短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

サークル仲間の変【ゆっくり朗読】5527-1230

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大学四年生の十一月、永瀬の就職がようやく決まった。

212 :本当にあった怖い名無し:2013/11/10(日) 01:10:38.11 ID:e4SlLL0S0

本人は小さな会社だと言っていたが、内定を貰えたことに変わりはないし、晴れて仲間内全員の進路が決まったことで、一月に旅に行く運びとなった。

旅の発案をしたのは永瀬だった。

レンタカーを借りて、東京から日本海側を北上し青森を目指す計画だ。

当時運転免許を持っていた僕と鈴木が交代で運転をする代わりに、永瀬と嶌田と坂本がレンタカー代とガソリン代を払うということで話が折り合った。

僕を含めて五人の旅だった。

僕たち五人は大学のサークルで知り合った仲だ。

僕と鈴木は同じ学部で同じゼミを専攻していたが、永瀬と嶌田と坂本は別の学部に通っていた。

旅の二週間程前に奇妙な出来事があった。

宿の手配や旅の詳細な計画が概ね完了した矢先だった。

嶌田と全く連絡が取れなくなってしまったのだ。

電話をしても繋がらないし、家に行っても嶌田は留守だった。

嶌田と仲が良かった別の友人にも連絡をしてみたが、嶌田の所在は分からなかった。

出発の五日前、最後の打ち合わせをするために集合した。

依然として嶌田とは連絡が取れないままだった。

さらに永瀬と坂本の様子がおかしかった。

打ち合わせの結果、三日前になっても嶌田と連絡が取れなかったら旅を中止することに決まった。

たしかに個人的にも、嶌田がいなければ旅をする意味が半減してしまう気はしていたし、何よりも心配だったので、このまま嶌田がこなければ中止という意見に違いはなかった。

しかし、永瀬と坂本が異常なほどに『旅は中止だ中止だ』と強く言っていたことが気がかりだった。

帰り道、僕は仲間内でも特に仲が良い鈴木と個別に話をした。

無論嶌田の事と、打ち合わせの時の永瀬と坂本の挙動についてだ。

僕も鈴木も同じことを考えていた。

嶌田の身に何かあったのではないか、ということと、その事に永瀬と坂本が何か絡んでいるのではないか、ということだった。

その日の内に僕と鈴木は嶌田の家に行くことにした。

相変わらず嶌田は家に居ないようだった。

諦めずに隣の部屋の住人に聞いてみると、嶌田のことは知らなかったが、大家さんの連絡先を教えてくれた。

早速電話し事情を話そうとしたが、大家さんからの一言に絶句した。

『嶌田さんという方は知りませんが、この家に住んでいた人は一ヶ月前に引っ越されましたよ』

住んでいた人の名前も確認したが嶌田ではなかった。

無論、永瀬と坂本にはこの事は話さなかった。

出発の三日前が来た。

結局嶌田とは連絡が取れなかったので、予約した宿にキャンセルの電話をした。

三日前にキャンセルすること事態が申し訳ない気持ちだったので、少しでも早いほうが良いのではと思い、朝一番で電話をしたのだ。

すると、泊まるはずだった三つの宿はすべて既にキャンセルされていた。

詳しく話を聞くと、一週間前に嶌田と名乗る男からキャンセルの電話がきたとのことだった。

僕はそのキャンセルをした男は嶌田じゃないと思った。

直感だが、永瀬か坂本のどちらかだ。そう思った。

旅館の人には念のため、僕が今日電話をしたことは黙っていて欲しいとお願いをしておいた。

その後すぐに鈴木に連絡をし、急遽会うことにした。

合流した刹那鈴木は言った。

「このことは永瀬と坂本には言わないほうが良い」

同意見だった。

「キャンセルの電話をこちらでするとカマをかけてみよう」

そう続けた。

永瀬に電話をし、三日前になったからキャンセルの電話を入れる旨を伝えると、案の定『キャンセルの電話は俺がする!』と言ってきた。

僕は冷静を装いながら、三件あるから分担しようという案を出したが拒否をされた。

この日のやりとりで、永瀬と坂本が嶌田の失踪に絡んでいることがほぼ間違いないと睨んだ。

僕は永瀬と坂本に状況を話して問いただそうと言ったが、鈴木はもう少しだけ時間が欲しいと言った。

どうやら個人的に永瀬と坂本について調べるつもりらしい。

僕はあまり気が乗らなかったが、嶌田については本当に心配だったので、大学にわけを話して嶌田の実家の連絡先を聞くことにした。

冬季休暇中の大学は人が少なく、窓口にも誰一人並んでいなかった。

窓口の人に理由を話すと調べてくれたが、永瀬も嶌田も坂本も僕が通う大学には在籍していなかった。

嶌田は先の件で偽名の可能性があったが、大家さんから聞いた名前でも在籍がなかった。

もう三人の名前が本名なのかさえ信用できなかった。

出発日だった日の前日に永瀬から連絡が来た。

嶌田が戻ってきたと言うのだ。

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その後、二週間振りに五人が揃った。

最初は永瀬の家でと言われたが、そこには行ってはいけない気がした。

そのため、適当な理由をつけて街中のファミレスで落合うことにした。

ファミレスに現れた嶌田は嶌田ではなかった。

嶌田に似ているわけでもなく、完全に別人だった。

正直、僕は冷静を保ててはいなかっただろうし、鳥肌が引かなかった。

見た目は普通の人間だが、その顔からは悍ましさ感じた。

僕と鈴木は嶌田じゃないと言い続けたが、永瀬と坂本は嶌田だと言う。

その間、嶌田と名乗る別人は僕と鈴木のことを交互に見続けた。

聞いてもいないのに失踪の経緯を説明し始め、嶌田は今日まで泊り込みでバイトをしていたと言う。

そして、そのバイトは期間中に外部と連絡を取ってはいけない仕事だったと話していた。
事前によく説明を聞いてなかったため、そのまま連絡が取れなかったというのが言い分だった。

さらに嶌田は続けて言った。

「明日からの旅行は行ける?」

嶌田の顔がさらに悍ましく見えた。

説明するように永瀬が言った。

「実は宿はキャンセルしなかったんだ。だから旅は決行できる」

既に宿がキャンセルされていることを知っているということは、ばれていないようだった。

あるいは、ばれていても良かったのかもしれない。僕は混乱していた。

「三日前に旅は中止と決まっただろ。その際に、俺とこいつは別の予定を入れてしまったよ」

と鈴木が言った。

散々引き止められ、断ることに時間を要した。

その間、今すぐにでも逃げ出したかったが、大学はおろか住所も知られているため穏便に進める必要があった。

鈴木のおかげで俺も冷静を取り戻し、何とかその日は解散となった。

解散となったあと、僕と鈴木は三人の後をつけた。

すると三人は、十分ほど歩いたところにある駐車場に入っていった。

しばらく待つと、永瀬が運転をする車が駐車場から出てきた。

永瀬は免許も持っていたのだ。

その後すぐに引越しをした。

引越しをするまでの間も、家には物を取りにいくための一回しか帰らなかった。

引越しの日に久々に家に戻ると、誰かが侵入した痕跡があった。

卒業まではほとんど大学に行く必要がなかったため、鈴木以外に会うことはなかった。

永瀬と嶌田と坂本とは連絡も取ることなく春になった。

以上が体験した話です。

この話は一年前の出来事です。

一年後にわざわざ書いたことには理由があります。

この一年間も鈴木とは定期的に連絡を取り、数回飲んだりしていました。

その鈴木から昨日連絡があり夜に会ったのですが、その席で思いもよらない話がでてきました。

鈴木が先日ふと思い、大家さんから聞いた嶌田が住んでいた家の名義の名前を検索したところ、その人は一年前に死亡していたそうです。

死亡していた人が、僕たちの知っている嶌田という人物である可能性は非常に高いと思います。

あの嶌田と名乗る別人の顔が浮かび、頭から離れません。

(了)

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