当時小学校低学年だった私は飼育係で、校庭の隅にある小屋には何匹かうさぎがいました。
272: 本当にあった怖い名無し:2010/09/14(火) 21:51:48 ID:iRZw8obw0
掃除当番で小屋に向かうと、乱暴者でいじめっ子の上級生(男)が小屋の中で何かしているのを目撃しました。
私も彼に苛められた事があるのでどうすべきか迷っていると、彼は私の視線に気付いたのか、驚いて走り去っていきました。
急いで小屋に入ると、薄汚れたうさぎがぐったりとしているのを見付けました。
うさぎの前脚に血が滲んでいて、どうやら彼はうさぎを苛めていたようでした。
応急処置をしようと思ってうさぎを抱き上げると、それと目が合いました。
私はうさぎの顔を見て、危うく悲鳴を上げてうさぎを落としそうになりました。
うさぎには目が一つしかありませんでした。
しかも、顔の中央に付いているそれは人間の目でした。
正直怖かったのですが、飼育係として何とか堪え、小屋に備え付けてある薬箱でうさぎの治療をしました。
そのうさぎを小屋に戻して掃除を始めようとした時、私は何か妙な音を聞きました。
文字に表すなら「ヒュル、ヒュウルル」という感じの口笛のような音です。
風の音かと思っていると、その音に混じって機械音のような高い声が聞こえたんです。
「ヒュウ、ヒュルル……ジコ、ジコ」と。
発音は『事故』のアクセントでした。
驚いて辺りを見回すと、また声がしました。
「ヒュルル、ギスケ、ギスケ」
それはさっきうさぎを虐めていたクラスメイトの名前でした。
気のせいではないと確信すると、さっきの一つ目うさぎと目が合いました。
愕然とする私の前で、うさぎは
「ヒュルル、ツブレル、ツブレル。ウデ、ウデ」と言ったのです。
私が思わず「どうして!?」と聞くと、
うさぎは「ヒュル、インガ、インガ」と答えました。
信心深い祖父母によく言い聞かされた、『因果応報』の事かと思い当たりました。
実はギスケは以前、遊び半分でうさぎの腕を折ってしまった事があったのです。
親がいわゆるモンスターペアレントで、教師は注意しか出来なかったようです。
そして、このうさぎも腕に怪我をしている事から、彼はまた同じ事をしようとしたのでしょう。
驚きと恐怖のあまり、私はそこから逃げ出しました。
次の日、小屋に行ったのですが、一つ目のうさぎの姿はありませんでした。
あれは夢だったのだろうかと思って教室に戻ろうとすると、目の前にギスケが立ち塞がりました。
「お前、昨日見てただろう。先生にチクったら殺すからな」
そんな感じの脅しをされ、私が何も言えずにいると、不意にあのうさぎの声がしました。
「ヒュルル、ヒュゥ、サガレ、サガレ」
不穏なものを感じて、私が咄嗟に後退ると、次の瞬間ギスケの姿は消えていました。
飼育小屋の隣にある、補修工事中の倉庫の壁に立てかけてあった鉄筋がギスケの上に倒れたのです。
ギスケは鉄筋の下で、「腕が潰れた、痛い」と何度も叫んでいました。
見ると、ぺしゃんことまでは言いませんが、腕が鉄筋の下敷きになって潰れていました。
鉄筋が倒れる際の轟音と私の悲鳴を聞き付けた教師達がギスケを助け出し、彼は救急車で運ばれていきました。
呆然としていると、飼育小屋から視線を感じました。
振り向くと、扉には固く鍵をかけたはずだったのに、あの一つ目のうさぎが小屋の前に座っていました。
うさぎはあの独特の「ヒュルル」という声を出した後、
「返したぞ、この恩返したぞ」と、昨日聞いた機械音のような声とは違う、野太い男の声でそう言うと、駆け出して近くの茂みの中に消えていきました。
それ以降、そのうさぎに会う事はありませんでした。
もしあの時、うさぎを見捨てて帰っていたら、
私も鉄筋に潰されていたかと思うとゾッとします。
(了)