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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

■セーターの女

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117 :怖いお話ネット:2024/06/18(火) 13:45 ID:8f3B7c5

去年の今頃の話だが、あの出来事はまるで昨日のことのように鮮明に思い出せる。その頃、俺は昔のSF小説にどっぷりとハマっていた。物語の中で繰り広げられる勧善懲悪の世界に心がスカッとし、復刻版の文庫を次々と手に入れては貪るように読んでいた。

ある晩、本を読みながらそのまま眠ってしまった俺は、突然の気配に目を覚ました。部屋の隅に人が居るのが見えた。30代半ばの女性で、夏にも関わらずセーターと分厚いスカートを身にまとっていた。彼女は壁にもたれて座り、静かに本を読んでいた。

驚いたことに、その姿はあまりに現実感があったにもかかわらず、俺は怖くなかった。それどころか、どこか懐かしいような感覚すら覚えた。よく見ると、彼女は映画『アメリ』の主人公に似ていて、目が離せなくなった。

彼女がこちらに気づくと、優しく笑った。
「こういうの好きなら、タカシに聞いてごらん。まだあるから」
そう言って、持っていた本をこちらに見せた。俺が寝る前に読んでいた『スペースオペラ』だった。

そこで俺は目が覚めた。朝日が部屋を照らし出していた。夢だったのか、と一瞬思ったが、部屋の隅を見て驚いた。昨晩読んでいたSF本が数冊、きちんと積まれていた。そしてその一番上には、寝る直前まで読んでいた『スペースオペラ』が置かれていた。

これはただの夢ではないと確信し、頭を抱えた俺だったが、ふと気になった。彼女が言っていたタカシとは誰だろう?俺の周りでタカシという名前は父親しかいない。すぐに仕事から帰ってきた父に話を聞いてみた。

父は最初、「お前大丈夫か?」という顔をしていたが、俺が昨晩の文庫本と姉から借りた『アメリ』のDVDを見せると、その態度が一変した。
「姉ちゃんか…そういやもうじき盆だったな。よし、今度の休み墓参りに行くぞ。お前も来いよ」
父の姉ちゃん、正確には父の従姉だったらしいが、35歳で亡くなるまで独身だった。彼女は本と香水、そして古い香水ビンが大好きで、父よりも10歳年上で、父にとってはとても大切な存在だったようだ。

「何で俺のとこに出てきたんだろう?」と聞くと父は、「嬉しかったんだろう。姉ちゃん、こういう話が大好きだったからな」

その後、休みに父の実家を訪れると、父の言葉通りに物置から大量の本が見つかった。その中には、俺が読んでいた本と同じハヤカワSF文庫の初版も含まれていた。あの夜の彼女が言っていたタカシが、まさに父だったのだ。

時々、この人が今も生きていたら、どんな本を読んでいたのかと考える。そして、彼女が教えてくれたSFの世界を、今でも心から愛している。

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