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永遠の約束【ゆっくり朗読】#865-1220

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これは、俺がサラリーマンになってからの話だ。

1 :不思議な名無し:2023/06/14(水) 18:27:54.72 ID:Y8ppipoKJ

ある晩、遅くまで残業してた。時計見るともう23時も過ぎていた。
疲れて仕事が終わった途端、なんか変な感じがしてさ。
いつも人で溢れてるオフィスが、一人になると、すごい静けさが広がっていた。

窓ガラスに電気の明かりが映っててさ、その反射が外の真っ暗な空に浮かんでいたよ。他の部屋からは何も音がしない、まるで時間が止まったかのようだ。

で、エレベーター呼んで地下駐車場に向かってた。そしたら、超冷たい風が吹いてきてさ、そのとき、エレベーターのドアが閉まる瞬間、明かりのついてないオフィスの中に一瞬だけ人影が映ったような気がした。でも振り返ると、何もなかった。ただの気のせいだろうと自分に言い聞かせ、エレベーターは地下へと降りていった。

そしてその後、信じられないかもしれないが、エレベーターが地下に着くと、開いたドアの向こうには全く別の景色が広がっていた。

オフィスのはずなのに、なんと古い日本家屋に見えた。薄暗くて、廊下の向こうからは見覚えのない音が聞こえてきた。戸惑いながらも足を踏み出すと、ドアが急に閉まり、エレベーターは再び上に昇っていった。

エレベーターのドアが閉まった途端

一気にその異世界に取り残されたような感じだった。古い日本家屋の中は、湿った古木の匂いと苔の香りが漂っててさ。床の間には茶の間があり、土壁は時間によって色褪せていた。

振り返ると、エレベーターがあった場所はもうなく、ただ長い廊下が続いているだけだった。足元の畳は冷たく、壁に掛けられた掛け軸からはさらに古い時間が流れているようだった。

廊下の向こうからは、ギシギシという木の音と、人の気配を感じる。我に返り、足をその音の方向に向けて歩き始めた。しかし、廊下は一直線に伸びていて、その終わりは見えなかった。

そのとき、気づいた。廊下の向こうから聞こえてくる声、それは知っている声だった。
高校時代の初恋の人、美咲の声だ。
恐怖よりも驚きと喜びが俺を押し動かし、その声の方へと足を進めた。

そこには美咲がいた。彼女は微笑んで、まるで時間が止まっていたかのように若々しく見えた。「竹中くん、来てくれてありがとう」と彼女は言った。その言葉と笑顔に、一瞬全てを忘れ、ただその場に立ち尽くしてしまった。

その後、美咲は俺にこの家屋のこと、そして彼女がなぜここにいるのかを語った。そして、俺たちは一緒にこの家屋を探索した。それはまるで高校時代に戻ったかのような時間だった。

高校時代、俺たちは無二の親友だった。

学校の屋上で弁当を分け合い、美咲の描くスケッチブックを眺める時間が、俺らの特別な秘密だった。彼女のスケッチブックには、何故かいつも古い家屋の絵が描かれていた。

「これ、なんの家?」と僕が尋ねると、彼女はいつもにっこりと笑って、「それは、あたしの大切な場所だよ」と言うだけだった。

ある日、美咲が描いた家屋の絵に、俺たち二人が描かれているのを見つけた。そこには、微笑んでいる美咲と、彼女を見つめる俺の姿があった。その時、何も言わずにただ微笑んでくれた美咲の笑顔が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

「竹中くん、君と一緒に過ごす時間、すごく大切に思ってるから。だから、この絵に君を入れたよ。」と彼女は照れくさそうに言った。
その言葉と、美咲が描いた自分の姿を見て、何かが胸に鳴り響いた。それは、まだ理解できない感情だった。

美咲は高校卒業後、不治の病に冒された。

そして独りで逝ってしまった。

美咲が入院した知らせを受けた日、病室に足を運ぶと、美咲は弱々しく横たわっていた。顔色は青白く、苦しい呼吸が彼女の胸を苛んでいるのがわかった。俺は彼女の隣に座り、手を握りしめた。彼女の指先は冷たく、やせ細っていた。

「美咲、大丈夫か?どうしてこんなことになってしまった?」と涙声で問いかけると、彼女は微笑みながら苦しい声で答えた。「竹中くん、ありがとう。でも、もう戻ることはできない。あたしはここで終わる。」

その言葉が、俺の心に深く突き刺さった。美咲が本当にここで終わるのか、それを受け入れることができなかった。涙が溢れ、悲しみと無力感が胸を打ちのめした。

「ごめん、美咲。俺は何もできなかった。もっと早く気づいて、助けてあげるべきだった。もっと一緒にいたかった。」

彼女は微笑みながら、ゆっくりと頭を振った。「竹中くん、それは違うよ。君がいてくれたから、あたしは幸せだった。本当にありがとう。」

彼女の言葉に、涙が滝のように流れ出た。彼女の手を握り締めながら、俺は頭を傾け、彼女の額に優しく口づけをした。彼女の呼吸がますます弱まり、最後の力を振り絞るように彼女は言った。

「竹中くん、あたしはいつでも君と一緒にいるから。また会えるよ、絶対に。」

その言葉が、彼女の最後の言葉となった。

その後、美咲は安らかに静かに息を引き取ったとご両親から連絡があった。その連絡を聴いて涙が頬を伝い、心の奥底から切ない嘆きがこみ上げてきた。

高校時代の回想と、美咲の思い出が交錯し、俺は彼女の喪失に苦し。美咲の笑顔が消えることなく、いつまでも心に焼き付いたまま、俺は彼女への想いを胸に秘め続けていた。それがこんなカタチで美咲と再び会えるとは夢にも思っていなかった。

最後に彼女は俺に、ここから出る方法を教えてくれた。
「竹中くん、また会えて嬉しかった。でも、あなたの場所はここじゃないの。あたしここで待ってるから、また来てね。」と彼女は言った。

俺はその言葉を信じ、エレベーターに乗り、現実世界に戻った。
それから何が起きたのかは覚えていない。その後のことは覚えていない。気が付くと自宅のベッドの上だった。夢だったのだろうかと思いたかったが、腕には明らかに古い家屋でついたらしい土壁の粉が付着していた。

後日談

あれから数日経った。毎日、エレベーターに乗るたびに、再びあの古い日本家屋に連れて行かれるかとヒヤヒヤしてた。

だが、どんなに願ってみても、エレベーターはただ冷たく、静かに上昇と降下を繰り返すだけだった。美咲と再び会える日が来るかどうか、心の中では絶えず期待していたが、時間はただただ過ぎていくばかりだ。

一方で、何かが変わった気がする。それは、エレベーターを待つ間、ビルの廊下に立っているときだ。いつもと違う、何か古い匂いがする。湿った木の匂いと、苔の香りがふと鼻を通った。その匂いがするたび、あの古い家屋と美咲の顔がフラッシュバックする。

何よりも、それが一番困ったのが、会社の同僚から「何を見つめている?」と訊かれることだった。見つめているというより、その匂いに引き込まれているというか。でも、誰にもそのことを話すことはできない。理解されないだろうし、なか恥ずかしい気もしたから。

だから、自分でもなか信じられないような経験をしたと思い込むようにした。でも、その都度、腕を見れば、あの古い土壁の粉がしっかりと残っている。
不思議なことにこの粉は洗い流しても数日経つとまた吹き出してくる。
それが、自分が体験したことが夢じゃなかったという証拠だ。

でも、それから数週間が経ったある日、エレベーターに乗ったときのことだ。鏡に映る自分の姿を見ていると、なか違和感を感じた。頭をよく見てみると、髪の間から見える、一本の白髪が。

白髪なんて生えたことがなかったから、すごく驚いたよ。でも、その一本の白髪を見ていると、美咲の笑顔が思い出された。何だか白髪が、あの家屋への一本の糸のように見えた。

それからは、毎日鏡を見て、新たに生えた白髪を探すようになった。それが、また美咲に会うための道標なのかもしれないと思ってさ。でも、実際にまたあの家屋に行けるかどうかは、誰にもわからない。

それからの日々は、ただただ待つばかりだった。でも、その間も、心の中では美咲と再会することを待ち望んでいる。それが夢だとしても、もう一度だけでも、彼女に会える日を……

(了)

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