第2話:鏡でつくったもの
ワタシの友達に、すごく霊感の強いお姉さんがいてねぇ。
よくそういう相談を受けていたらしいだよ。
そういう相談っていうのはつまり「引っ越した家がどうも気持ち悪い」とか「最近よく金縛りにあう」っていう相談……
つまり霊に関する相談だね。
これはそのお姉さんが話してくれた話なんだよ。
その日も彼女は友達の家で心霊現象が起こってるっていうから駆けつけたんだって。
なんかかなり酷いもんでね。
物が勝手に飛んだり、あと消え失せたりとか、あと移動したりね……
まあ、いわゆるポルターガイストだよ。
で、そこへ出向いて行って、具体的に何したかっていうのは話してくれなかったんだけど、とにかく片付けたんだって。
で、問題はそのことじゃない。
……その後。
家に帰る途中に、どうも背中が重いな、寒いなって思ってたんだって。
それは彼女にとって実はあんまり良くない感覚なの。
何か連れてきたな、って思った。要するに、その友人の家にいたモノだね。
ところが、ポルターガイストの正体じゃない。
そこにいた何か別のモノがくっ付いてきたみたいだっていったんだけど、まぁとにかく正体は分からない。
でも、彼女に分かってんのは、このままほっといたら今夜何かあるな……ってこと。
でも昼間にそれだけの大仕事してるわけじゃない?だからかなり疲れてるんだよね。
で、対処するだけの余力がなかったから……
彼女が何したかっていうと、ベッドの周りに結界を張ることにしたの。
結界っていうのは要するに、一種の霊的なバリアーだね。
彼女が言うには色んな方法があるらしいんだけど、彼女がこの時やったのは、鏡を使う方法だった。
家中の鏡かき集めて、手鏡とかコンパクトとかアクセサリーとか……
とにかくありったけの鏡を集めて、でそれをベッドの周りに並べたんだって。上向けて。
で、鏡の一個一個に念込めて、それで結界を結んだんだそうだ。
さて夜になった。
疲れ切ってて彼女はベッドに入るなり寝ちゃったんだって。
で普通だったらそのまま朝まで爆睡なんだけど、ところがその夜は何か独特の気配で目が覚めちゃった。
『いや~、きたきたきた~やっぱりきた~』って思ってね。
で思った瞬間に鋭い音がして、何か割り箸を割るような音なんだけどね。ラップ音だよ。
その音が聞こえた瞬間に金縛りになっちゃって、身動き取れないの。
部屋ん中には既に彼女以外の誰かの気配がするんだよ。姿は見えないの、でも確かに居るんだよ。
しかも移動してるんだよそれがね。
『ズズッ ズズッ ズズッ』って足音まで聞こえるんだって。引き摺るみたいな……
でも近づいてこないんだよ、結界があるから。
ベッドの周りに並べた結界がそいつを防いでるわけだね。
足音が『ズズッ ズズッ ズズッ』って鏡の周りをずうっと回るの。
でも中へは入ってこない。なのにズズッズズッって歩き続けてる。
まぁ彼女としてはホッと安心したんだって。
まぁ~霊現象とか慣れてるからね。
だから足音が聞こえたりとか、気配がしたりとか、そんなのは大した問題じゃない。
要するに相手から攻撃されなければいいの。
それで、やれやれと思って瞼閉じちゃったんだって。
ところが、ちょうど彼女が目を閉じたその瞬間に、そいつがピタッと止まったの。
彼女が『あれ?』と思ったんだって。
彼女の経験上、人に害を及ぼすような低級霊っていうのは、その状況に変化がない限り、同じ行動を機械的に繰り返すもんだと思ってたんだそうだ。
そういうものなんだって。
でもそいつは結界の周りを、ほんとだったら夜が明けるまでぐるぐる回ってるはずなのに、ピタッと止まったわけよ。
『え?なんで?』って彼女思ったの。
で、そう思った瞬間にソイツが姿を現したんだよ。
腕……
人間の……
裸の男の腕がいきなり空中にニューっと生えたんだって。
肩の辺りまでね、グゥーっと生えて、でソイツが空中で手探りするみたいにブワァァっとくんだって。
で、またスーっと引っ込む。
で、そうすると『ズズッ ズズッ ズズッ』っと足音が移動して……
姿は見えないんだよ。でも足音が移動するの。
で、そうするとまた別の所に腕がニューっと現れて空中を手探りするの。
でまたスーっと引っ込む。
そうすると、またしばらくすると、ズズッズズッ……腕がニュ~っと現れて、手探りして、スーっと引っ込んで、ズズッズズッって移動して、腕が現れて、手探りして、ニューっと引っ込んで……
何回目かの時にようやく解ったんだって。
結界に裂け目があるんだよ。
要するに彼女は、家中の鏡を集めてベッドの周りに並べたんだけど、隙間なく並べたわけじゃないの。
何故かって普通の民家だからね。そんなに沢山鏡があるわけがない。
鏡に隙間があるんだよ。
壁みたいなもんじゃなくて、つまり柵とか、あと鉄格子ね、そういう状態になってるの。隙間だらけなんだよ。
でソイツは結界の周囲を回って隙間を探して、その隙間が見つかったら腕だけ突っ込んで彼女を探して、『あっ、いないや』っていうんで引っ込む。
それを延々繰り返してた。
一晩中続いたんだって。
彼女、こういう現象には慣れてるはずなんだけど、結局あんまり執念深いんで一晩中寝れなかったらしいけどね。
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]