霊感がまったく無い私ですが、先日ほんのり怖い思いをしました。
549 :うしろの名無し :2001/07/25(水) 00:39
あれは去年の秋頃だったと思います……
夕暮れ時、近所に買い物に出た私は、ふと、その日がいつも買っている雑誌の発売日だったことを思い出し、本屋へと足を向けました。
本屋はスーパーに隣接するビルの最上階にあり、連絡通路からスーパーへと抜けられる構造になっています。
雑誌を買い、私はスーパーへと行こうと連絡通路に向かいました。
そのときです。
「すいません」と声を掛けられ、
振り向くと知らない中年女性がそこに立っていました。
まったく見覚えの無いその女性は、
「あの、看護婦さんですか?」と話し掛けてきました。
私は看護婦ではありませんので、
「いえ、違いますよ」と答えました。
夕暮れ時、人がそこそこ多い中です。きっと誰かと間違えたのだろうなと思いました。
しかし、彼女はしきりに
「以前看護婦さんをしてらっしゃいませんでした?」
と聞いてくるのです。
以前も何もまだ二〇代前半で、卒業後すぐ今の会社に就職して以来、転職やバイトなどもしてませんでしたから、私は「いいえ」と答えました。
しかし、彼女は納得できない様子でした。
「誰かとお間違えではありませんか?」
と聞くと、彼女はふと私から視線を逸らし、溜息をつきました。
「じゃあ、お身内か身近の方に、ご不幸はありませんでした?」
「いいえ?」
なんだかおかしな人だなあと思いつつ、私は首を横に振りました。
「女性の方で亡くなった方は?」
「……いません!」
繰り返される的的外れ質問に、いい加減いらいらしてしまった私は、そう答えてその場を立ち去ろうとしました。
すると彼女は私の前に立ちはだかり、私の背後に再び視線を移すと、
「気づいてらっしゃらないんですか?」と言ったのです。
「はあ?」
「……肩に女性が……」
そのときの私の気持ちは、まさに「ハァ?」でした。
何を言われたか解らなかったのです。
女性は呆然としている私に、とうとうと語りだしました。
私の首に巻きつくように、顔が潰れてわからない女性の霊がいること。
その霊は自殺霊でよくない霊だということ。
その他にも水子の霊と動物霊が憑いていること。
その女性の霊と同じような霊に、元看護婦らしいその中年女性も以前病院で取り憑かれ、お祓いをしてもらったこと。
……だから私が看護婦だと思ったらしいのです。
終いには、
「あなたの足が私には見えない」とまでいう始末。
彼女曰く、将来事故に遭って、私の足が無くなってしまうかもしれないということでした。
そこまで言われ、私は『これは宗教かなにかの勧誘かもしれない』と思いました。
霊感商法とかありますよね?
『悪いのは霊の所為だ。お祓いして、壷を買わないと云々……』と続くのだと決めて掛かったのです。
しかし、彼女はしばらく私の後ろから目を離さず、語り終えると
「早くお祓いしてもらったほうがいいですよ」
と言い残し、早々に立ち去ってしまいました。
私が帰りに、スーパーで粗塩を買ったのは言うまでもありません。
それが去年の話で、今までに怖い思いをしたことはまったくありません。
しばらくは怖くて、パワーストーンを身につけ、粗塩を袋ごと抱いて寝ていましたが(笑)
ただ……気になるのは、私の祖父の妹が半身不随だと言うことです。
若い頃に脊髄にインフルエンザかなにかのウイルスが入ってしまい、下半身マヒでもう数十年入院生活を送っています。
私が小さい頃はまだ実家にいて、よく遊んでもらいました。
動けないのは下半身だけだったから、本を読んでもらったりしていたのです。
大叔母は「うちの家族の悪いところはみんな私が持っていってあげる」とよく言っています。
また、結婚していない大叔母は、祖父の初孫だった私をとても可愛がってくれていたので、今もお見舞いに行くと、涙を流して喜んでくれます。例えでなくホントに涙を流すのです。
大叔母が私を心配してくれる気持ちが、あの中年女性に見えたのかな?とも今では思います。
首の女性も水子も動物もまったく身に覚えが無いのですが、今度お祓いに行こうかなと思ってます。
しかし、自称霊感強い友人に会った時は、何にも言われませんでした。
自称だしね……
でも、たとえ本当にその人に霊が憑いているとしても、まったくの他人に声を掛けるものでしょうか?
思わず声を掛けずにいられなかったほど凶悪な霊なのかなあ?
でも今も健康だし、病気も怪我もないし……不思議です。
担がれたのか?
……だったらいいけど。
勧誘でもされたんだったら笑い話なんですけどねえ。
女性は鎌倉のお寺で除霊していただいたと言っていましたが、お寺の名前は教えてくれませんでした。
私はまったく感じないし、どこも具合も悪くないことを言っても、
「でも、はやくお祓いしたほうが……」と言い続けていました。
これを書いてからなんとなく気になったので、夕方に実家に電話をしました。
母が出て『みんな元気だ』と言っていましたが、この母、離れて暮らす娘に心配かけまいと……胃、三分の一摘出だったのに……祖父の入院・手術を……手術が終わるまで黙っていた前科があるので、遅番だった父が帰宅する頃を見計らって、再び電話をしてみました。
……みんな元気でした。
ああ、よかったぁ。
……そういえば、この大叔母から聞いた話がありました。
こっちはほんのりも怖くないかも?
大叔母がまだ若い頃、田舎にありがちな大家族だった我が家は、敷地内に母屋のほかに別棟が隣接して立ててあり、その一階を納屋、二階を子供たちの寝室にしてありました。
お手洗いは外にひとつだけ。
外灯もろくにない時代でしたから、夜は本当に怖かったそうです。
そんなある日。
夜中に大叔母は、小さい方の妹にそっと起こされました。
妹は、もうその頃から足が悪く、這ったり、松葉杖で移動していたらしく、
「お手洗いに行きたい……けど怖いから窓から見ていて欲しい」
と言われ、大叔母は窓を開けて、妹が外のお手洗いに行くのを見ていました。
何度も何度も確かめるように振り返る妹に、大叔母は二階から手を振って見ていることを伝えました。
妹がお手洗いに入って、暫く大叔母はぼんやりと窓の外を眺めていました。
満天の星空がきれいで、たまにフクロウの声が聞こえたりします。
そのとき、突然遠くでギャーンという声が聞こえました。
……狐です。
狐というのは、猫を叩きつけた時にあげる悲鳴のような声で鳴くのです。
田舎なので、いまだに狐もいのししもアナグマ(だと思う)までいますが、やはり夜中に聞くと恐ろしいものがあります。
コンコン……
なんて可愛いものではありません。
大叔母もはやく妹が帰ってこないかとそわそわしながら、ふと山のほうに目を向けました。
すると、よく晴れていたにもかかわらず、空はただ闇が広がるばかり。
そしてその中にふうっと浮かび上がった空より黒い山のシルエットの中に、ぽつりと青い火が灯りました。
驚く大叔母の目の前で、その火はぽつ、ぽつ……と増えていきます。
気が付くと、山はいくつもの青い狐火に覆われていたそうです。
そのあまりの美しさに見入っていた大叔母でしたが、階段を駆け上ってきた妹の形相のほうが恐ろしく(笑)、布団をかぶって眠りにつきました。
別に実害はなかったそうです。
でも幼い私は本当に怖くて、納屋の二階にあがることができませんでした。
このとき大叔母の見ていた山って、斜面に階段状にお墓のある小さな山なんです。
お墓の前に田んぼがあって、一人であぜ道の雑草を刈っていた母が、誰もいないお墓から仏壇にある鐘を鳴らす《ちーん》という音を聞いたと、青い顔をして帰ってきたことがありました。
お墓しかないから、人がいてもそんな音が聞こえるはずがないのです。
私、そこ通学路だったのに……
怖……
(了)