第15話:つり橋
私がバイト先の友人六人と、ある日、中国地方のつり橋にドライブに行った時のことです。
その日、私達は車二台に分乗しました。
前の車にはバイト先の店長、そして私達のグループ内で公認のカップル、後ろの車には残りの私を含む四人が乗り込み、私はドライバーでした。
山の中の深い谷に架かるつり橋……夕暮れが近づいてきました。
小雨が降り出し、うっすらと霧も出てきました。
つり橋の手前は広場になっており、晴れていればそこに車を停め、歩いてつり橋を渡り、帰ってくるはずでした。
つり橋の向こうは当時から行き止まりになっており、このつり橋は観光用に残された物らしい……
ところが広場まで来ると、前の車が急停車しました。
あれ……?
一向に動かない気配、私が様子を見に行こうとドアを開けた瞬間、前の車の後部座席に座っていた友人のカップルが車から飛び出してきました。
私も驚いて車から降り
「何かあったのかっ?」
叫んで近づこうとしたとき、二人は手を繋いで、すごい勢いで走り出し、そのまま広場の端のガードレールを飛び越えて、谷に身を投げてしまったのです。
私達は驚いてガードレールまで駆け寄り谷底を見ましたが霧で何も見えなかった……
店長は運転席でハンドルを手が白くなるまでしっかり握り、小声でブツブツと呟いていました。
「行っちゃダメだ……行っちゃダメだ行っちゃダメだ……行っちゃダメだ……」
私達は、警察に通報しました。
二人は当然ですが死体となって発見されました。
結局、心中という形になりました……
その後、店長の見舞いに行った私は、店長にあの時何があったのかを聞きました。
店長が言うには、あの時突然、車の前に小さな女の子が、霧の中から現れた……
危ない!と思って、急ブレーキを踏んで車を停止させると、その女の子は何故か笑っていた……
逃げようと思ったとき、車の周りを全く同じ顔をした子供達に囲まれていることに気付きました。
その時、店長の頭の中に子供の声が聞こえてきた。
『おいでよ……おいでよ……おいでよ……おいでよ……』
店長は
「行っちゃダメだ……行っちゃダメだ……行っちゃダメだ……」
ハンドルを握り、ひたすらお経を唱えた……
その時、後ろの二人が突然車から降りると、子供達と手を繋ぎ、一緒に走り出しました。
ガードレールの向こうへ……
崖へ向かって……
「こんな話、警察は信じてくれねぇしよ~。俺だって、もうあれが本当かどうかなんて自信ねぇよ……」
と店長は最後に私に言った。
その話を一緒に聞いていた別の友人が「また~、よくできた作り話だな~」と茶化すと、店長は一言
「本当だよ……二人はそれで死んだんだ……」
と言った……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]