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忘却の花園|大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談03

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第3話:忘却の花園

今日、貴方にお話したい事があります。

私は最近まで、霊界とか、幽霊とかは一切信じなかった人間です。

しかし、この『臨死体験』とも『幽体離脱』とも言い難い体験をしてからというもの、私の考え方は変わりました。

このお話は、貴方が期待するほど怖くはないかもしれません。

しかしこれは、『生きとし生けるもの』へのメッセージです。

私は某フルコンタクト空手の道場に所属している者です。

今年で空手歴9年になる私は、技にも磨きがかかってきました。

そして、晴れて『空手選手権大会』に出場出来ることになったのです。

私は、東京で行われる大会の開会式に向かうため、電車に乗り込みました。

ちなみにフルコンタクトとは、完全なる当て身の空手です。

顔面への拳や肘による攻撃と、金的蹴り以外は、打撃が認められている格闘技の事です。

東京で行われる今回の大会は、すごい観客数が期待されていました。

「10時……くそー、まにあうかな。もっと早く出ればよかったなぁ……」

私はとても焦っていました。

出場選手が開会式に遅れたら、所属道場の恥です。

なのに何らかのトラブルが発生したらしく、電車は途中の駅で数十分の停車を余儀なくされたのです。

私の気分は険悪そのものでした。

ようやく目的の駅に着いた私は、会場に向けて一も二もなく走り出しました。

ところが急いでいるときに限ってトラブルが重なるものです。

ある商店街を駆け抜ける際に、向こうから数人で歩いてきた、見るからにガラの悪そうな男たちの一人に肩がぶつかってしまったのです。

私はマズイことになったなと思いました。

が、とにかく急いでいたので、「あ、すみません」と頭を下げ、そこを去ろうとしました。

しかし案の定、相手はそれで済ましてはくれませんでした。

「待てよ、オイ。人様にぶつかっといてそれだけか?もうちっと謝り方っつうもんがあるだろうが、オー?」

男がそう言っている間に、一緒にいた仲間たちが、スルスルと私の周りを囲みました。

普段の私ならとにかくおだやかに済ませようとしたかもしれません。

しかし、これ以上長くなっては大会に間に合わないと思ったのと、それ以上に電車が遅れたおかげでイライラしていた私は、つい

「なんじゃい、ヤルっちゅうんかい!それならはよ来んかい!こっちは忙しいんじゃ!」

と、いきまいてしまったのです。

格闘家として、体や技はもちろん、心も鍛えていたはずでしたのに……

まだ未熟だったようです。

とにかく私の言葉を聞くやいなや、正面の男が殴りかかってきました。

しかしもちろん、その拳を避けることくらい私にとっては造作もないことです。

私がわずかに頭を動かすと、耳元で男の拳が空を切ります。

そして反射的に反撃しようとした私は一瞬ためらいました。

学んだ空手をケンカに使うことは固く禁じられていたからです。

その一瞬のためらいが命取りでした。

背後に動きを感じたかと思うと、次の瞬間、後頭部に激痛が走りました。

そこで私の記憶は途切れています……

ふと気が付くと、私は部屋の椅子に座っていました。

家には誰もいないようです。

そして不気味なくらい静かだったのを覚えています。

日が高いせいか部屋に差し込む光も少なく、家の中は薄暗い状態でした。

「ああ、外に出たい。外はいい天気だろうなぁ」

まるでカメラのストロボを焚いた時のような眩しい閃光の後、場面が変わっていきます。

そう心の中で思った次の瞬間、私は広い草原の上に寝転んでいたのです。

そこは素晴らしく天気のいい所でした。

そして次に私は考えます。

「ああ、こんな草原にはきっと、鳥が飛んでるんだろうな」

すると鳥のさえずりが聞こえています。

そして、なんだか少年の日に帰ったような気分です。

「気持ちいい!天にも昇る気分だぁ!」

そう思いました。

しかし、そこで突然、恐怖感に襲われたのです。

「あれ……俺は何してるんだろ……俺は誰だ?そしてここは……」

記憶喪失の人が感ずる恐怖が、あの時、わかったような気がします。

自分が誰である事でさえわからないのですから。

「うわあああー!」

そう叫んだかと思うと、またあの閃光が私の眼をかすめました。

そして、私は覚醒したのです。

私はベッドの上に寝ていました。

何人かの人が私の顔をのぞき込んでいます。

その中には見覚えのある人の顔もあります。

「大丈夫?」

そう尋ねかけてくる人間は、どこかで見たような気がするのですが、どうしても思いだせません。

そして自分が誰であるかさえもはっきりしないのです。

動こうとすると身体がやけに痛みます。

右の頭がとても痛み、ガンガンしていました。

いくら思い出そうとしても私の記憶は戻りません。

そんな事を繰り返していると急に、片目がスーッと見えなくなってしまったのです。

「わあぁ!」

光を失った目の方に自分の手をもっていこうとしました。

その時、自分の手首に包帯が巻かれているのに気付きました。

どうやら手の骨が折れているようなのです。

「大丈夫かい?大丈夫かい?」

そう何度も聞いてくる人の顔を見ていると、様々な記憶が一気に湧き上がってきました。

「か……母さん?!」

そうです、そこには私の母がいたのでした。

「あれ、さっき俺は家にいたはずなのになぁ……ここはどこ?」

そんな事を言うと、母さんは、

「なにいってるんだよ。あんた空手の大会へ行く途中で……」

半分怒っていますが、目に涙を浮かべています。

「あ……そうか……。俺、空手の試合へ」

どうや、あの男たちにやられたようです。

その時、なんともいえない恐怖を実感しました。

それは、もう一つの世界を目の当たりにした恐怖です。

大きな事故は痛みなどを超越してしまうようです。

現に、あの原っぱでは腕の痛み一つ感じませんでしたから。

ただ……たとえようのない快楽が私を支配していました。

もし私があのまま死んでしまったなら、自分の死を認識できなかっただろうと思います。

みんな、死ぬときはあんな感じがするのでしょうか。

神だけがなせる技……そう思いました。

人間の抜け殻は過去の自分を忘れ、『忘却の花園』へ辿り着くのみなのだと思います。

気がつくと涙が流れていました。

[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]

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