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短編 家系にまつわる怖い話

ある豪農一族の呪われた家系の秘密【ゆっくり朗読】8300

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これから書くお話は、実話です。

私たち一族を知る方には、記述内容から登場人物がバレるかもしれませんが、わずらわしさを断ち切りたい一心で、思いきって書きたいと思います。

私の父は、田舎の大きな農家の分家の出です。

その本家は、父の実家である分家から竹林ひとつはさんだ北側にあります。

私が小さい頃は、父に連れられてよく父の実家に遊びに行き、ついでに本家にもお邪魔しました。

その本家には、私よりいくつか年上の従兄弟が二人いました。

お兄さんの方は生まれつき体の骨が一部足りない障害を持っていましたが、二人ともいつも私とよく遊んでくれたので、幼少の私は本家が好きでした。

その本家は地元の大地主で、家のつくりもとても大きかったんです。

私たちはいつも居間でだけ遊んでいました。

居間を出るときは、すぐそばにあったトイレに行くときくらいでした。

ある日、例によってなにかの親戚のイベントで本家に遊びに行きました。

そのとき、理由は忘れましたが、家の中をひとりで歩くハメになったんです。

正直、子供の私には家の構造が複雑すぎて、迷いました。いつのまにか、昼間なのにせまくて暗い一角に迷い込んでいました。

いまでも、この家のどこかにある居間では、親戚が談笑しているに違いない。大声を出せばいいのでしょうが、気の弱い私にはそれができませんでした。

『家の中で迷って騒ぐなんて、デキの悪い子』みたいに思われたくなかったんです。

ふと廊下の奥を見ると、廊下の奥に人影のようなものが。

全身を漫然と包んでいた緊張感が、一気に目前の人影に集中しました。

誰かが座っているようなのです。

『こんなところに、誰が?』

その人影は、全身黒っぽいような、茶色っぽいような感じでした。

廊下に面した一室の入口に背を向け、椅子に腰掛けているようでした。私は、その人影を右側から見ている位置取りです。

当時からビビリだった私は、カチンコチンに固まって、しばらく動けませんでした。

しかし、その影は、ピクリとも動かない……無機物と対峙しているような感覚。

私は、ちょっとずつその影に近づいていきました。

そして、その輪郭がハッキリ見えたとき、腰が抜けるほど驚きました。

その人影は、『鎧』でした。

それは、テレビで見るようなハデなものではないですが、全体こげ茶色の、明らかに和モノの古いヨロイでした。

ビビリのガキでしたから、そりゃあ失禁するくらいの恐怖でした。

そこからは、ちょっと記憶が飛んでます。

なにをどうして居間に戻れたのかは記憶にありません。

しかし、なんとかかんとか家族のもとに戻れました。

……この話は、私がまだ小学生の頃のことでした。そして、私にとっては、これが話の始まりでした。

ことの真相を知るのは、これから十年近くたってからのことでした。

あの本家の鎧を見てから十年弱がたった頃。私は自分の人生でいろいろあって、親元からずいぶん離れて一人で暮らしていました。

そしてその間、親戚とはすっかり疎遠になっていました。

私が知らない間に、本家の従兄弟のお兄さんが結婚していたような始末です。

久しぶりに家に帰ったある日、従兄弟に子供ができたことを親から知らされました。

「なんだ、俺もおじさんかぁー」なんて言ったものの、親の顔色が良くない。

どうしたのかと思い、問い詰めてみたところ、

「実は、五体満足じゃないらしいんだよ……」

私は別に偏見などないので親に切り返したところ、突然親の歯切れが悪くなりました。

「こっちにまでとばっちりが来たらたまらないんだ……」

とか、

「おまえだけでも本家とのつながりを絶っておいてよかった……」

とか、あんなに親戚づきあいをしているのに、そんなことを考えていたのか……

なんて思いながら、私は例の鎧のことを思い出しました。

そう、親にはこのときまで話していなかったんです。

そこで、私は本家で見た鎧の話をはじめて親にしました。

すると、親の顔色が見る間に一変しました。

「おまえは大丈夫かい!?ヘンなことはなかい!?」

……そんなこと言われても、鎧を見たのはガキの頃だしね。

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母親が、大きな大きなため息を、ひとつつきました。そして、あきらめたように、本家の話をしてくれました。

それは、私がこれまで知らなかった……親が隠していた、本家の陰の部分でした。

本家は、倉から博物館行きのシロモノが出てくるような、由緒ある旧家。

農業を家業とし、あたり一帯の膨大な土地を持っていました。

そして、そこに大勢の小作人を住まわせ、働かせていたそうです。

本家の人間は、小作人たちに言うことを聞かせるため、暴力を使ったそうです。

その最たる暴力が、『拷問』でした。

小作人たちを拷問にかけるため、本家には専用の部屋がありました。

拷問部屋です。

あの大きな屋敷の中で拷問を受けながら、命を失った人も大勢いたそうです。

この拷問は、ずいぶん昔から行われていたとのことです。

しかし、先の戦争の終戦と同時に拷問の慣習はなくなり、拷問部屋も使われなくなりました。

それ以来、その拷問部屋は固く施錠し、『開かずの間』としたそうです。

「そして、人が近づかないように、扉の前に鎧を座らせてあるんだよ」

え!?……鎧!?

しかし、報われない小作人たちの無念は、拷問をやめた程度では消えなかった。本家の人間たちを許しはしなかった。

本家が気づかないうちに、本家に祟っているようなのです……

親が続けて語ったのは、耳を疑うような本家の系譜でした。

そのとき生まれた従兄弟の子(甥)は、男の子で嫡男。その子が五体満足で生まれなかった。

詳しくはわかりませんが、内蔵に問題があるようです。

その父親(従兄弟)も、本家の嫡男。

この従姉妹も、先天的に骨が足りません。外科的に人工の骨を埋め込んで、不自由ながらがんばっている。

その先代は、子供が生まれなかったので、分家からの養子(=父の兄)だった。

そうなんです、もっと早く、この不自然さに気づいてもよかったんです。

なぜ分家だけでなく、本家の跡取りが、私と従兄弟の関係なのか……

その前の代も、その前の代も、おかしなことがあったそうです。

生まれても生まれても死産だった代もあった。生まれてきた子の精神面に問題があり、なかったことにした代も。

そのたびに、遠くの町から婿養子を金で買ったり、分家の子を養子にしたり。その前の代も、その前の代も……

そうなんです。

代々、跡取り、嫡子がまともに生まれないんです。

「……マジで……?」

私は思わず……自分の家にある仏壇に目がいってしまいました。

私も戸籍上は長男(ひとりっこ)だけれど、早産で死んだ兄がいる……

「本家が気づいているのかどうかしらないけどね。
分家はみんな気づいてるけど、とばっちりがイヤだからなにも言わないんだ。
だから、おまえが一人暮らしを始めたとき、親戚から遠ざけたんだよ」

……そうだったのか、そんなことがあったのか。

あれから十年以上、私は他の親戚ともほとんど関わりを持っていません。

親の話では、本家は相変わらずだそうです。

まだ気づいていないのか、それとも気づいてどうしようもないのか。

もしかしたらこの話は、親戚一同の壮大な思い違いかもしれません。

この話が思い過ごしかどうかは、しばらくすればわかると思います。

いまはまだ子供の本家の跡取りが、将来健康な子を産んでくれればいいのです。

しかし、もしも次の代も、なにかあったら……

親戚一同、ますます『祟り』を信じて疑わなくなるでしょう。

そして、一族みんながバラバラになっていくのだろうと思います。

私の家庭は、工場勤めの会社員を父に持つ、平凡な家族でした。

だから、子供の頃は、こんな話の当事者になるなんて、夢にも思いませんでした。

ちなみに私もすでに家庭を持ちましたが、数年前に一人娘を病気で亡くしました。

関係あることかどうかはわかりませんが、疑いたくもなろうというもの。

書くことで、鬱屈とした思いを吹っ切りたかったんです。

……ちょっとすっきりしました。

お読み頂いてありがとうございました。

(了)

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