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短編 カルト宗教 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

新興宗教で悩んでいる人がいた【ゆっくり朗読】4100

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知り合いに、新興宗教で悩んでいる人がいた。

925 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2007/12/30(日) 00:43:29 ID:217YPuJe0

彼の妹が入信してしまい、多額の借金を作っていたのだ。

聞けば「貴女の信仰を数字で表してください」という触れ込みで、寄付金の額を決められていたのだとか。

最初は少ないのだが、深入りするにつれて「貴女の思いはこの程度なのですか」だの、「この数字で果たして真の信仰に足るとお考えですか」だの煽られて、どんどん寄付が増えていったものらしい。

親戚中に借金を重ねており、このままでは消費者金融に手を出しかねないと類縁者一同心配をした。

今の状況で手を出したら、間違いなく妹は終わってしまう。

知り合いも何度となく説得したのだが、その都度教団の者が割り込んできて、危うく自身が洗脳されかけたこともあったとか。

「貴方に付いている悪魔を私に祓わせて下さい。妹さんも取り憑かれていたのですが、御本尊様の御霊験あらたかな御力によって救われました。私は貴方もお救いしたいのです」
面と向かってこう言われた日には、唸って頭を抱えたくなった。

生憎と、壺や印鑑や朝鮮人参なんぞで救える魂など持ち合わせてはいない。

しばし考え、頭を抱える代わりに次の提案を出した。

「本当に俺も救ってくれるのですか」

「当然です。神の愛は無限です」

「なのでしたら、俺の持ち物で悪魔に害されている物件があるんです。まずそれを救ってはいただけないでしょうか」

彼は件のマンションの一部屋所有していたのだ。

昔付き合っていた彼女と同棲する目的で購入したのだが、彼女はそこで変なモノを見てしまったようで、荷物も纏めずいきなり出て行った。

彼にとっても苦い思い出で、彼自身は怖い思いをしたことがないのに、そこを避けるようになっていた。

部屋は今でも空きのまま。

その部屋を悪魔祓いしてくれ、そう頼んだ。

狂信者は自信たっぷり、胸を叩いて「任せて下さい」と宣った。

彼自身は特に信じてはいなかったのだが、一つ嫌がらせのつもりだったという。

「祓った」と言ってきても、何かと難癖を付けてやろうと考えていたらしい。

部屋の鍵を渡して数日経ち、「終わりました」と連絡があった。

「本当かよ」半信半疑で現地に向かう。

部屋には狂信者と妹の姿があった。

悪魔を祓うため、あの日から二人で泊まり込んでいたという。

「やっぱりこいつら出来てやがる。こりゃ足抜けさせるのはホントに骨だな」

妹をどうやって助け出そうと考えていた彼は、大きく溜息を吐いた。

それをどう勘違いしたのか、教団の男は満面の笑みを浮かべて告げた。

「確かに大層強力な悪魔が居座っていました。でも安心して下さい。神の愛で―」

残念ながら、神の愛が一体どういったものなのかを知ることは適わなかった。

男の言葉の途中で、居間の扉に付いている覗き窓のガラスが盛大に割れたのだ。

沈黙に包まれた部屋の中で、ようやく男が言葉を継ぐ。

「今のは偶々、実際に―」

ピンポンピンポンピンポン・・・!!!

ドアベルが狂ったように連打された。

玄関に駆け付け、外を確認する。

誰もいなかった。

「本当に、ここには何かいるんだ」

その時になって初めて、元彼女の言っていたことを信じる気になった。

・・・もう、どうしようもなく、取り返しようもなく遅かったけれども。

居間に戻ると、男は視線を泳がせながらブツブツ言っていた。

「まさか、そんな、本当になんて、昨日までは何も起こらなかったのに」

そんなことを繰り返している。

妹も蒼白な顔をしていた。

家族には、このマンションの噂を聞かせてはいなかったのが功を奏したか。

二人の様子を見ているうちに、彼自身はとても落ち着いた心持ちになった。

「貴方は失敗しました。悪魔は健在ですね」

しっかりゆっくり、噛んで聞かせるように口にする。

「いや、あれは只の偶然が重なっただけ―」

言い終わる前に、卓上の電気ポットがゆっくりと動き始める。

滑らかに、滑るように机の上を移動し、落ちた。

ガチャンッ!

「悪魔はせせら笑っていますよ。彼奴はいつもこうやって俺を虐めるんだ。してほしくないことを、最悪のタイミングでやらかしてくれる。だから彼女も出て行ったんだ」

「・・・」

「助けて下さいよ、お願いしますよ。あの娘を返して下さいよ」

「いやそれは」

「神の愛は無限なんじゃないんですか? 俺は救われないんですか?」

泣きそうな顔で、男はもう一日くれと言ってきた。

何日でもくれてやるよ。

声にこそ出さなかったが、そう毒づいた。

翌日、妹から連絡があった。

ブツ切りで喋る内容は要領を得ない。

「迎えに行くから待ってろ」そう伝えてマンションに向かった。

妹は外の駐車場で待っていた。

あの部屋には戻りたくない、戻れないと言う。

「昨晩何があった? 男は?」と尋ねても、青い顔で首を振るばかり。

仕方なく妹を車に待たせ、一人で部屋に入った。

物という物が散乱していて、酷い有様だった。

ガラスもほとんどが割れており、ドアも蝶番から壊れて外れ倒れている。

何がここで暴れたんだ? 答えは出ない。

鍵を閉めホールまで出てところで、狂信男から電話があった。

「貴方に憑いている悪魔はとても私ごときには落とせません!」

そんな台詞を繰り返すばかりで、まったく会話にならない。

「困りますよ、今度の件で、恐らく悪魔は俺の妹にも気が付いたはず。悪魔はしつこいんです。俺の行く所どこにでも憑いてくるように、妹にも憑いて回りますよ。貴方の後にだって憑いて行くかも―」

「申し訳ありませんが、私には無理です。さようなら!」

一方的に電話は切られた。

部屋を見上げながら「祟りが役に立つなんてな」そんなことを考えた。

男や教団の関係者から、二度と連絡が入ることはなかった。

妹はその後、正に憑き物が落ちたような状態になり、洗脳が解けたのだという。

ただ事ある毎に「信仰ってさ、無力だよね」と呟くのが気掛かりではあるが。

「あの晩妹の奴、あの部屋で何を見たんだろうな」
彼はそう言って苦く笑った。

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