと、まもなく大きな道に出た。

その直後、義母から電話がかかってきた。「今どこにいるの?遅いから心配して」とのこと。ハンズフリーで会話しながら時計を見ると、思っていた以上に時間が経っており、既に30分以上遅れているようだった。道に迷ったことを簡単に説明し、「先に入っていてください」と告げて電話を切った。

目的地の温泉にはその後何事もなく到着。素晴らしい施設で、雰囲気も良かった。しかし、到着するなり妻は車を降りると義母のところへ行き、真剣な表情で何かを話し始めた。「怖かった」という言葉が聞こえたので、例の出来事を話しているのだろうと思いながら荷物を抱え、眠たそうな息子を抱っこして二人に近づいた。

「すみません、お待たせしてしまいました」と声をかけると、義母と妻は険しい表情をしている。長話になるのも悪いと思い、その場では特に触れず温泉を楽しむことにした。

帰り道は、ナビを設定しているにも関わらず、義父が少し離れるたびに車を止めて私たちを待ってくれた。さらに義弟は私たちの車を挟む形で後ろにつき、寄り道もせずそのまま義実家まで一緒に戻ってくれた。その後、義実家に私たちが無事到着したのを見届けると、義弟は一人で寄り道に向かった。

この親切すぎる対応には何か理由があると感じていた。そして、息子を寝かしつけに行った妻を待ちながら、義父母と居間でくつろいでいると、義母が重い口を開いた。

「実はね、私君。妻ちゃんから聞いたけど、これ、初めてじゃないのよ」

やはりそういう話か、という予感はしていたため、詳しく話を聞くことにした。義母によれば、妻が里帰り出産をした際、義母と産院へ行った帰り道に似たような出来事があったという。その時、義母の車のナビが突如おかしくなり、目的地とは全く違う場所へ案内し始めたというのだ。ただ、土地勘のあった義母は比較的早い段階で異常に気づき、自力で正しいルートに戻ったそうだ。

さらに驚いたのは、そのナビの異常が起きた場所が、今回私たちが迷い込んだ交差点の近くだったという点だった。

実は、私が「そういう話なんだろう」と予感していた理由がもう一つあった。それは、あの空き地に立ち並んでいた案山子の異様さだ。

狭く暗い道を徐行しながら進む中で、私は空き地の存在を早い段階で認識していた。しかし、Uターンするまでの間、私は案山子の姿を全く見ていなかったのだ。ヘッドライトが空き地を照らしていたはずなのに、Uターンの最中に突如現れたように感じた。

その後、妻から話を聞いてさらに衝撃を受ける。妻が恐怖で震えていた理由は、あの場で「何か」を感じたからだった。妻いわく、案山子を見た瞬間、頭の中に直接「くれ!」という声が響いたという。まるで息子を狙われているように感じた彼女は、とっさに息子を覆い隠すようにして守ろうとしたのだそうだ。

実は、義母も過去に似た体験をしており、その時には「子をくれ」と言われた気がしたらしい。それが漠然とした感覚だった義母に対し、今回の妻はより強烈で具体的な声を聞いたという。

数日後、妻と義母が以前から行きたがっていた場所へ出かけた帰り道、また奇妙な出来事が起きた。授乳のために立ち寄ったコンビニの駐車場で、私は見張り役として車の外に立っていた。すると、一人の派手な服装をした男性が近づいてきて、こう尋ねた。

「失礼ですが、何をされている方ですか?」

明らかに不審者だと警戒しながら対応すると、男性は続けて言った。

「いえね、あなたのオーラが珍しい色をしているんですよ」

私は半信半疑で「ちなみに何色なんですか?」と聞くと、男性は真顔で「金色です。どうも……」と答え、去っていった。振り返るとその男性はこう呟いた。「守られてますね」と。

その後、車に戻り妻に話すと、「ずっと一人だったよ?」と言われ、ゾッとした。コンビニは、例の交差点の近くだった。

それ以降、ナビが異常をきたすことは一度もなかった。ただ、義母いわく、あの町では時折不可解な出来事が起きるらしい。義母もいくつか不思議な話を聞いたことがあるようだが、詳細は分からないままだ。

案山子、奇妙なナビの挙動、不審な男性。そして妻が感じた「子をくれ」という声。これらの出来事が繋がっているのかどうか、真相は依然として謎のままである。

(了)

[出典:316 :303:2022/12/20(火) 00:00:09.81 ID:kWXo2/8d0.net]

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