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短編 怪談

しるし#1113

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数年程前、親戚の家からの帰路での出来事でした。

702 名前: 本当にあった怖い名無し 2006/08/07(月) 10:46:22 ID:z7kHq0GZ0

親戚の家に行くには、曲がりくねった峠道を通らねばならず、帰り道も当然そこを通る事になります。

私は車の運転が苦手で、カーブの多いその道は怖いので、なるべくゆっくり運転するようにしていました。

私も自分の運転が遅いのはよくわかっているので、後ろに車がついてしまったときは、いつもキリのいいところで道を譲っていたんです。

その日も、遅い私の車に詰まってしまった後続車がいました。

いつもならしばらく走って、よせられそうな場所があれば道を譲るところですが、その車は私の車にピッタリつけて煽ってくるのです。

ちょっと派手目のスポーツカーで、いかにも飛ばしそうな感じの車です。

私はちょっとでもブレーキを踏むと追突されてしまうのではないかと思い、スピードをあげました。

車間距離をあけてくれれば譲ってあげられるのに、私がスピードをあげるとその車もスピードをあげてまたピッタリついてきました。

私は慣れないスピードが怖くなり、ほんのちょっとずつスピードを落としていきました。

さすがに相手も追突はしたくないでしょう。

後続車はそんな私の運転に腹をたてたのか、結構角度のある急カーブで私の車を抜き去ろうと、アクセル全開で対向車線に飛び出していきました。

その瞬間、カーブの向こう側、対向車線にトラックが見えました。

「あぶない・・・・!!」そう思った瞬間、スポーツカーはスピンして助手席側からトラックの正面に突っ込んでしまいました。

私はすぐに車を停めて衝突してしまった車に駆け寄りました。

スポーツカーが半分トラックの下にもぐりこんでしまうような形になっていました。

トラックの運転手はハンドルに突っ伏して頭から血を流し動きません。

スポーツカーの運転手も頭から出血していましたが、意識はあるようでした。

スポーツカーを運転していたのは女性で、女性があんな運転をするのかとちょっと驚いてしまいました。

私は「すぐに救急車を呼びますからね!」と叫んで携帯電話を取り出しました。

しかし峠道は電波が悪く、私は電波を求めてそこら中を走り回りました。

事故現場から少しはなれた場所で携帯にやっと一本アンテナが立ち、私は一一九番通報しました。

事故現場の場所や被害者の容態などの質問に答えながら、衝突してしまった車に目をやっていると・・・、なんと車から出火しているではありませんか!

私は運転手を救出しようと慌てて現場に走りました。

トラックは窓が割れていたので、そこから運転手を乱暴に引きずりおろしました。

トラックの運転手を安全な場所まで引きずっている途中、火に気づいたスポーツカーの女性が泣きわめいていました。

私はすぐにスポーツカーに駆け寄り、女性を救出しようとしましたが、

女性は潰れた運転席に挟まれるような形になっていて、なかなか車から助け出す事が出来ません。

女性は「助けてー!助けてー!」とすごい形相で悲鳴をあげていました。

「大丈夫!助けるから・・・!」と言ったものの火はどんどん大きくなっていきます。

このままだと爆発してしまうんじゃないだろうか・・・?そんな不安と闘いながら、

なんとか女性を救出しようとしましたが、ボンッ!という鈍い音とともに女性は一気に火に包まれました。

私の服にも火が移り、私は飛び退いて必死で火のついた服を脱ぎ捨てました。

女性は火につつまれ、悶えながら、この世のものとは思えない叫び声をあげていました。

私はどうすることもできず、その場にへたり込んでしまいました。

しばらくして救急車と消防車、パトカーがやってきて、私も病院に運ばれました。

それほどとは思わなかった火傷は腕から胸にかけて思ったよりひどく、大事を見て三日ほど入院することになりました。

病室で警察に事故の経緯を説明し、その後トラックの運転手が無事だった事と、スポーツカーの女性が亡くなった事を聞かされました。

その夜はひどくうなされました。

夢に女性が出てきて、私に「助けて、助けて」と言うのです。

やがてその女性は火につつまれ、焼けこげていくのです。

焼けこげた手が私の腕を掴み、その恐怖と熱さで飛び起きました。

寝間着は汗でぐっしょり濡れていて、腕の火傷がひどく傷みました。

次の日にトラックの運転手の人が病室にお礼を言いに来てくれました。

頭に包帯を巻いていましたが、元気そうでした。

「助けてくれてありがとうございました。」とお礼を言われ、救われた気がしました。

また「女性は仕方がなかった、どうしようもなかったですよ。」と言われて不意に涙を流してしまいました。

退院してからも私は何度も女性の夢にうなされました。

夢の内容は決まっていました。

車に挟まれた女性は私に助けを求めています。

私は車が火につつまれるのを知っているので、怖くて近寄れません。

彼女は私をすごい形相で睨みつけますが、ついには火に包まれます。

火につつまれた彼女はものすごい悲鳴をあげ、悶え、焼けこげていくのです。

そして焼けこげた彼女の手が私の腕を掴み、私はそこで飛び起きます。

夢の中で掴まれた腕は、火傷がひどく傷み、胸や肩の火傷が治ったころになっても、なおただれて傷みました。

事故から数ヶ月がたっても、相変わらず肘から下あたりの腕の火傷はただれ、傷みました。

それよりも、毎晩のように見る悪夢にはほとほと参っていました。

眠る事が怖くなり、毎日寝不足で、精神もおかしくなっていました。

車の運転はおろか、走っている車にも恐怖を感じ、火が怖くてタバコを吸うことさえ出来なくなりました。

酷いときは、停車してある車の運転席から焼けこげた彼女の腕が伸びてくる幻覚を見て、道ばたで悲鳴をあげてうずくまってしまった事もありました。

仕事も辞めてしまい、しばらく精神科に通う日々が続きました。

今もなお、私の右半身には火傷の跡があります。

特に、腕には熱いものを押し当てられたような、まるで握られたような跡がくっきりと、残っています。

夢も相変わらずですが、私は逃げずに、立ち向かうことで精神を保てることを学びました。

火につつまれ焼けこげてなお私に助けを求め、私の腕を掴む彼女の手をそっと握ってあげるのです。

彼女は「私はもう助からないから、一緒に来て。」と言います。

次にどう答えるべきか迷って、そこで目が覚めます。

私はもし次に、夢の続きがあるのなら、「いいよ。」と答えるつもりです。

そうすれば、きっと彼女は私を許してくれると思うのです。

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