おい、ちょっと聞いてくれよ。番組で網走の流氷撮りに行くことになってさ。カメラマンたちは先に行って、俺とディレクターは後から夜汽車で向かうことになったんだ。なんでかって?俺が汽車から降りるシーンから始めたかったんだって。
で、その夜汽車の寝台車に乗ったわけ。俺とディレクター以外には中年の女性くらいしかいなくて、もう寝てるみたいだったんだよね。で、俺たちはヒマだったから、チビチビ酒飲みながら話してたんだ。
すると、若い女の子二人が車両のドアを開けて、通り過ぎていくんだよ。一人が俺を見て、「あ、稲川さんだー!」って。俺も挨拶したら、ディレクターが彼女たちに声をかけて、「一緒に話しでもしない?」って。
で、話してるうちに、女の子たちが言うんだ。「本当は四人で来る予定だったのに、二人来れなくて…」って。で、彼女たちは関西の旅行好きなグループで、旅先で知り合って、よく一緒に行くんだって。
彼女たちの旅のスタイルは、観光地の土産物屋にあるガリ版刷りの情報を見て行くんだって。安くて楽しく、地元の人とも仲良くなれるって。
で、この前、島根県の日本海側にある旅館に行こうってことになったんだけど、流氷を見に来てる二人は会社の都合で行けなくなって。で、他の二人が「お土産買ってくるね」って出かけたんだって。
着いた旅館は高台にあって、古いけど立派な建物。中年の女性二人が出迎えてくれて、彼女たちはお風呂に行くことにしたんだ。
そしたら、廊下で台所の格子窓からジーっと見られてる気がして。でも、気のせいかなって思ってたら、友達の一人が「ぎゃあああ!」って叫んで、もう帰ろうって言い出すんだ。
「おばちゃんが透けた!」って言うんだよ。信じられないよな。でも、彼女はマジでビビってて。で、もう一人が街に出て雑誌とか買ってくるって言って、宿を出たんだ。
でも帰ってくると、宿が廃墟みたいになってて、部屋に戻ると友達が動かないんだよ。で、おばちゃんが「今度はあんたの番だねえ」とか言って。
女の子は逃げ出すんだけど、タクシーがなかなか止まらなくて。ようやく乗ったら、運転手さんが青ざめてて、宿は昔殺人事件があった廃業した場所だって言うんだ。
で、その友達は死んでて、生き残った女の子は精神を病んじゃったって。警察も何があったのか分からなかったってさ。こんな話、夜汽
車の中で聞いたんだよ。マジで怖かったぜ。
後日談
その後、地元の警察が調べたんだけどさ、その廃墟になった旅館、実はかなり昔に火事で焼け落ちてて、その後はずっと放置されてたらしいんだ。で、その姉妹が殺されたっていうのは地元の噂だけで、実際は火事で亡くなったって話だったんだよ。
で、さらに驚いたのが、その生き残った女の子が病院で言ったことなんだけど、「あの夜、私たちが宿に着いた時、実は既に火事の跡だったんだけど、何故か私たちは普通の旅館だと思い込んでた」とか言い出してさ。でも、その時は精神的におかしくなってたから、誰も真剣には受け止めなかったんだ。
で、その後になって、地元で「昔の旅館の幽霊を見た」とかいう噂が出始めて、調べたら、その女の子たちが宿泊した日に近くの住民が旅館の方向で何か見たって証言があったんだよ。なんか、旅館の火災の日に現れる幽霊っていう伝説があるらしくてさ。
それで、その女の子が「おばちゃんが透けた」とか言ってたのも、もしかしたら本当にあったことなのかもしれないんだよね。で、その友達が急死したのも、実はその旅館の呪いみたいなものが関係してるのかもしれないって話が地元で広まってるんだ。
いやはや、本当に不思議で怖い話だよな。あの夜、何があったのか、本当のところはもう分からないけどさ。でも、あの女の子たちが見たものが幽霊だったのか、それとも何か別のものだったのか、考えるだけでゾッとするよな。
あ、それから言い忘れたけど、その話の続きがあるんだよ。
その後、生き残った女の子が退院してから、何人かの心霊研究家やオカルトに詳しい人たちが彼女に会いに行ったんだって。彼らが何を話してたのかはよくわからないけど、その女の子は何かを思い出したみたいで、「あの夜、私たちが見たものは、本当にあったんだ」と言ってたんだ。
で、なんとか彼女が言ってたのが、「宿に着いた時、何か変な感じはしたけど、疲れてたから気にしなかった。でも、今思えば、あの場所は何かがおかしい。あの夜見たものは、旅館の火事で亡くなった姉妹の霊だったんじゃないかと思う」とか。
それと、彼女がもう一つ言ってたのが、「あの夜、私たちが見た旅館は、火事で焼け落ちた後の廃墟じゃなくて、火事が起きる前の旅館そのものだったかもしれない。時間がねじれて、過去の世界に足を踏み入れたのかもしれない」と。
それ聞いて、俺もぞっとしたよ。時間がねじれるって、なんかSFみたいな話だけど、あの夜のことを考えると、何が本当かわからなくなるよな。
それで、その話を聞いた心霊研究家たちが、その後もその旅館の場所で調査を続けてるらしい。彼らも「あそこには何かがある」と確信してるみたいでさ。
まあ、とにかく、あの夜のことは今でも謎のままだよ。でも、あの女の子たちが体験したことが本当なら、本当に恐ろしいことだよな。こんな話、夜汽車の中で聞かされると、寝付けなくなるよ。
(了)
稲川淳二名作怪談オマージュ作品