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短編 n+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

迷信と現実の交錯

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怪談には多種多様なものがあり、理由のある怪談と理由のない怪談に分類できる。理由のあるものは因縁話や怨霊の話で、理由のないものは天狗や魔の仕業によるものである。特に後者は北国に多く、関東では少ないように感じられる。

私はこの世界とは別にもう一つの別世界が存在し、そこには魔や天狗が住んでいるのではないかと考えている。そして、時折その連中が人間の世界に姿を現す。それはまるで彗星が空に現れるように突然で、予測もできない。天文学者が彗星の出現を予測できるのに対し、魔や天狗はいつ現れるか分からないし、定まった軌道もないため、どこで遭遇するかも分からないのだ。それはほんの一瞬の出来事であり、特定の場所や時間に見えるものではない。

川の流れは同じでも、今の水は前の水ではないのと同じように、過去の現象を再現することはできない。古くから言い伝えられている逢魔時や丑三つ時には、別世界の住人たちが人間の世界に現れるとされている。これは非常に嫌な時間帯で、昔からこの時間を利用して魔の存在を確かめる方法がいくつかある。

「膝摩り」という方法では、丑三つ時に四人が部屋の四隅から中央に集まり、暗闇の中で互いに膝を触れ合う。この時、一人だけ返事をしない者が現れるという。「本叩き」では、二人が向かい合い、本を持って畳を叩くと、叩く音が多人数のもののように聞こえる。これらの方法で魔の存在を確認しようとしたのだ。

私が逗子にいた時、魔がさしたといわれる出来事があった。秋の初め頃、田舎の家に家族と住んでいたが、ある晩、風呂から上がった私は女中が家に出かけた後に、妻が湯殿に行ったが手桶が無いと言い出した。私はすぐに裏の家に行き、手桶が持ち去られたことを確認したが、それを確かめずにいたら奇妙な出来事として残っていただろう。

次に話すのは理由のない不思議な話である。逗子にいた頃、近所の婦人から聞いた話だ。その婦人がまだ娘だった時、自宅で不思議な出来事が続いた。庭に咲いていた菖蒲の花が戸棚の夜着の中に入っていたり、来客の下駄や傘がなくなったり、机の上の英和辞典が切り刻まれ、インクで汚されたりした。警察署もこの家の七歳の男の子を疑ったが、悪戯は続いた。

ある晩、多くの人が集まり、水瓶に物を入れて大石を乗せたが、瞬間的に大石が落ちた。これは魔の仕業だろうという結論に至った。椽側には動物の足跡があり、その正体はわからなかったが、家の前は見物人で賑わった。

房州でも同様の話があった。白浜の近くで、猟夫が見張りをしたが、夜になると犬だけが吠え続けたという。また、越前国丹生郡天津村の善照寺でも、貉を捕えて殺した日から寺のあちこちで火が燃え上がった。見張りをしても火の出所はわからず、娘が疑われたが、証拠はなかった。

こうした話には共通して十三四の娘が関与しているように見える。「くだ付き家」と称されるこれらの現象は、不思議な動物によるものだとされるが、その正体はわかっていない。猫の顔で犬の胴体、狐の尻尾を持つこの動物の姿は、未だに謎である。

あの奇妙な出来事から数年後、私は再び逗子に戻ることになった。

今度は単なる訪問者としてだったが、あの家は既に取り壊されており、跡地には新しい住宅が建っていた。ふと立ち寄った喫茶店で、店主があの家について話してくれた。「あの家は本当に不思議な場所だった。今でも時々、夜になると奇妙な音が聞こえるんですよ。」

興味が湧いた私は、再度あの場所を訪れることにした。日が暮れると、周囲は静まり返り、かつての恐怖が蘇ってきた。その時、突然背後から誰かの気配を感じた。振り返ると、そこには見知らぬ女性が立っていた。「あなたもあの家のことを知っているのですか?」と彼女は尋ねた。

彼女はあの家の元住人の娘であり、今では中年の女性となっていた。彼女は私に、あの家で起こった本当の出来事を話し始めた。「実はあの夜、私が見たのは幻覚ではありませんでした。あの時見た動物は確かに存在していたのです。それはこの世のものではなく、別の世界からやってきたものだったのです。」

彼女の話によれば、あの家は異世界への入口であり、時折その扉が開かれるという。彼女自身も何度かその異世界に引き込まれそうになったが、何とか逃れることができた。しかし、その後も異世界の住人たちは彼女を監視し続けていた。

「この話を誰にも言わないでください」と彼女は言った。「もし知られてしまえば、またあの連中が現れるかもしれないのです。」彼女の表情は真剣そのもので、私はその言葉に重みを感じた。帰り際、彼女は私に一冊の古びた日記を手渡した。「これが私たちの経験の証です。どうかこれを大切にしてください。」

日記を開くと、そこには驚くべき記述がびっしりと書かれていた。異世界の住人たちの詳細、彼らの習性、そして彼らがこの世界に現れる理由。すべてが詳細に記されていた。それを読み進めるうちに、私は彼女の言葉が真実であることを確信せざるを得なかった。

数日後、再びあの場所を訪れたが、今度は異世界への入口を確かめるためだった。夜が更け、周囲が静寂に包まれる中、私は異世界への扉が開く瞬間を目の当たりにした。そこには確かに異世界の住人たちがいたのだ。

この体験を通じて、私は人間の世界が単なる一つの層であり、その背後には無数の世界が存在することを知った。人間の知識や科学では解明できない不思議な現象が、今もなお私たちの身近で起こっているのだ。彼女の言葉通り、この秘密は私の胸にしまっておくことにした。

それ以来、私はこの話を誰にも語らない。しかし、今もなお、あの場所には異世界の住人たちが静かに息づいている。彼らが再び現れる日が来るかもしれない。その時は、再び私たちの世界と交錯するのだろう。

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