五歳になる娘と散歩で立ち寄った神社でおみくじを引き、三回連続で凶が出た。
こんな事もあるのかと驚きながら家に帰ると、嫁が訝しげな顔で言った。
「それ、どうしたの?」
見ると、娘がいつも抱いていた犬のぬいぐるみが無くなっていて、代わりに神社にあった小さな置物の狛犬を抱いている。
娘に聞くと、神社にいた時宮司姿の男が現れて、いきなり娘の腕を掴み、何処かへ連れて行こうとしたらしい。
その時、抱いていたぬいぐるみが男に噛み付いて、そのまま男と一緒に消えてしまったと言う。
もちろん私はそんな男には出会ってないし、神社では娘とずっと一緒にいたはずだ。
すぐに神社に問い合わせたが、娘が見たような宮司は存在しなかった。
翌日、犬の置物を神社に返しに行った際、待っていた神主が妙な事を言った。
「この狛犬は持っていて下さい。あとニ回、必ず娘さんを守ります」
私は、『あとニ回とは何の事か?誰が娘を狙っているのか?』尋ねると
「娘さんは神の供えとして選ばれました。あなたがくじを引いた数だけ災いが起こります」
それだけ言うと神主は押し黙ってしまい、あとは何を聞いても答えなかった。
その日の夜に一回目の異変が起きた。
自宅の仏間で人の声が聞こえるので見に行くと、五年前に亡くなった母が鎮座してお経を唱えていた。
母は娘を連れに来たと言う。
私はそれだけは止めてくれと頼むと、母は生前に見せた事もない狂ったような顔で
「やかましい!」と言って立ち上がり、娘の所へ行こうとした。
その時、地響きのような呻り声が聞こえたかと思うと巨大な白い犬が現れ、母の体を咥えて仏壇の中に消えていった。
私が急いで娘の所に行くと、娘は眠っていたが枕元に置いていた狛犬は無くなっていた。
神主は狛犬がニ回、娘を守ると言ったはずだが狛犬はもう無い……
私が翌朝、神社に行ってその事を話すと神主は
「狛犬は二体一対です。もう一体、別の体を成して娘さんの傍に在ると思います」と言う。
私は娘の周辺にあるそれらしき物を捜してみたが、なかなか見つからなかった。
ニ回目の異変は次の日の昼だった。
私が仕事で出かけてる間に、誰かが玄関のチャイムを鳴らした。
嫁が出ると、身長は2mを超えるかという大きな犬のぬいぐるみが玄関先に立っていた。
辺りには生臭い異臭がして、よく見るとそれは娘がいつも抱いていたぬいぐるみにそっくりだった。
嫁は驚いてドアを閉めようとしたが凄まじい力で跳ね返され、ぬいぐるみは家の中に上がりこみ、台所にいた娘の手を引いて何処かへ連れ去ろうとした。
するとなぜか、仕事に行ってたはずの私が四つん這いで走って来てぬいぐるみに突進し、歯でぬいぐるみをバラバラに噛み千切ったという。
私はその時の記憶が全く無い。
異変はそれ以降起きないが、私は神社に行ってもおみくじを引くのが怖くなった。
(了)