俺は農家ばっかりの集落に住んでる。
387 :本当にあった怖い名無し:2015/08/01(土) 15:36:43.24 ID:oKoEe/ho0.net
普段は俺の仕事帰りの九時ごろになると、人通りなんかまったくない。
ただ、その夜は市の花火大会があったからか、浴衣を着た家族連れとよくすれ違った。
だから遠目で街灯の下にだれかが立っているのを見つけたとき、おかしいとは思わなかった。
赤ん坊を抱いた若い男……
遠目にそう見えた。
若者らしいちょっと猫背の、力のこもってないだらっとした立ち姿。
赤ん坊抱っこしてるにしては、両腕もだらんと体の横に垂らしてる。
そこで初めて違和感を覚えた。
赤ちゃんが抱っこ紐にくるまってるなら、違和感なんて感じなかっただろう。
……でも違った。
赤ちゃんの体が見えてた。
肌色のハゲた後頭部も背中もぷくぷくのお尻も、輪ゴムつけたみたいなむちむちの手足も。
赤ちゃんは丸裸だった。
丸裸の赤ちゃんが、父親の胸にしがみついていた。
自力で。
何やってんだこの父親、と思って慌てて駆け寄った。
虐待って言葉が頭に浮かんだ。
夏だからって真っ裸はない。
それにまだ生後半年程度にしか見えない赤ちゃんが、その高さから落っこちでもしたら無傷ではすまないだろう。
大声でとがめだてしたせいか、父親がびっくりした顔でこっちを見た。
何をとがめられたのかわかってないみたいだった。
ちゃんと抱っこするように言っても反応しない。
虫に刺されるからなにかでくるんでやれと言っても『???』って顔をするだけ。
きわめつけに、俺のことを気味悪そうにうかがって「赤ん坊って何のことですか」と聞いてきた。
『何…ってその子のことだろうが!』と指さそうとして、ぎくりとした。
赤ん坊がこっちを向いていた。
大きな目が、思慮深そうに俺を見つめている。
……可愛い。
そう思ったとたん、赤ん坊はこくりと頷くようなしぐさをした。
小さな小さなおててが、こちらに伸びてきた。
片手と両足は父親の丁シャツをぎりぎりと握ったままだ。
俺はなぜか動けず、赤ん坊がすることを見守っていた。
小さな手は、やがてがしりと俺の手を掴んだ。
その直後の数秒間の記憶がない。
気が付いたら、若い父親が困った顔で立ち尽くしていた。
その胸に赤ん坊の姿はない。
手を掴まれたときに落としでもしたのか?と焦って周辺を見たが何もなかった。
まさかこいつ、どこかに放り投げたのではと思って、赤ん坊をどこへやったと父親に詰め寄っても、父親はびくびくしながら「赤ん坊なんて初めからいない」と言うだけ。
そんなはずはない。
手にはつかまれたときの体温の高い、ぷにぷにしたてのひらの感触が残っている。
それに父親の丁シャツのシワには、にぎりしめた小さな指のあとが見てとれた。
その後、側溝を探したが姿は見えず。
警察も呼んだが、若い父親がご近所の実家に帰省中の大学生だとわかり、彼は未婚で実家に小さな子供もいないとわかり。
最終的に赤ん坊を見たと主張しているのが俺一人ということで、俺の見間違いということになった。
しっかり起きていたし視力も悪くないし、見間違いなんて信じられない。
実は事件だったとしても、一応通報はしたし、俺に責任はないと思いたいんだけど……
[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1436891353]
(了)