私が体験した不思議な話です。
私の実家は小さな居酒屋を営んでいます。今では年老いた母が一人で細々とやっていますが、昔は繁盛しており、私も母を手伝っていました。
20年以上前のことです。店の常連客である中村浩二君と、姉の友達の山田恵子さんが結婚しました。皆祝福しましたが、その幸せは長くは続きませんでした。
ある日、恵子さんが家出してしまったのです。恵子さんの父親も、浩二君も突然のことに混乱して、助けを求めてきました。恵子さんが「好きな人ができて出て行くんだ」と姉に話していたので、知っていることはお教えしました。そして諸事情もあり、私と母と姉は彼らに協力することになったのです。
それからしばらく経ったある日のことです。
いつも通り満員だったお客様が、まるで干潮のように一気に帰っていきました。その時、先程帰った浩二君が戻ってきて、話を聞いて欲しいと言いました。彼は苦しんでいましたから、少しでも話し相手になりたかったのですが、何分、山盛りの洗い物が待っていました。私は仕事をして、母が話を聞くことになりました。
彼が帰った後、母が教えてくれたのは、「三日以内に見つかると、神様が言った」という不思議な話でした。その直前に恵子さんの父親が悪質な探偵業者に騙されたこともあり、どこで見てもらったのか、また新興宗教にでも騙されているのではないかと、私たちは心配しました。しかし、それが何と、本当に三日後に恵子さんが見つかったのです。
後日、母は浩二君に言いました。
「凄い神様だね。どこで見てもらったの?」すると、浩二君はキョトンとして、
「何それ。神様?恵子さんのお父さんが見てもらったの?僕は初耳だ」
と言いました。母はびっくりして「浩二君が私に話したじゃない」と言いましたが、
「えー!僕は言ってないし、見てくれる所も知らないし、そんな所あるなら教えて欲しいくらいだよ」という返事が返ってくるばかりでした。「あなたも聞いたよね」と言われましたが、私は確かに、浩二君との話の直後に母から聞きましたが、浩二君の口から直接聞いた訳ではありません。
母は今でも、絶対に浩二君の口から聞いたんだと言っています。ちなみにお二人は離婚されました。
その後、奇妙な出来事はさらに続きました。
離婚後、浩二君は居酒屋に顔を出さなくなりましたが、ある日、ひょっこりと訪れました。彼は少し痩せ、疲れた様子でしたが、何か重大なことを伝えたいようでした。
「実は、恵子の家出の真相を知ってしまったんだ」と浩二君は言いました。恵子さんが家出した理由は、新しい恋人の存在ではありませんでした。彼女は幼い頃から続いていた何かの呪いに悩まされていたのです。祖母の代から続く古い言い伝えで、家族の女性はある年齢になると家を出なければならないというものでした。その呪いを解くために、恵子さんは家を出たのです。
しかし、さらに驚くべきことがありました。恵子さんの行方を予言した「神様」の正体は、実は恵子さんの祖母の幽霊だったのです。浩二君は離婚後、恵子さんの実家を訪れ、祖母の古い日記を発見しました。そこには、家族に対する呪いと、それを解く方法について詳しく書かれていました。そして、その日記には祖母が幽霊となって家族を見守っていることも記されていたのです。
この話を聞いた時、私は鳥肌が立ちました。母も驚き、何も言えませんでした。呪いの影響で恵子さんが家出を余儀なくされ、その予言が祖母の幽霊によってなされたという事実は、現実離れしているように感じました。しかし、浩二君の話の信憑性を疑う理由もありませんでした。
この奇妙な出来事をきっかけに、私は不思議な力や見えない世界の存在について考えさせられました。私たちの日常の裏には、まだ解明されていない多くの謎が隠れているのかもしれません。今でも、居酒屋で一人静かに夜を迎える度に、あの時の不思議な予言と、浩二君の告白を思い出さずにはいられません。