俺の爺ちゃんの話。
411 :本当にあった怖い名無し:04/10/01 10:32:36 ID:ZfFq3eSI
爺ちゃんは物心付く頃には船に乗ってたという、生粋の漁師だった。
長年海で暮らしてきた爺ちゃんは、海の素晴らしさ、それと同じくらいの怖さを、よく寝物語に語ってくれた。
中には「大鮫と七日七晩戦い続けた」とか、
「竜巻に船ごと巻き上げられた」などの、突拍子もないエピソードもあったりしたが、
幼い俺には、酒の入った赤ら顔でトンデモ武勇伝を語る、
そんな爺ちゃんが、漫画やアニメのヒーローなんかよりも、ずっと格好良く思えた。
そんな爺ちゃんがある時、普段とは違う真剣で怖い顔をして話してくれた。
爺ちゃんが仲間達と漁に出たとき、突然海の真ん中で船が何かに乗り上げて座礁したという。
海図には、その辺りに暗礁や島があるようなことは書いてないため、おかしいと思い、
船の下の様子を見ようと、仲間の1人が海に飛び込んだところ、
なんと、海面が腰のあたりまでで足がついてしまった。
試しに爺ちゃんも飛び込んでみたら、水深1m強のあたりで確かに足が底を捉えたという。
そこから周りを歩き回ってみたが、船から20m以上も離れてもまだ先があったと爺ちゃんは語った。
仲間の一人は、水中に潜ったところ、赤茶色のデコボコした底を見たという。
未発見の暗礁か?→ここの海の深さではあり得ない。
鯨の死体か?→あまりにもデカすぎる。
などと意見を交わしてうちに、仲間の一人がポツリと呟いた。
「こりゃあ海ボウズってヤツじゃねぇのか?」
『海ボウズ』
古来から漁師達に恐れられた、伝説の海の怪物の名である。
普段なら笑い飛ばすようなそんな言葉も、目の前の現実を前に、爺ちゃんは背中がゾッとしたと言う。
その内に、言い出したヤツが船の舳先にしゃがみ込んで、一心不乱にお経を唱えだした。
爺ちゃん達もそれに倣い、全員でしゃがみ込んで「ナンマイダブ」と唱えたという。
爺ちゃんはその時に心の中で、『家に帰りたい、生きて帰りたい』と願い続けた。
その念仏が効果があったのかどうか、しばらくするとズズッ!と大きな震動が船を揺らしたかと思うと、船が乗り上げていた『何か』は、跡形もなく消えていたという。
恐怖に駆られた爺ちゃん達は、漁を切り上げて大急ぎで港に戻り、見てきたことを皆に話したが、やはり誰にも信じてもらえなかった。
そして、その後も同じ場所で漁をしたが、あの『何か』に出会ったのは、結局それっきりだったらしい。
爺ちゃんは話の最後を、こんな言葉で締めくくった。
「アレがなんだったのか知りたい時期もあったが……結局は諦めた。ありゃあきっと、人間が関わっちゃいけねぇもんなんだ」
今でも現役の爺ちゃんは、漁に出る前には、必ず仏壇と神棚に手を合わせて願うのだそうな。
『無事に帰れますように、大漁でありますように、もう二度とアレに出会いませんように』と……