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短編 後味の悪い話

櫻の樹の下で

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もうそろそろ年数たって時効だから話させてください。

1 :本当にあった怖い名無し:2014/05/31(土) 19:44:44.24 ID:4+u6Zj6EB

俺の父方の祖父母の家は田舎にあって、日本家屋って感じで古くからあるけっこう大きい家なんだ。俺はその家をじいちゃん家って呼んでた。

じいちゃん家には蔵みたいなのもあったりして、親戚の歳が近い子とよくお宝っぽいものを集めて宝探しとかしたり、そもそもの家が広いから家の中でかくれんぼしたり、子どもにとっては退屈しない楽しい家だった。

それだけでもすごいんだけど、それに加えてじいちゃん家には広い庭があって、その庭には立派な桜の木があるんだよ。

しかもその桜が本当にきれいに咲くから、親戚はこぞって春に桜が咲く頃じいちゃん家に花見しに来てた。

ある年、俺も家族とじいちゃん家に花見に来た。

その前の年の花見は父の仕事の都合で行けなくて、夏休みも母方の祖父母の方へ帰ったから久々のじいちゃん家に俺のテンションはめちゃめちゃ高かった。

集まる親戚は大抵二~三日じいちゃん家に泊って、その間の一日に花見をする。

とはいっても親戚が大勢集まって飲み食いするわけだから、花見とは名ばかりのほぼ親戚一同参加の飲み会だ。

大人たちが飲んだり食べたりと騒いでいるその間、俺たち子どもは花見もそこそこに遊んでた。

日が暮れ始めた頃、大人たちがいそいそと片付けを始めてそれに気付いた俺たちも遊びを切り上げた。

俺は縁側から庭を眺め、片付けをする大人たちを見ていたのだが、そのときふと

「夜桜で花見はしないのか」と素朴な疑問を持った。

テレビかなにかで夜桜のことは知ってたから、なぜかと不思議に思ったんだ。けど結局どうでもよくなって聞くのはやめた。

その後夕飯を食べ、風呂入ってちょっと遊んでから布団に入った。

ほぼ一日中走ったりして動いたせいか、すぐ眠りについた。

長くなったけどこっからが本題。

夜中に俺はトイレがしたくなって目が覚めた。俺が寝てた部屋からトイレまで一直線の廊下を行くんだけど、そんなに距離はなかったし、そういうのに怖がるような子どもじゃなかったから、つかつかと俺はトイレまで歩いて行った。

廊下を半分くらい進んだときだった。その直線の廊下は途中で縁側を通るんだけど、縁側の戸はガラス製で向こうの庭がけっこうクリアに見えるんだ。

そのガラス越しに、人っぽいのが見えた……っていうか人だった。

背は高くないしガタイもよくない。

見た目から俺と同い年くらいの女の子だ。もしかして親戚の子かな?と思ったけど普通に考えて真夜中に庭に出るかと思って怖くなった。

俺がこうやって見ているのもバレてしまった、いけないと思い、俺は必死に音を消しながらトイレまで行って用を足した。

けれど部屋まで帰ろうと、またびくびくしながらその廊下を歩いたときにはもうその人はいなくて、結局見間違いだと安心して部屋に戻ってぐっすり寝た。

次の日、朝起きたらちょっとした騒ぎが起こってた。

俺と同い年のゆみちゃん(仮名)が高熱を出したのだ。

布団に寝かされているゆみちゃんはとてもつらそうだった、熱は三九度くらいあったらしい。

ゆみちゃんとは一緒に昨日遊んでて調子が悪そうには見えなかったから、布団の中でつらそうに顔をしかめるゆみちゃんを見て、わけが分からなかった。

一方、ゆみちゃんの両親はじいちゃんたちとなにやら話をしてるみたいで、暇だった俺は、障子に耳を傾けてその向こうの話を盗み聞きすることにした。

内容は全然聞こえなかったけど、時おりゆみちゃんのお父さんのあせった声とか、ゆみちゃんのお母さんのすすり泣いているような声がして子ども心ながらに「ヤバイ」って思った。

話が終わると部屋からすごい剣幕でゆみちゃんの両親が出てきて、盗み聞きしてた俺に目もくれず、早歩きでどっか行ってしまった。

開いたままの障子の向こうにはじいちゃんとばあちゃんがいて、ゆみちゃんの両親と似たような張りつめた表情をしてた。

「ゆみちゃんのパパとママ、どうしたの?」

「どうってことはないよ。ゆみちゃんが熱を出したから病院に連れていくだけ」

ばあちゃんはそう優しい声で俺に言い、部屋を出て行った。

部屋には俺とじいちゃんの二人きり。

じいちゃんは眉間にしわを寄せていた。

「おまえはゆみちゃんがどうして熱出したか知ってるか」

「知らない。ゆみちゃん、風邪なの?昨日元気だったよ」

「あぁ」

それからじいちゃんは黙ってしまった。

気まずい空気が流れる中、俺は必死に話題を考え、昨日の夜のことを話そうと思った。

「じいちゃん。俺、昨日変なことあってさ。夜トイレで起きて縁側のとこ通ったら庭に人みたいなの見えたんだよ」

そのとたん、小難しい顔をして黙りこくっていたじいちゃんが反応した。

「人を見たのか?」

「うん」

「庭だったんだな?」

「うん」

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じいちゃんは「やっぱりな……」とつぶやいて、不思議がる俺に説明してくれた。

昔、ご先祖様のじいちゃん家で幼い女の子が死んだ。ちょうど俺くらいの歳の女の子だったらしい。

その死んだ理由ってのがひどくて……ご先祖様の一族で頭のイカれた奴がいて、そいつは離れに隔離されてたんだ。

けど、ある日、その日に限って鍵が開いてて、そのキチガイは外に出てしまった。

そこに通りかかったのが家に住む中で一番歳の小さい女の子で、キチガイはその女の子を襲った後、殺した。

見つかった時には女の子はすでに息を引き取ってて、キチガイもその後首つって自殺した。

殺すまでの経緯とか殺し方とかその後とか、とにかく全部がイカれてる。

けれど、ご先祖様は世間体的にもあまりおおごとにしたくなくて、女の子は急病で死んだって事にして広い庭にその女の子の骨を埋めた。

そして、そこに桜を植えた。桜の木の下には死体があるってよくいうけど、ほんとにソレ。

おおごとにしたくないからって埋めてそこに桜植えるとか、その考え自体おかしい話だよな。

キチガイはもともと幽閉されてたから、存在自体なかったことにしてひっそり捨てたみたい。

桜の木はぐんぐんと成長して、今みたいな本当にきれいな花を咲かせるようになる。

そうしたら今度は一族の中に高熱が出たり急病にかかったりする人が出るようになった。

俺が目の当たりにしたゆみちゃんみたいな症状が出たのだという。

原因不明の体調不良になった人は皆、

「夜、桜の木の下にいる女の子に会った」

……そう言ったそうだ。

一族が出した結論は『殺された女の子の祟り』だった。

祟りを恐れた一族は、普通の木よりも早い成長を遂げるその桜を切って、埋めてある骨を掘り起こそうとした。

けど、いざ切ろうとなるとこれまた原因不明の病やらケガやらで作業する人が倒れてしまう。お祓いもしたが、効果はなかったそうだ。

解決策が見つからず、結局それを防ぐには桜の木を夜に見ないということになった。

だから、じいちゃん家で行われる花見は夜になる前には終わって、絶対に夜桜は見ないのだ。

じゃあ俺も女の子を見たのにどうしてこんなにぴんぴんしてるのか。

祟られる条件は今のところ、桜が咲いている夜に桜の木の下にいる女の子に見つけられる(目が合う)らしくて、俺は見てただけで気づかれても目が合ったわけでもないからいいんだと。

その話を聞いた時、俺はまだ小さかったし正直なにがなんだかわからなかった。現実味がないって思ったけど、実際ゆみちゃんは高熱が出てるし、俺は昨日女の子を見たし……

オチがないけど、こんな感じ。

まさか俺の身近なとこにこんなことがあったなんて知らなくて、それから俺じいちゃん家行くの怖くなったよ。

もう十数年くらい前の話。それから俺一度もじいちゃん家に行ってない。

たぶん、これからも行けないと思う。

またあの女の子に会ったらって思うと……

(了)

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