昔、山で遭難しかけた事がある
870 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/11/25 16:21
叔父と祖父の趣味が狩猟だったので、当時厨房だった俺はよく山について行った。
その時は福島の某山。
山に行くって言ってもハイキングじゃないんで、当然道らしい道なんて無い。
そんな地元山師しか通らないような道を歩いているうちに、俺はどっかでチャリ鍵を落としてしまったらしい事に気付いた。
祖父はかなり迷信深い人で、日頃から山での注意事項を散々聞かされていたんだが、その中に
「山で無くし物をした時は探しちゃいけない」
というのがあったんだけど、厨房としてはチャリ鍵がないと非常に困るわけで…。
幸いまだ早朝で日も高かったので、俺は「自動車に忘れもんをした」と嘘を吐き、かわいがっていた猟犬を一頭連れて、来た道を戻り始めた。
まぁ正直、獣道に等しい山道でチャリ鍵を探すなんて正気じゃない。
小一時間程山を降りたが当然鍵はなかった。
猟犬を頼りに山道を祖父たちの元へと戻って行くと、妙な事に俺は気がついた。
山は昼夜問わず音に満ちてるもんだ。
鳥の声や得体の知れない虫の鳴き声、それらが一切聞こえない。
ナ ン カ ヤ バ イ
見ると猟犬は、尻尾を股に挟み酷く怯えていた。
得体の知れない恐怖で俺は、いっぱいいっぱい。
まだ昼前だっていうのに冗談ジャナイ!
俺は一刻も早く祖父達と合流したくて足を速めた。
ザザ…ザ…ざぁ…ざざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ
何かが、俺の後を追いかけてくる音がする!
薄情にも、俺を抜きさり走り抜ける猟犬。
とてもじゃないが走れるような道じゃないのに、藪を揺らす音はすごい勢いで近づいてくる!
ざざざざざざザザザザザザザッザ…
音が止んだ…ナンカ猟犬が戻ってきた。
俺は走る!走る!少しでも距離を離したい!
だが俺は確かに聞いた。
何かが止まったときに聞いてしまった。
「… オ イ テ イ ケ …」
どこをどう走ったかもわかんない、地図も磁石も無い。
これが山でどれだけ絶望を感じさせるかわかるかな。
もう気持ちも肉体も恐怖も限界だったワケワカンナイ。
犬は小便もらしてたし、俺は泣きながら必死に逃げた。
周りは緑につぐ緑。
振り向けば 「ソレ」 がいそうで 俺は止まれなかった。
いつのまにか鳥の声が、祖父や叔父が撃ったであろう銃声が戻った。
本当に劇的に普段連れてきてもらう俺の知っている山に戻った。
時計を見るともう昼過ぎ…
あぁもう駄目だな…と観念したよ。
どうあがいても明るいうちに合流なんてできない。
第一、ここはドコナンダ?
落ち着く為にヤニを吸う俺。
早朝に家を出たので食事もまともにとっていない。
空腹を満たそうにも、食料は全部叔父のリュックだ。
それでも、とぼとぼと歩くしかない。
幸いにも十分ほど歩いたところで、ロープの張られた山道にでた。
これで下山できると道を下る俺は、道祖神?を見つけた。
それには何故か、生魚(生きてた)が供えられており、俺は手ごろな枝で串刺しにして、もっていたジャンプを火種にして、犬と半分ずつ魚を焼いて食べた…
今ならアリエナイけどね。
物凄く美味い魚だったよ…
うまかったんだよな。
ほどなく林道に出た俺は、山菜取りにきてた地元民に送られ叔父の車まで戻った。
祖父も叔父もめちゃくちゃ怒って、泣いて安堵して…。
猟犬もうれしそうに尻尾を揺らしてた。
獲物や荷物を積み込み、犬を車に乗せようとすると一匹見当たらない…俺といた犬がいない…。
「ぎゃいーん!」
犬の声がした。
猟銃を片手に声の方に走る祖父と叔父!
少しして戻った祖父は犬を連れていなかった。
「死んどった」
簡単に埋葬してきたそうだ。
俺は何も言えなかった。
車中やけに皆無口。
それ以来、祖父が俺を山に連れて行ってくれることは無かった。
俺も行きたいとも思わない。
そんな祖父も先日亡くなり、祖父をしのびつつ交わす酒の席。
昔話に花が咲き、山の話から俺の遭難事件まで話はおよんだ。
叔父は言った。
「あの時の犬はかわいそうな死に方だった」
「舌を噛み千切られるなんてマトモな死に方じゃない」
「S(俺)ちゃん…あの時なんかあったんじゃないの?」
…俺はあの時、あの山で何を置いてきてしまったんだろう?
山のルールを破ったからなんだろうか。
実は今の俺には、味覚という感覚が ない。