第5話:きもだめしの夜に
私が中学生の頃住んでいた街の町内会では、よく地区の小中学校に通う児童を集めて、いろいろな行事が催されていました。
全体を仕切るのは中学三年の地区会長です。
その日は、恒例のキャンプの日で、途中に必ず肝試しがありました。
「よし、頂上までは分かれ道のない一本道だ。迷うことは決してない。ただ真っ直ぐ道に沿って歩け」
地区会長からコースの説明を聞いて、私たちは田舎道の、暗い納屋の前に集まっていました。
これはいつものことなんですが、肝試しの前に地区会長が怖い話を三つ位、皆に聴かせるんです。
暗闇の中だし、これから一人づつ歩いていかなければいけないので、その話はとても効果的で、恐怖でした。
地区会長の話も終わり、一人づつ名前を呼ばれ、納屋の向こうの細道の暗闇に姿を消して行きました。
「よ~し!お前行ってみようか!」
私は、少し湿った細道の上をボツボツと歩き出しました。
小高い山の上に続く道で、もちろん街灯なんてありません。
私は怖々歩いていました。
しばらくして目も慣れてきて、辺りを見回すことができるようになりました。
すると、向こうのカーブの先に古いお墓らしい物が見えてきました。
私は恐怖のどん底でした。
今こんな仕事(怪談作家)をしているので、以外に思われるかもしれませんが、私は子供の頃、極度の怖がりでした。
そういう時は、しばらくその場でジッとして後ろの人が来るのを待っていたんです。
あの時も、道の脇の石の上に腰を下ろして、後ろの人が来るのを待っていました。
すると、お墓の見える向こうのカーブから、誰かが杖をついて歩いてくるんです。
私はこの辺りに住む人だろうと思っていました。
足音は近づいてきます。ワラジを履いているようでした。
道をやけに擦って歩いてくるんです。
目を凝らして見ると、それはお婆さんでした。
それも、顔が血まみれの……
私はどうすることもできず、そのままお婆さんが通り過ぎるのを待っていました。
なのに、お婆さんは私の前まで来ると、ピタッと立ち止まったんです。
そして、こちらを見向きもしないで、ポツリと言ったんです。
「ソコォォォォォォォ………」
お婆さんは、まだ何か言いかけていましたが、その時、後ろから別の足音が聞こえてきました。
それは私の友人サトシでした。
フッとお婆さんの方に目を戻すと、既に誰もいなくなっていました。
私は神にでもすがるつもりで、サトシの方へ行こうと思って腰を上げようとしたんですが、お尻が石から動かないんです……
サトシも私を見てホッとしたらしく、
「今回の肝試しは怖いなぁ。ホントに道が暗いよ。それに、やっぱり地区会長の話が効いてるしな…でも安心だ!お前がいるし」
って言いながら私の方に寄ってきました。
私は「おいサトシ、今ここに血だらけのお婆ちゃんがいたはずなんだけど……見た?」と聞いてみました。
サトシは
「いや、また脅かそうとしてるな?俺は見てないぞ」って言ったんです。
「それよりお前ここで何やってんだよ?さ、また後ろがくるぞ。10m位間隔を置いて歩きだそう」
と、そう言ったんです。
私は「何だか分かんないんだけど、身動きがとれないんだ!助けてくれっ!」って言って助けを求めました。
サトシが手を貸してくれて、私は起き上がることができたんですが、サトシが顔を曇らせて黙り込んでしまったんです。
「サトシどうした?」って私が尋ねると
「おい、お前墓石の上に座ってたぞ……」って
言われて足元を振り返ると、私が座っていたのは、確かに女性の名前が彫られた墓石でした。
「まさか……あのお婆ちゃん……」
私は一人つぶやきました……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]