短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

蹴ったもの【ゆっくり朗読】835

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住職シリーズ

学生時代、住職とよくつるんで遊んでいたのですが、そろそろ就職活動をはじめるかくらいの時期の出来事。

333 :本当にあった怖い名無し:2006/05/05(金) 13:58:57 ID:opJHbZUV0

学食で一緒にご飯を食べて、午後のひと時をまったりとすごしていたときに、
青白い顔した女をつれた友人Aが、うちらの所にやってきた。
友人Aいわく、ちょっと住職に「この女の子Bの話をきいてほしい」そういうことだった。
無論、私もその場にいたので、一緒に話を聞くことになった。

ぱっと見わりとかわいいこの女の子Bが話を始める前に、ふいに住職が女の子Bをジーと見て、
「だいたいわかったから、その家から引越ししたほうがいいよ」と、にこやかにいった。

そのことを聞いた女の子Bは、いきなりすすり泣きはじめて、
「やっぱり……そうなんや……やっぱりそうなんや……」
隣で聞いてた私は、さっぱり話が見えない上に理解できない。
「また いんちきくさい話かよ……」
「なんでお前は信じないの?世の中には、科学や理屈で解明できてないことたくさんあるのに……
いきなりいんちきと決め付けるのはどうよ?」
「物理法則を無視した現象がおこりうるはずがないだろうが。そんな事象はありえない」
と議論はじめたら、友人Aが「まぁまぁ」と割って入ってきた。
そこで女の子Bに、「何があってどうなっているかを詳しく話せ」と問いただした。
女の子Bは、ぼそりぼそりと、ここにきた理由を話し始めた。

大学にはいってから住んでいたアパートに、最近妙なことが起こっている。
夜中に寝ていると、どうも人の気配がする。
そう気がつくと金縛りにあい、回りの空気が重く冷たくなり、
耳元で、女の人の少し苦しそうな息づかいが聞こえると……
とうとう昨日の夜、その苦しそうな息をする女が、顔を覗き込むように頭上に正座しているのに気がついた。
覗きこむ顔は、焦点があわないような目をしていて、顔にはひどく裂けたような傷が下から上まで広がっていて、
口は閉じているのに、裂けたほっぺたから苦しそうな呼吸音がしていた。
……というものだった。

「ははっ。第一、見る前から女の人というのが分かるって時点で夢じゃないの?
それに、金縛りも精神的なものですよ。
今、いろいろと難しい時期だから、そういうのも重なって、疲れてるんじゃないのかな。
それに、簡単に引っ越せるものでもないでしょ?
そう思うから、そういう風に感じるんだと思うよ」
というと、住職のやつが、
「うーーん……たしかに簡単に引っ越すのは難しいな。面倒だけど、私が行ってお清めしますよ」
「だから……なんでお前はそうなんだ?」
「はは。ならお前も一緒に来て、本当か嘘か確かめればいい。それが一番だろ?」

その女の子Bは、「私は部屋に帰るのが嫌なので、鍵を預けるから……」と主張したが、
私は「それは解決にならんからだめだ」と説得して、
私、住職、友人A、女の子Bで、その件の部屋で一晩過ごすことになった。

その部屋は別段かわった所もなく、
6畳一間に2畳ほどの台所とガラリ2枚扉の押入れ、ベランダにエアコンその他もろもろと、
まぁそのへんによくある構造の部屋でした。
色々な可能性(異常者やストーカー(当時はこんな言葉はなかったですが))を考慮して、
住職と私は押入れ、友人Aと女の子Bは6畳のところで寝ると決め、夜になるのを待ちました。
女の子Bは最初、異常に怯えていましたが、
住職がいるのと他にも人がいるので、まぁ安心したような感じでした。

大体0:00くらいになったときに、取り決めどおり、
私と住職は押入れに、Aは床にざこね、女の子Bは布団という感じで寝ました。

どれくらい時間がたったか、少しうとうとしてた私を、住職がこずいて、
小さな声で「おい、起きろ。来てる……こりゃ……俺じゃ無理かも……」と。

押入れの隙間から部屋を覗くと、なんとなくですが、空気が重く冷たい感じがしてました。
Aと女の子Bが「んんんん……・・んん……」と、
寝言なのかうなされているのか、なんともいえない声を発していました。

そのまま少し覗いていると、薄暗い部屋の中に確かに、Aと女の子B以外の何かがいる。
Aと女の子Bの間くらいに、正座をしてうつむいている、感じの丸い奴がいました。
なぜかわかりませんが、とっさに3人目の誰かがいると判断した私は、押入れのフスマを蹴りあけました。
蹴りあけたフスマの上に飛び乗り、フスマの上に突き出たナニカの頭?を、蹴り上げました。
なにかに当たる確かな感触して、「み”ゅ……」と鈍い声というか音がし、
もう一発床の上の黒いものをカカトで踏みつけました。
ゴリッと嫌な手ごたえを感じ、3秒ほどの時間をおいてから電気つけました。

電気をつけると、鼻血をだしたAがなんともいえないうなり声をあげて、のたうちまわってました。
すぐに蹴り倒したフスマをめくり、下を確認しました。
一瞬黒いものがいた様な気がしたのですが、痕跡すらなにもありませんでした。

……一瞬の静寂のあと、住職が馬鹿笑いをはじめました。
住職「お前が一番ありえへん。普通、蹴りにいかへんよ。けど原因わかったで」
私「?いや、せやけど、なんもいーへんかった……ちゅうよりA、蹴ってしもた。A、ごめん。大丈夫?」
A「ふが……いや、女がいた。お前が飛び込んできたら消えた」
鼻を抑えて血を拭いてるAが、怒るでもなくたんたんと答えてきた。

Aと女の子Bの話を総合すると、Aと女の子Bの間に、顔が裂けた女が座っていたそうです。
この時点でAも女の子Bもはっきりと意識があり、私が飛び込むのを確認したそうです。

ふいに住職がベランダの窓を開けて、「ちょっと手伝え」と私に手招きしました。
エアコンの室外機をちょっと持ち上げてくれというので、少し浮かせると、住職が室外機の下に手をつっこんで、
「あぁあった。やっぱこれだ……」と、白い薄汚れたコンパクトをひょいと取り出しました。
それを見た瞬間、私は「あ、おれが蹴っ飛ばした奴だ」と、確信に近い感覚を持ちましたが、
黙って住職に「なにそれ?」というと、住職が少し難しい顔をしながらそれを紙に包んで、
「んー……なんだろうなこれ。よくわからんが、女が憑いてる。なんでここにあるのかがわからん……
最初からあったのか、ほりこまれた物なのか。
最初、部屋が原因だと思ってたんだけど、
お前が蹴飛ばしに行ったら、空気が窓の外に集中したから、わかったんだけどな」
「……お前がしこんだんちゃうん?」
「むちゃいうな。あぶないもん持ちたくないわ。ほらこれ……」
そういって、薄汚れたコンパクトつつんだ紙を俺につきつけました。
よーくみると、ところどころ欠けたり、亀裂が入ったり、髪の毛がついてたり、
どう見ても血が乾いたようなシミがついてました。

その後、住職がコンパクトを持ち帰り、部屋には何も出なくなったそうですが、
一つ気になるのが、最初に蹴っ飛ばしたやつが、何なのか未だにわからない。
フスマを破らずすり抜けられるモノが、何なのか未だに説明がつきません。

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