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短編 山にまつわる怖い話

おごっつぉ【ゆっくり朗読】2700

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俺には双子の片割れである弟と、俺達よりひとつ上の年子の兄貴がいる。

これから書くのは、兄弟三人で体験した、幼い頃の話だ。三人で話を補完したから、結構細かくまとめることができた。

俺と弟は幼い頃、実家前の山で、危うく神隠しにあいかけたことがある。深い山だ。

それを連れ戻したのは、兄貴だった。

その日、俺ら双子は、親が兄貴の相手をしていたすきに家を抜け出して、前の山で遊んでた。探検のつもりだった。

でも、いざ帰ろうとすると、"目に見えない何か"が俺達を取り囲んで歩いていることに気がついた。二十人ぐらい。

木々の間から家が見えるのに、歩けども歩けども、なぜか山から出られないんだ。

帰れないかもしれない。俺達は、あまりの恐ろしさに泣きわめいた。

そうしていたら、誰かが俺達を呼ぶんだ。

兄貴だった。

俺達は必死で兄貴に呼びかけた。

兄貴は、当時家で飼ってた黒い雑種犬『クロ』を連れてきていた。

クロはすごいうなってた。よく覚えてる。

兄貴は山のきわまで来ると、俺達をみつけ、リードを解いて《見えないものたち》にクロをけしかけた。

クロは吠えまくりながら、《見えないものたち》を蹴散らした。

俺と弟は、兄貴のいる山の外へ走った。

あともう少し、というところで俺は髪を捕まれ、引きずり倒された。

振り返ると、至近距離で、崩れた《ナニカ》が、俺の髪を食ってた。

もぐもぐしてる口元が、だんだん見えてくるんだ。

ぼそぼそに皮が剥げてた。

周りにはまだ姿の見えない他の《ナニカ》も集まってきていた。

死ぬ。幼心に、そう悟った。

すると次の瞬間、そいつに石がぶつかった。

石は次々と飛んでくる。

兄貴と、先に抜け出した弟と、知らない子供だった。

《ナニカ》たちはひるんで、俺から離れた。

そこへクロが突撃し、俺はあわてて山の外へ飛び出した。

《ナニカ》たちは山の外へ出られないようで、悔しそうに山中へ戻っていった。

しかし、俺の髪を食ったやつは、じっとそこにいた。

目は見えなかったけど、俺を見つめていた。

と、俺とそいつの視線の間に、見知らぬ男の子が立ちふさがった。

小学生ぐらい。教科書で見るような弥生髪、裸足で、真っ白な着物みたいな格好をしていた。

その子は、俺を見続ける《ナニカ》をにらんで、山へかえれと言い放った。

よく通る、強い声だった。

唇だけの《ナニカ》は、クチャクチャ口を動かしていたが、男の子のにらみに負けたのか、山の影へと消えた。

そのあとのことは、俺はあまり覚えていない。

安心しきって、大泣きに泣いてた。兄貴によると、つられて弟も泣いたらしい。

男の子は俺達に、家に戻れ、と言った。

涙をぬぐった瞬間、男の子は姿を消していた。

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家に帰ると、大騒ぎになっていた。

後年に両親から聞いたのだが、俺と弟がいなくなってから、半日もたっていたらしい。

体感時間は一時間ぐらいだったんだけどな。

双子が消えたことに気がついた母は、その後、兄貴も姿を消したことに気がついて、パニックになっていた。

すわ警察……というところで、兄貴が泥だらけの俺達を連れ帰り、クロが傷だらけになっていたので、別の意味で大騒ぎになった。

なにがあったのか、兄貴が話す。

大人たちの顔が青ざめていく。

俺が泣きながら髪の毛を食われたことを伝えると、じいさまはハサミを持ち出して俺の髪を切り、家の前、山と家を分ける川にそれを流した。

それから、集落の氏神様のところへ行って、お神酒を下げてもらい、微量を飲まされた。

三人で「苦い苦い」と騒いで、じいさまにえらく怒られたのを覚えてる。

あまったぶんは頭から振りかけられた。

そして、仏間でご先祖様方に報告すると、三人で正座をさせられ、こってりしぼられた。

俺達は泣いた。兄貴も泣いた。ここが一番地獄絵図だった。

ちなみにクロは、功労賞(サバ焼き丸ごと一匹)をもらって、ご満悦にしっぽふってた。

ここからは補足。

後日、そういうことに詳しいおばあさんに話を聞くと、おばあさんは俺達を見て、くすくす笑った。

いわく。俺と弟には、神様をまつる祠という意味の名前があるから、いろんな神様に守られている。気に入ってもらえる。

ただし、お前たち双子はそのおかげで、よくないものたちからすれば、よだれが出るぐらいの『おごっつぉ』だ。(俺達の地域で、ごちそうの意)

食べれば力がつく。だから、悪いものが寄り付きやすい連中から、タチの悪い嫌がらせとか受けるだろうけど、がまんしなさい。これから先危険なことをするなよ。

とクギを刺されて家に帰った。

以上が当時体験した、神隠しにあいかけた話です。

俺と弟は、現在にいたるまで、勝手に恨まれて凄まじい嫌がらせをうけたことが何回かありますが、ゆく先々の神様に気に入られるためか、そいつらが羨むような好運に恵まれています。

それから兄貴は、半年後に事故で一度死にかけましたが、父方の義曾祖母(故人)につれて帰ってもらったためか、《おごっつぉ》の仲間入りをしてしまったようです。

例のおばあさんには、おごっつぉ三兄弟だと笑われました。

しかし兄貴は、手足や言語の自由と引き換えに強運を手に入れたようで、一人SECOMしています。

今は双子で東京に就職し、訓練校に通う兄貴と三人暮らしをしています。

この話も、三人で家飲みしてて思い出した昔話です。

25: 次男 2014/06/19(木)13:46:44 ID:KZhZrKqIY

(了)

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