短編 洒落にならない怖い話

女子高の同級生【ゆっくり朗読】

投稿日:

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アメブロニュースから転載

611 :1:2006/12/04(月) 22:48:11 ID:yI+WL7cR0

読者の皆さんからいただいた投稿を編集し、掲載します。

寄稿者:七井翔子さん(36歳・女性・主婦・海外在住)

それはまだ私がまだうら若き乙女だった高校1年生の時のことです。

私が通っていた高校は、古い歴史があるかなり生徒数の多い女子高校でした。

私は電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、家からかなり距離があるその高校に毎日通っていました。
生来の人見知りで自分から友達を作る勇気が持てなかった私ですが、
そんな私に優しい言葉をかけてくれるクラスメートがおりました。

その子は久美子ちゃんと言う名前の子で、
ほんわかした雰囲気と雛人形のような柔らかい表情の、とても穏やかな文科系の女の子でした。

おとなしいので決して目立つタイプではないのですが、その上品な物腰はやけに大人っぽく、
私はそんな子と友達となれたことがちょっぴり嬉しい気持ちでした。

私は遠距離通学をしていたので、毎朝早く出かけなければなりませんし、
電車に1本でも乗り遅れると即遅刻に繋がってしまいます。

その日も私は急いで身支度を整え、通学カバンを手にして駅に向かいました。

そして私は、毎朝同じ車両に乗るR高校の吉河くんのことを探しました。

初めての電車通学で、たまたま同じ車両に乗っていた彼を初めて見たとき、
一目惚れは絶対しないはずの私が、彼のその繊細そうな眼差しに一気に惹かれてしまいました。

彼はいつも電車の窓から遠くを見ていて、ちょっとナイーブで一見ひ弱そうな男の子でした。

その後、友達を介して一度だけ会話する機会がありましたが、
その時の彼は饒舌すぎず、かといって少しも退屈させず、
包み込むような吉河くんの声は私が初めて聞くタイプの声で、私にとってとても魅力的でした。

以来、私は吉河くんに密かに深く片想いしていたのでした。

でも残念ながら、吉河くんは私のことなど眼中にありません。

いつも物憂げに外の景色に視線を馳せる姿は、ずっと変わらないのです。

私は複雑に入り混じった感情をひとり持て余し、電車の振動に揺られながらひっそりと彼の横顔を見ていました。

『どうしたら私のことをもっと見てくれるのかな』
そう、私は自分からアプローチすることなど夢にも思えないクセに、
吉河くんが自分に関心を持ってくれることだけを願っていました。

とても虫のいい、狡い想いでした。

ようやく学校に着きました。
今日はなにやら教室が騒がしいです。

見ると、久美子ちゃんの机を皆が取り囲んでわいわい盛り上がっています。

「なに、どうしたの?」
私が隣の席の菊池さんに訊くと、菊池さんは興奮した様子でこう言いました。

「久美子ちゃんって、霊感みたいなのがあるんですって。

なんか、少し前に亜由ちゃんの弟さんがいなくなったらしいんだけど、

久美子ちゃんが霊感で居場所を当てたんですってよ。
翔子、知ってた?」
「え、うそ、知らなかった。
すごいわね」
「守護霊の力で予言ができるんだって。
みんな彼氏とうまくいくかとか、久美子ちゃんになんでも訊いてるよ」
「え、そんなことまでわかるって言ってるの」
「うん、なんかすごく当たるみたいなの。
翔子も悩みがあれば何か訊いたら?」

菊池さんにそう言われて、私は咄嗟に吉河くんのことが脳裏をかすめました。

『彼は私のことをどう思っているのだろう、今好きな人はいないんだろうか』
でも久美子ちゃんは、吉河くんのことなど何も知りません。

なのに、そんなことを訊いてもわかるはずがない、と頭ではわかっていながら、
愚かな高校生の私は、彼女にすがってしまったのです。

私はみんなに囲まれている久美子ちゃんのところに行きました。

「久美子ちゃん、おはよう。
ね、霊感があるって本当なの?行方不明の子を見つけたんだって。
すごいね」
私は彼女に声をかけました。

すると久美子ちゃんは屈託なく私に返します。

「うん、霊感というのかなあ、

一生懸命念じているとね、よくわかんないんだけど、イメージが頭の中に浮かんでくるの。

写真のスライドショー見てるみたいに」
それは別におおげさな言い方ではなく、本当に優しい声と表情でさりげなく言うので、
誰も反論を挟む余地もありません。

それに、彼女の抑揚のない穏やかな声の質は、異様な説得力があるものでした。

「いつから出来るようになったの?」
私は少し興奮しています。

「それが、子供の頃からなの」
彼女は優しく笑いながら言います。

「わあ、すごいねそれ」
私は心底驚き、彼女を羨ましく思いました。

「こんな能力で、みんなの悩みが少しでも和らぐなら、と思って」
別に自慢気に声高に言うわけでもなく、どちらかといえば含羞を帯びながら話す久美子ちゃんの話は、
悩むクラスメートへの誠意さえ垣間見えるものでした。

私は思い切って占ってもらうことにしました。

「久美子ちゃん、あのね、私、気になる人がいるんだけど……あの、私はその人と両思いになれるかしら」

私は声を潜めて問いました。

とってもドキドキします。

久美子ちゃんは一点をじっと見つめます。

そして、私に吉河くんの名前と生年月日と、通っている高校の名前を訊きました。

生年月日はまだ知らなかったので、彼の高校の名前を言いました。
毎朝電車で会うことも話しました。

すると、更に久美子ちゃんは私の目を食い入るように見据え、やがて私にとても残念そうな口調で言いました。

「……うーん、その人はもう好きな人がいるみたいね……。

でもね、彼も翔子ちゃんのことはずっと意識してるみたいよ。

でも、残念だけど好きな人は別にいるのよね。

でも、5のつく日に告白すると、少しは望みがあるみたいね」
……私はショックでした。
とてもショックでした。

でも、私は彼女にできるだけ明るく「ありがとう」と言って動揺を隠しましたが、
でも、その日は一日中『こんなこと訊くんじゃなかった』と、とても後悔していました。
翌朝、いつものように同じ車両に吉河くんが乗ってきました。

私は昨日久美子ちゃんに言われた「好きな人は別にいるのよね」という言葉を思い出し、明らかにひるんでいました。

吉河くんは相変わらず私のことなど眼中にありません。

私はなんだか一人で悲しい気持ちになって、電車の中で涙ぐんでしまいました。

気のせいか、なんだか今日は彼は私を避けているようにも感じます。

私に背を向けて立っている彼の後姿に、なんだか言いようのない想いが募って、
どうしたら私の想いが叶うのかしらと、そればかり考えておりました。

そして、学校で久美子ちゃんに会うのがとてつもなく重たく感じました。

学校に着くと、久美子ちゃんがまたクラスメートに囲まれて『霊感占い』をしていました。

今日の彼女の顔は上気し、昨日より若干輝いているように見えました。

近づこうとすると、隣の席の菊池さんが私を呼び止めました。

「ね、翔子。
ちょっと……」
菊池さんの表情は若干暗く感じます。

「なに?」
私はいやな予感で胸が塞がれます。

「あのさ、ちょっと聞いたんだけどさ……。
翔子って、同じ電車に乗ってるR高校の子が好きなんだって?」
「え、どうしてそれを……」
「久美子ちゃんがさ、さっき、翔子の好きな人当ててみせるって言って」
「えっ?」
私は混乱しました。

これは彼女に問いたださないといけません。

「……それとね、誰にも言わないでくれる?」
菊池さんが私を教室の片隅に追いやります。

そして小さな小さな声で耳元にこう呟きました。

「ほら、行方不明になったって言ってた亜由ちゃんの弟がね、

あの日はずっと久美子ちゃんと一緒にいたって言ってるらしいの」
「え、それ誰に聞いたの?」
「亜由ちゃんから。
弟さんは久美子ちゃんに口止めされてたみたいだけど、黙っていられなかったって」
私は背筋がひんやりするのがわかります。

久美子ちゃんに視線を移すと、彼女は皆に囲まれ、生き生きとご託宣をしています。

その顔は、人の役に立っているという満足感だけを醸し出している人の顔でした。

私は怖気づいて声が出ません。

当時とても気の弱かった私は、菊池さんの言ったことを直接問いただすことなど絶対にできませんでした。

そして、ただ黙って久美子ちゃんが皆に頼られている様を見つめていたのです。

翌々日、隣のクラスの佐伯さんという子のお金が無くなりました。

が、すぐに久美子ちゃんの『霊感占い』で佐伯さんのお金が出てきました。

お金があったのは、私の通学カバンの中でした。

みんなが一斉に私をに疑惑の目を向けました。
当然です。

私のカバンの中にあるかもしれないと、ご託宣を告げた久美子ちゃんだけは心配そうに私を見ています。

「七井さん、まさかあなたが?」
担任までも眉間に皺を寄せて私を責めます。

「ち、ちがう、違います。
知りません」
私の声が空しく響きます。

お金を盗まれた佐伯さんも、私のことを完全に犯人だと思い込んでいます。

そして、当然私は『隣のクラスに忍び込んで金品を盗んだヤツ』という疑念の視線に射られ続けました。

……たくさんの目。
みんな私を睨んでいる。

怖い。
怖い。
怖い。
私はやってない。
絶対私じゃない。

私はパニックで倒れそうでした。

隣の席の菊池さんに救いを求めましたが、その日に限って何故か菊池さんは欠席しています。

その時でした。
久美子ちゃんが眉間に人差し指と中指を当てて、何か唱え始めました。

「んーーーーー……なるほどぉぉ……」
みんなが久美子ちゃんの一挙手一投足に注目しています。

そして、すくっと立ち上がり、彼女は高らかに言い放ちました。

「みんな、誤解しないで。
犯人は七井さんじゃないよ。
絶対違うの。

私は誰だかよくわかってるけど、ここでは言わないわ。
けど、七井さんじゃない。

翔子ちゃん、疑われて可愛そうに……私の守護霊様が真犯人を教えてくださったのよ。
ああ、よかったわ」
こうして私は、久美子ちゃんのご託宣によって犯人扱いされることを免れ、救われました。

誰もが久美子ちゃんの言うことを信じ、誰もが私に「疑ったりして悪かった」と謝罪してきました。

そして、彼女は当然私からの御礼の言葉を待っているようでした。

でも、私は見えない恐怖におののいていて、それどころではありませんでした。

吉河くんはその頃、同じ車両にも乗ってくれなくなりました。

何故か私は彼に避けられているような気がしてなりません。

学校に行くと久美子ちゃんが私に言いました。

「七井さん、もうすぐ15日ね。
私の霊感でひらめいた“5のつく日”なのよ。

吉河くんのところには一緒に行ってあげようか。
あなたの想いが叶うかもよ」
私は叫びだしたくなる想いをこらえながら必死で言いました。

「ね、久美子ちゃん、どうしてみんなに私の好きな人をバラしたの」
私の声はぶるぶる震えています。

すると久美子ちゃんは優しい顔で言い放ちます。

「……えっ。
なんのこと?」
私は怒りよりも怖さのほうが先に立ち、言葉が氷のように凍えてしまって融けていきません。

そして、久美子ちゃんは限りなく優しい顔で言いました。

「泥棒のクセに」
彼女は優しく微笑んでいます。

あまりに彼女の微笑みが美しいので、最初は何かの聞き間違いかと思いました。

でも、彼女は菩薩のような顔のまま続けて言いました。

「佐伯さんのお金盗ったのあなただってこと、みんなに黙っててあげてるのはこの私なのよ。

なのになぜあなたは私に感謝しないの、この泥棒」
いつの間にかクラスメートたちは久美子ちゃんの霊感によって影響され、動かされていました。

久美子ちゃんのご託宣なしでは何もできない子も出てきました。

私は『この泥棒』という言葉がショックで、ただひたすら怖くて誰にも相談できずに15日を迎えました。

その日の朝、吉河くんは久しぶりに私と同じ車両に乗ってきました。

そしてなんと、彼は私に近づき話しかけてきたのです。

「あの、七井さん、でしたっけ?」
一度しか話したことがないのに、彼は私の名前を知ってくれていました。

唐突に話しかけられて私は、完全に舞い上がってしまっていました。

「あの、君のクラスメートに野田久美子って子、いる?」
吉河くんが小さな声で私に問いました。
私の心臓は張り裂けそうでした。

「います」
久美子ちゃんのことです。

「なんか、僕のところに電話がかかってきて」
彼は困惑しているのが明らかでした。

「え?」

「最初の電話は、同じ車両に乗ってる○○女子高の七井翔子って子が、あなたのことをとても嫌っていて、

同じ車両にいるのが迷惑みたいだから、あまり顔を見せないほうがいいって」
「え、私そんなこと言ってません」
私は必死で否定しました。

「やっぱりそうか。
僕は君の迷惑になるのがイヤだから、ずっと君のことを避けていたんだ」
そうだったのか。

でも、誤解は解かなくてはならない。
私はとても焦りました。

「迷惑なんかではありません」
私はそう言うのが精一杯でした。

「でね、昨日も家に電話があって、

七井翔子って子が明日、あなたに告白するかもしれないけど、それはあなたを陥れるためにやってることだ、とか、

なんだか支離滅裂なことを言ってきて。

なんだか様子がヘンだったんだ。
何か心当たりはないかな」
久美子ちゃんの一連の行為に、ハッキリと私への悪意がこめられていることを初めて知った瞬間でした。

「あの、それは全部、まったくデタラメです。
私、吉河さんのこと、」と言いかけて、ふと視線をずらしました。

その視線の先には久美子ちゃんがいました。
ものすごい形相でこちらを睨んでいます。

私は声を失い、その場に倒れそうになりました。

「七井さん、大丈夫?」
吉河くんが私の肩に触れました。

すると次の瞬間、久美子ちゃんの声が届きました。

「泥棒のクセにっっ!!吉河くん、その子に触ると不幸になるっ!」
私は恐怖で泣き出してしまいました。

その日、私は学校に行けず、家に帰って布団を頭からかぶって寝ていました。

その日の夕方、菊池さんと担任が私の家にやってきました。

そして、担任の口からは恐ろしい顛末が語られました。

「弟さんが行方不明になった亜由ちゃんがね、『弟を連れ出したのは久美子ちゃんだ』ってご両親に伝えて、

今日、全部バレたの、彼女の自作自演が」
菊池さんは青ざめた顔をしています。
私は怖くて声も出ません。

「最近、クラスで物が頻繁に無くなってたでしょ。

でも、すぐに久美子ちゃんが霊感で探し出してて、それを不審に思ってた子もたくさんいたの。

どっちにしろ、バレるのは時間の問題だったかもしれないのよ」
「R高校の吉河くんにも、嘘の電話をしていたみたいです」
私がようやく声を出しました。

「そうね、つじつまを合わせるために、後から自分ですべて動いていたらしいの。

最近は吉田さんのお宅の子犬がいなくなって、その子犬はもう死んでいるって……

でも、彼女の予言どおり、本当にその子犬の死体がね、学校の花壇の茂みの中から見つかったの。

屋上から落とされたみたいな、ぐちゃぐちゃの……」
私は小さく叫びました。
吐きそうになり、耳を塞ぎました。
怖い。
怖い。
怖い。

菊池さんが言いました。

「矛盾してるけど、久美子ちゃん、翔子のことは好きだったのよ、きっと」
私は何も分かりたくありませんでした。

とにかく、私の脳裏には死んだ子犬の骸だけが古錆のようにこびりついて、しばらく私から離れていきませんでした。

5日後、私はようやく調子が戻り登校しました。

久美子ちゃんは来ていませんでした。

菊池さんの話だと、隣の地区の高校に転校したということでした。

あれほど彼女のご託宣を綱にしていたクラスメートも、もうすっかり彼女のことは忘れてしまっているようでした。

自分の席に座ると、机の中に手紙が入っているのを見つけました。

私はそれを手に取り、裏側を見てみました。
そこには『野田久美子』という丸い文字が踊っていました。

私はゆっくりと封を開けました。

蛙のイラストがついた便箋に、彼女の丸い文字が記されていました。

『翔子ちゃん、私は転校しちゃうけど、何か困ったことがあったらいつでも私に訊いてね。あなたはずっと私の友達よ。』

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