短編 怪談

学校の階段~落書き~【ゆっくり朗読】

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小学校六年生のときのことだから、もう十年以上前の話になります。

350 本当にあった怖い名無し 2012/07/03(火) 01:42:37.88 ID:pRmHk4Ph0

私の小学校は鉄筋でしたが内装はすべて新木造といわれるもので、やわらかい感じが児童の心身にとてもよい効果があるという話でした。

実際にこれを採用した中学校では生徒が荒れることも少なくなり、小学校でも校内で転んでの大ケガが減ったそうです。

築後十年くらいだったと思います。

ただ木の塗装した表面が柔らかかったので、爪でひっかくとわずかな力で彫れてしまうため、いたずら書きは厳禁されていました。

それでも落書きをするワルガキは後を絶ちませんでした。

クラス替えして六年生になったばかりの四月のことです。

私は環境委員になり、放課後の活動として、落書きを見つけたら紙やすりで消すという仕事をしていました。

これをやるとあちこち白くなりますが、そこには後でラッカーのスプレーをかけるのです。

また、ひどい悪口などを見つけたら先生に報告するのも仕事の一つでした。

この校舎は三階建てで、三階が五・六年生、一階が一・二年生と支援学級でした。

私と生田さん北岡さんが六年生の委員で、三人でけっこうはりきって消してまわりました。

細かいキズは無数についていて、それを全部消してしまうとあとの処理が大変なので、大きなものだけみんなで紙やすりでこすりました。

個人名が書かれた部分を見つけたらそこに赤いビニールテープを貼って、後で担当の先生に見せます。あまりにひどいものは、彫ったのが在校生だとわかれば、書いた子が怒られることもありました。

小学生の女子はけっこうこだわりが強いので隅々まで探しましたが、活動は一時間くらいで終わりました。

先生に報告に行こうとしたら、北岡さんが「まだ、屋上へ行く階段を見ていない」と言い出しました。

屋上は立入禁止になっていてドアにはいつも鍵がかかっているはずですし、その階段で遊ぶのは禁止されていたので、きっと落書きなどないと思ったのですが、まだ帰りたくなかったので、いってみることにしました。

その階段は一般の階段より幅が狭く、防火シャッターが降りて封鎖できるようになっています。踊り場もなく十段くらいで、突き当りに屋上へ出る上半分がすりガラスになった一枚ドアがあります。

階段は木製なのですが、予想どおり調べてもほとんど落書きも大きなひっかきキズもありません。

戻ろうとしたら生田さんが

「あ、名前彫ってあるよ」

と大きな声でいったので見に行くと、屋上ドアに近い手すりの部分に、

「もういくからね みんなサヨナラ マサミ」

と彫られていました。

薄いキズだったのでコンパスなどでなく、爪で彫ったのだと思いました。

よく探さなければ見つけられないようなものでした。

かなりホコリがたまっていたので古いものだと思いましたが、名前が出ているのでテープを貼り付けました。

その後、委員会を担当している五年生の女の先生と一緒に確認して歩きました。

先生は「みんな頑張ってやったね」とほめてくれましたが、屋上への階段へ連れて行ってその落書きを見せると

「マサミねえ。男か女かもわからないね。五年生にはいない。六年生にいる?」

と私たちに聞いて来ました。

私たちは各クラスから一人ずつ出てきているのですが、マサミという子供はだれも心当たりがありませんでした。

先生は

「卒業生かもしれないね。先生もこの地域に来てまだ二年目だからよくわからない。あとで、長くいる先生に聞いてみるね」

と言い、

「それにしてもサヨナラなんてなんか気持ち悪いね、卒業するという意味なんだろうけど」

と続けました。

次の日も活動がありましたが、生田さんが来ていません。

どうやら学校を休んだようでした。

その日は話し合いだけでしたので、活動が終わったあと、先生に階段の落書きのことを聞いてみたら、

「……あれはやっぱり卒業した子が書いていったみたいだね。消しておきましたよ。そんなに深いキズじゃないと思ったけど、けっこう深く彫られてたね」

という答えでしたが、なんだか話しにくそうな感じを受けました。

帰りに北岡さんと階段に行ってみたら、きれいに削りとられて、厚くラッカーが塗られていました。

生田さんは次の日もお休みでしたので、生田さんのクラスの担任の先生にたずねると、この季節には珍しいインフルエンザで出校停止になっているとのことでした。

そして次の日生田さんは亡くなりました。

これは後でわかったのですが、四十度近い高熱で寝ている最中、おかあさんがちょっと目を離したすきにマンションの五階のベランダから飛び降りたのです。

次の日、朝集会で校長先生からそれについてのお話がありました。

それから三日くらいして北岡さんが学校を休みました。北岡さんとは生田さんよりも親しく、元気のない様子が続いていたのでとても気になりました。そこで家に帰ってから北岡さんの家に電話をかけましたが、ずっと留守でした。

夜十時過ぎ、北岡さんから電話がかかってきました。

北岡さんは沈んだ声で、

「今日はお父さんとお母さんの入ってる宗教の施設に行ってずっと拝んでもらってたの。私、転校するかもしれない。この学校にいてはいけないんだって。

それからね、マサミって子のことわかった。八年前に学校の屋上から落ちて死んだ六年生の女の子だよ。遺書もなにもなかったから事故にされたんだって。でも、このこと忘れたほうがいいよ。
……来るから。あの階段に行っちゃだめだよ。……お母さんが怒ってるからもう切るね、さよなら」

これで電話は切れてしまいました。

そして北岡さんは一度も登校しないまま転校してしまいました。

新興宗教の本部のある都市に行ったと後で聞きました。

それからはその階段の場所へは近づかないようにしていました。

環境委員には生田さん北岡さんのクラスから新しく選ばれた人が来て、そのうちの皆藤さんと仲良くなりました。

そしてその皆藤さんに階段の話をしてしまったのです。

皆藤さんは活発な子で、見てみたいというので、学校にみんながいる時間なら変なことも起きないだろうと思い、昼休みにいってみることにしました。

階段のあるところに行っても他の子どもたちのがやがやした声が聞こえてくるので怖いという感じはしませんでした。

前に書き込みのあった手すりを見ると、ラッカーが塗られた上に新たな文字が浮かんでいます。

「友だちができたよ マサミ」

と読めました。

「えっ、これウソ~」と私が言ったとき、けたたましい音がして非常ベルが鳴り出しました。

シャーンと音がして非常シャッターが下り始めました。

「たいへん」と皆藤さんが言って半分まで降りたシャッターをくぐり出ました。

私が下まで行った時にはもうくぐれない高さになっていました。

シャッターが全部降りると非常ベルの音が小さくなり、コツコツという音が背後からするのがわかりました。

振り返ると屋上へのドアのガラスを外側からだれか叩いています。

すりガラスに人の影が映っています。やっとガラスに頭が出るくらいの背丈で大人ではありません。

その人の右後ろにもう一つ影が見えます。

「……ここ開けて」

亡くなった生田さんの声です。

それに重なるように「あ・そ・ぼ・う・よ……」別の声も聞こえてきます。

ガタガタとドアのノブを揺するような音がしてきました。

私はドアに背を向けて階段の下のシャッターをガンガン叩きました。

屋上へのドアが開いた音がします。

思わず後ろを振り向くと、逆光でよくわかりませんでしたが、ねじくれたような人が半分開いたドアから入ってこようとしています。

私は涙でびしょびしょになりながらシャッターを叩き続けました。

「だれかいるのか」

男の先生の声がします。

「誤作動だ、今開けるからな」

シャッターがゆっくりと上がり始めます。

膝くらいの高さになったところで身をかがめてはい出し、先生の手の中で泣き続けました。

シャッターが完全に上がったとき、ちらりと階段を見ましたが、屋上へのドアは閉まっており、そこには何もいませんでした。

(了)

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